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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第3章 青春期 旅立ち編
22/40

第22話 読めない文字の本


 何故、デアが全く姿を現さないのか。

 私を間違えて女にしたデアの仲間が現れないのか。

 それは気になるところでもあったのだ。


 でも時間は待ってくれないのだ。

 エルシェスに残された時間は恐らく少ない。

 だが、エリンダルフに戻る手段は、陸路しかない。


 そうなれば、シルヴァス先生と二人旅になる。

 本当はデアの乗り物で行けば一瞬なのだとは思う。

 その辺についても先生に聞かなければならない。


 「そうだ!!キミさ?この本に書かれている魔法を詠唱することは出来るかな?」


 まだ魔法の授業の教室に、私と先生の姿があった。


 先生に古めかしい本を手渡された。

 表紙には”禁書“や“持出禁止”の文字が書かれていた。


 「え…。大丈夫なのですか!?これって…ヤバい本なんじゃ…?」


 実はこういう本を見るのはワクワクする。

 ダメと言われると、私は尚更見たくなってしまう。

 とりあえず、先生の口から言質だけ欲しかった。


 「大丈夫。使える人間やエリンダルフはもう居ないって、伝えられているからね?」


 大災で失われたと伝わる、死属性の本だろうか。

 でも表紙には、死属性など一言も書かれていない。


 「この本、生属性って書いてありますよね?」


 「うん。それこそ、ボクが探し求めていた本だよ?大災前は生属性と呼ばれていたんだ。でもね?前話した通り、扱える者は連れ去られたり、殺されたりしたんだ。だから、人間とエリンダルフの陣営からは扱える者は消え失せ、いつしか…。」


