第24話 募る思い
──ギィィィィッ…
「んっ…。」
扉が開く音が聞こえ、私はベッドで目を覚ました。
「えっ…?」
朝になり、リゼイルが先に部屋を出たのかと思い、横を向いた。
よかった…。
それは今までの私には見られない感情だった。
気持ちよさそうに、私の隣でまだ眠っていた。
となれば、残るは先生しか考えられない。
眠い目を擦りながら、私は目線を扉へと向ける。
すると、先生が扉の前で立っているのが見えた。
でも、すごく眠そうで今にも気を失いそうだった。
私は先生に向かって大きく手を振った。
気付いた先生は、無言でベッド脇まで駆けてきた。
「食堂でね?翻訳された本を読んでたら、ついつい夢中になってしまってね?気付いたらこんな時間さ。」
先生が、夢中になる程だ。
翻訳された生属性の本は、有益な内容だったのか?
私も本は好きなだけに、つい気になってしまう。
「えっと…。使えそうでしたか?」
「ああ、勿論!!あとは、キミに色々と試してもらわないといけないけどね?それにしても、昨日は凄く良かったみたいだね?」
ようやく私も役に立てる時がきたようで嬉しい。
生属性にどんな魔法があるかも凄く楽しみだ。
あと、昨日の夜のことは、あまり覚えていない。
ただただ…リゼイルの家でした時より凄かった。
それに、リゼイルが飢えた猛獣のようだった。
何度か私が気を失ってしまったくらいだ。
ふとベッドの上を見ると、その愛の残骸があった。
どれだけ昨日、リゼイルは頑張ったのだろうか。
私と先生がそこそこの声で話していも、起きない。
「アヴィルナ?若いって…凄いね。私もね、あなたたちみたいな時期あったから分かる。でもね?ダメな時期は、拒んで良いんだからね?」
「うん。お母様…ありがとう。この前、アレなったばかりじゃない?だから、平気だと思う…。」
女の子のアレ…生理周期の話だ。
ベッドの上に残された愛の残骸の量を見てだろう。
気をつけなければ、すぐ妊娠してしまいそうだ。
私も、この身体になってからというもの、毎月のようにアレを経験してきた。
なったのが分かった瞬間、憂鬱になり堕ちる。
この世界には、日本のような優れた生理用品は存在しない。
だから、気をつけないとすぐ制服が血まみれだ。
綿のような素材の下着を重ねて着けたり、下腹部に常に力を入れてギュッと締め付けたりするのだが、気休め程度にしかならない。
アレの期間中は、ベッドで寝れば身体中伝って大惨事になる為、基本は椅子などに座り机で伏せ寝する。
だから全然、寝た気になれないし疲れが取れない。
ふと思い起こすと、エリンダルフの街では生理用品を見かけたような気がする。
流石、異星人の技術を取り入れた閉ざされた街だ。
「じゃあ、私リゼイルくんの横で少し寝るからね?」
大きなあくびをした先生の姿は既に下着姿だった。
「お母様…リゼイルに襲われても知らないからね?」
私はリゼイルの横から起きると、ベッドを降りた。
「ほら、そこの机に翻訳した本、置いといたから読んでおきなさい。」
奥の机を先生は眠たそうに指差し、ベッドの上へ。
ついてるものが私と全く同じなので、絶対危ない。
肌の触り心地も、若干の年齢差はあるが誤差だ。
まぁ、先生も大人だ。
それくらいのリスクは承知の上で寝たのだろう。
私は、机のある方へと下着を着つつ歩いていった。
「これが…翻訳版の生属性の本か…。」
心躍らせて私は、机の上のその本を手に取った。
そして、椅子に腰掛けると、本を開いた。
────
生属性の本には様々な種類の魔法が書かれていた。
この魔法をもし私が使えるのであれば、人間やエリンダルフ相手には向かうところ敵なしだろう。
ただ、侵略者がこの魔法を使えるのは相当危険だ。
確かにエルミリスの両親は、侵略者にこの魔法による攻撃を受けている。
