第27話 学長代理
三つの計画のうち一つ目が解決し、一週間が経つ。
二つ目の計画については、人選に難航している。
このままでは学長が同行という事態に陥る。
まぁ、学長はアヴィンに会いたがっているので、それはそれで良いのだろうが、長い間英雄学校を空けてしまうことになる。
この学校は、大災の英雄が居るということで、魔族や侵略者への抑止力となっていた。
学長がもし不在となれば、均衡が崩れクゥイルデの街すらも、どうなってしまうか分からない。
三つ目は学長とシルヴァス先生で順調に調査中だ。
私はリゼイルと、学長の部屋の近くまで来ていた。
学長が何か話したいことがあると、呼ばれていた。
「全く、学長…俺たちに何を話したいんだよ。折角、今日は休みだし、一日中エルフといいこと出来ると思ってたのにさ?」
「あはは…。」
ここ最近、リゼイルが生属性と死属性の適性を併せ持つ子供をつくりたいと、やけに頑張っている。
それに付き合わされる、私の身にもなって欲しい。
そもそも、エタルティシアとエリンダルフの相性は極めて悪く、ほぼ受精しないと文献にも残されている。
奇跡的に生まれたのがこの世界の人間の祖先だ。
ただ、私がこの世界で生を受けた時は、異星人とのハーフのエリンダルフだった。
でも例の衝突事件で、私の身体は母親と同じ純血のエリンダルフとなった。
一体、遺伝子レベルでは私はどちらなのだろう?
「絶対、エルフの子供だから、可愛いと思うんだ!!」
「また、そういうこと言って…。」
何故だろう。
以前は馬鹿馬鹿しく思えていたのに…。
今は何故だから凄く照れ臭く感じてしまうのだ。
──コンコンコンコン!!
勢いよくリゼイルが学長の部屋の扉を叩いた。
「こんなことするのは、リゼイルだろう?入れ。」
バレバレだった。
「流石、学長!!」
──ギィィィィッ…
褒めているのか煽っているのか、リゼイルは勢いよく扉を部屋の内側へ押し開けた。
「すまんな?ミュレーゼ。うちのバカ息子が。」
扉が開いた瞬間、聞き覚えのある声が聞こえた。
「マジかよ!?何で父さんが居るんだよ?!」
部屋の中を見ると、リゼルディアさんが来ていた。
学長が話したいことと、何か関係あるのだろうか?
「ん?リゼイル、分からないか?私の留守中、リゼにこの英雄学校を任せようと思ってな!!」
「はああああっ?!父さん、話受けちまったのか!?母さんは何て??」
まぁ、子供としては当然の反応だ。
だが、まずは学長の件について突っ込むべきだ。
どうして、英雄学校を留守にすることを決めたのだろうか?
「ああ、母さんは大喜びだったぞ?ミュレーゼが留守にするおかげで、私は学長代理に就任できるのだぞ?」
確か、リゼイルの家は普通の暮らしをしていた。
豊かでもなければ貧しくもないそんな感じだった。
それなら余計に妻としては、大歓迎だろう。
「あのぉ?学長!!留守中ってことは、私たちに同行するってことですよね?どんな理由でですか?」
思わず私は口を挟んでしまった。
この場で理由を聞かずにはいられなかった。
「こいつ、アヴィンに会いたいんだとさ?昔、アヴィンとは良い…んんっ?!」
「リゼ!!それ以上はもういい!!私から話す…。」
リゼルディアさんが言いかけたところだった。
学長がリゼルディアさんの口を両手で塞いだのだ。
「一度しか言わんぞ?私とアヴィンはな…昔、親密な付き合いをする寸前だったのだ。そこに、ユリエナが現れた…。あとは、エルフなら分かるだろう?あの気の強さで、アヴィンを我がものにしたのだ。」
何となく分かる気がした。
祖母のユリエナは気が強い。
アヴィンはユリエナの目を絶えず気にしている。
それに比べて、学長は言葉とは裏腹に結構女だ。
下手したら、学長が祖母だったのかもしれない。