その為、生属性魔法を使えるのは最低条件だ。
それで、私が同じ土俵に立てるかは疑問が残るが。
「エルフ…。好きだ…!!」
あ。
ベッドの方から声が聞こえた。
リゼイルが目を覚ましたようだ。
慌てて振り向いた。
案の定、先生はリゼイルに抱きつかれていた。
まぁ、事情をリゼイルは知らないので仕方がない。
「エルフ…。今から…しようぜ…?」
やばいやばい…。
それだけはダメだ。
リゼイルの手が先生の下着の中へ滑り込みかける。
「リゼイル!!私はこっち!!」
「なにっ…!?」
何故かは知らないが、私と母親は目と声が違う。
リゼイルは私の声で気付いてくれたようだ。
「後もう少しだったのにぃ…。つまんないなぁ…。私もリゼイルくんと一つになりたかったのにぃ…。」
先生の隣では、流石のリゼイルも青ざめていた。
アヴィンの娘にも手を出したと、リゼルディアさんに知られれば、それこそ笑い話の種にされるだろう。
それに、私への顔向けが難しくなるだろう。
まさか期待し狙ってやってたとは先生も人が悪い。
「俺、エルフにしか興味ないので…。」
「私だって…どこからどう見てもエルフでしょ?」
「いや…違うと思います…。エルフとは違います…。」
うーん。
多分、耳栓と目隠ししたら判別不能なはずだ。
そんなことリゼイルが試した日には、目も当てられない結果が待っているだろう。
面白半分で先生にリゼイルを取られかねない。
「じゃあ、リゼイルくん…。私で試してみる?」
「ダメェェェェッ!!絶対に許しませんから!!」
黙っていたら、とんでもない方向へ行きそうだ。
「ああ、怖い怖い…。リゼイルくんをからかって、ボクは言っただけなのになぁ?」
いつの間にか、普段の先生の声に戻っていた。
全く、何を考えているのやら。
本当にリゼイルをからかっただけなのだろうか?
私には先生の目が本気に見えた。
────
あの後、シルヴァス先生はベッドに横になった。
私とリゼイルは急いで制服に着替えて部屋を出た。
今日は授業のある日だったからだ。
気がつけば、今日の授業はあと魔法の授業だけだ。
ところが、まだシルヴァス先生の姿が見えない。
魔法の授業の部屋で私たちは先生を待っていた。
ただ、英雄学校の魔法の授業は、任意の授業だ。
その為、授業の開始する時間は先生次第になる。
「シルヴァス先生、遅くない?」
「誰か呼びに行った方がいいんじゃない?」
部屋の中ではそんな声が上がり始めてきていた。
本来であれば放課後の時間を利用しての授業なので、待っているだけでは生徒達はプライベートな時間がどんどん減るだけなのだ。
「エルフちゃん、先生と仲良いでしょ?確認してきてもらえないかなぁ…?」
「うん。先生の様子見てくるね?」
他の生徒達から頼まれてしまったので私は席から立ち上がると、扉の方へと歩き始めた。
すると、リゼイルもゆっくり席から立ち上がった。
「エルフ、頼んだ!!」
おいおい…。
お前、ついて来ないんかい!!
思わず口から言葉が出そうだった。
──ギィィィィッ…
私は部屋の扉を開けた。
「ゴメンゴメン!!遅くなったね?って、キミどうしたの?どこへ行くの?」
シルヴァス先生が私が開けた扉から入ってきた。
「先生の様子を見に行こうかと思って。」
「皆、待たせて悪かったね?学長と少し話し込んでいてね。こんな時間になってしまった。本当にすまない。」
学長と?
今まで何の話をしていたのかが、すごく気になる。
「それじゃあ、今から授業を始めるとしようか。」
そういう訳で、魔法の授業が始められた。
今日は珍しく、英雄学校の外で捕えた魔物を使っての戦闘訓練だった。
実際に戦闘する為、下手すると死ぬ可能性もある。
もし死んでもこの学校では自己責任となる。
英雄後方となる為には、そういった覚悟や犠牲も心得なければならないのだ。