学長はアヴィンを寝取られた感じになるのだ。
「マジかよ…。エルフのお祖母様って怖いな…。」
リゼイルはかなりどん引きしていた。
だけど、私もリゼイルに寝取られた感じだ。
エルミリスには本当に申し訳ないとは思う。
でも、私の両親の懸命さを考えると仕方がない。
エルミリスの母親を救う為にはリゼイルが必要だ。
繋ぎ止めておく為には、多少の犠牲は厭わない。
「ああ。ユリエナは大災の際、戦闘には参加しなかったしな?女のこの私でさえ、アヴィンやリゼと共に最前線で戦って居たのにな?」
そんな話を聞いてしまって、とても耳が痛い。
学長の隣にいたシルヴァス先生もため息をついた。
「やっぱり、私あの家飛び出して正解だった。」
「んっ!?」
急に先生は、私の母親の声に戻して口を開いた。
隣にいたリゼルディアさんは驚いた表情になった。
「リゼ、悪い。実はコイツ、シルヴァスは仮の名でなぁ?」
学長は、先生に対して顔で何か合図を送った。
「学長の言われている通りです。私、アヴィンの娘でアヴィエラと申します。」
既にリゼイルは知っているので、父親も知っておくべきか。
私のこともあるだろう。
「おいおい…。ミュレーゼ、それは早く教えろ!!アヴィンの娘ってことは、アヴィエラさん。髪の色からして…エルフちゃんの母親って事かい?」
確かに、息子のリゼイルが私の世話になっている。
父親からしたら、その道理を通したいはずだ。
「はい。エルフの母親です。ご子息には、お世話になっております。」
「いやいやいやいや。それはこちらも同じですよ!!うちのバカ息子が、お嬢さんの世話になりっぱなしで…。」
何だか、親同士の話が始まってしまった。
長くなりそうだったので、学長と私、リゼイルは一度部屋の外へと出た。
────
「本当に学長は良いのですか?」
「お前さんたちを見ていたら、無性に会いたくなってな?」
──グイッ…
急に学長が私の身体を自分の身体へと引き寄せた。
「学長!!ダメだぞ!!エルフは俺のだからな!!」
「エルフの良いところは、あの女に全く似ていないところさ。唯一、髪の色だけは同じなんだが…。凄く、アヴィンに似てるんだよ。」
先程から学長は、明らかにアヴィンを私に重ねて、ぼんやりとこちらを見つめている。
私を取られるかと慌てて声をかけたリゼイルは、学長のその姿を見て呆然としてしいる。
「リゼイルは雰囲気がアヴィンみたいだよな?まぁ、お前さんも会えばこの意味が分かるよ。」
ノリが良いところや漂う雰囲気が確かに似ている。
リゼイルはアヴィンとは親子でもないのだが…。
親のリゼルディアさんと比べてもその差は歴然だ。
「なぁ、エルフ?俺、そんなに似てるのか?」
「うん…。後先考えないところまで…そっくり。でも、そこがアヴィンの良いところなんだけどね?」
「はははは!!全く、歳を重ねても相変わらずなんだな…。アヴィン…。」
思い当たる節が学長にはあったのだろう。
思い出し笑いをすると暫く感慨深そうにしていた。
──ギィィィィッ…
「待たせたね。少しエルフちゃんの事について、話をさせてもらった。リゼイル、エリンダルフの街まで頼んだぞ?」
「そんなこと分かってる。俺は、エルフの決めることに従うまでだ。」
当人同士が居ないところで話をされても困る。
とは言え、部屋の外に出たのは私たちなのだが。
「とりあえず、明日の朝は早いんだ。ちゃんと寝ておくようにな?」
「えっ!?どういうことですか?」
全く、学長が何を言っているのか理解できない。
「あれ、シルヴァス先生?言ってなかったのか?明日、私たちはクゥイルデの街を発つぞ?」
エリンダルフの街までの経路が確定したのか?
まだ調査中だったはずなのだが。
「まぁ、そういうことなので。宜しくお願いしますね?」
そういうことは早く言って欲しかった。