 「死属性と呼ばれるようになったんですね?」


 思わず、先生より先に言葉が私の口から出ていた。


 「キミ、察しがいいね?その通り、忌み嫌われ…死属性と呼ばれているよ。」


 怒られると思ったが、そのまま先生は喋り続けた。


 「それに、キミのご両親には、是非ともお会いしたいものだよ。その頭の回転の速さは、誰に似たのだろうね?」


 やだやだ。

 自画自賛している。

 絶対に、こうはなりたくない。


 「きっと、父親だと思います。生まれて一度も見たことありませんが…。」


 先生は私の目の前で、あからさまにガックリと肩を落とした。

 そんなに、私に褒めて欲しかったのだろうか。


 「あ!!キミはこんなことしてる暇はないよ?早く、その本を開いてもらえないかな?」


 ──パタッ…


 茶番をし始めたのは、先生の方なのだが。

 気を取り直して、私は生属性の魔法の本を開いた。

 人間の文字で中表紙が書かれていた。


 ──ペラッ…


 平気そうだったので、中表紙をめくってみた。

 すると、エリンダルフのものではない文字で書かれていた。


 「あれ?先生、この本読んだことありますよね?」


 「ううん…?その本を開いたら、何か起きるかなと思って…。今まで一度も開けたことなかったんだよ!!ははははっ…。」


 大事な息子に開かせるとは、とんでもない母親だ。


 「死んだらどうするつもりだったんですか!!」


 「うっ…。それは…凄く悲しいし、凄く困るよ…。でも、キミは毒属性の適性があるし、大丈夫かなって…ね?あはははは…。」


 先生は結構、天然ぽいところが見え隠れしてる。

 しっかり者の祖母のユリエナとは大違いだ。

 大雑把な祖父のアヴィンにでも似たのだろうか。

 もし、こんな母親に育てられたら、反面教師で私もしっかり者になれたかもしれないが。


 「ここに書いてある文字、エリンダルフの文字でも人間の文字でもないんですが…。」


 「嘘!?でも、学長には知られたくないからねぇ…。困っちゃったなぁ…。」


 この英雄学校の中で、エリンダルフでも人間でもない存在といえば、リゼイルだろう。

 そう、エタルティシアだ。

 元英雄の学長もそうなのだが、先生が避けたいと言うので仕方がない。


 「先生、今からリゼイルのところ行こう?最悪、リゼルディアさんのところ行けばいいから。」


 「確かに、リゼルディアさんは大災生き抜いたエタルティシアだから、その文字読める可能性は大きいですね…。でも、それではキミはリゼイルくんと…。」


 離れられなくなるとでも言いたいのだろう。

 何となくだが、先生の雰囲気で分かった。


 「例えば、この本に書かれた魔法が読むことに成功したとしましょう。そうなれば、私と先生はエリンダルフの街を目指し、この学校から旅立たなければなりませんよね?」


 「うん…。そういうことになるね…。でも…クゥイルデの街の外は、無法地帯でね…?人間の悪党、魔物、魔族、侵略者の斥候、等々が闊歩してるんだ…。」


 私と先生だけで旅立てば、絶対タダでは済まない。

 酷い目に遭うだけならば、まだマシな方だ。

 最悪、命を落とすかもしれない。

 もし生き延びても、連れ攫われるかもしれない。

 そんな場合の末路は、大体予想がつくだろう。


 「だから、リゼイルに同行して貰おうかなって。」


 安易で稚拙な考えだとは、百も承知なのだ。

 でも、剣士が居るだけで戦い方はガラリと変わる。

 魔法使いだけだと、どうしても近接攻撃に弱い。

 一度相手に距離を詰められれば、再び距離を取るのは容易ではない。

 それは魔法の授業で、実戦演習を行った際に痛感させられた。

 演習をする為に、授業に戦士、剣士、騎士など前衛職も参加させていたのだ。


 「キミが良いのなら、ボクはもう止めないよ。キミの人生だからね?」



────



 ──コン…コン…コン…コン…


 「おい、誰か来たぞ?」


 「ん…?隣の部屋じゃないのか?」


 ──ドン!!ドンッ!!


 「はーい?どちら様?」


 「エルフです…。」


 「おい…リゼイル!!エルフちゃんじゃねぇかよ!!」


 お分かりの通り、リゼイルの部屋の前にいる。

 扉の向こうで対応してくれているのは、リゼイルの同居人のケルザストさんだった。

 彼は、聖職者の家系なのだが、リゼイル同様に手が早い。

 よく聞く生臭坊主というやつだ。


 「ちょっと待ってて!!今開ける!!」


 ──ガチンッ!!


 部屋の扉の鍵が開いた音が聞こえた。


 「どうぞー?勝手に開けて入っちゃってー?」


 おいおい…。

 女の子が部屋に来たっていうのに。

 まぁ、コイツらには日常茶飯事なんだろうけど。


 ──ギィィィィッ…


 そんなこと思っていたら、扉が開いた。


 「エルフ…。来てくれたんだ…。」


 扉を開けてくれたのは、リゼイルだった。

 私は部屋に入ろうとすると、リゼイルが出てきた。


 「え…?」


 「ちょっと、俺外出てくるわ!!」


 ──バタンッ!!


 リゼイルは部屋の中に向かって声をかけた後、扉を閉めた。


 「あのね…?」


 「エルフ。俺も…言いたいことがある。だから…。」


 私が言おうとすると、リゼイルも喋り始めた。


 「うん…。聞かせて…?」


 「じゃあ、俺についてきて?」


 ──ギュッ!!


 私の右手をリゼイルは掴むと、寮内を歩き始めた。

 こうやって、リゼイルと歩くのは久しぶりだ。


 「あのさ…。俺、ずっと…考えてたんだ。」


 「うん…。」


 「俺には、エルフしか居ないってさ…。やっぱり、エルフの代わりなんて…居ないんだ。」


 結構、リゼイルはご執心なご様子。

 物事を遂行するには必ず犠牲がつきものだ。

 今回はある意味、私もリゼイルも犠牲者だ。


 でもまだ、リゼイルから協力するとは聞けてない。

 エリンダルフの街までの旅路の付き添いをだ。

 もし協力して貰えるなら、私も気持ちに応えたい。


 「うん…。」


 気付けば、魔法の授業の教室前を歩いていた。

 ここならゆっくり話せそうだ。


 「リゼイル?ここで、話さない…?」


 「でも…シルヴァス先生、居るんじゃないか?」


 「先生に事情は話してあるから、大丈夫だよ。」


 「ああ…。そうか、エルフは今先生と暮らしてるんだったな。」


 「うん…。だから、大丈夫だよ?」


 ──ガチンッ!!


 私は先生から預かっている合鍵で、教室の扉の鍵を開けた。


 「鍵…持ってたのか…。」


 「うん。」


 ──ギィィィィッ…


 「さぁ、入って?」


 「お、おう…。」


 ──バタンッ…


 教室の扉を私は閉めた。


 ──ガチンッ!!


 他の学生が入ってこれないように、鍵もかけた。

 私はそのまま教室の方へと振り返った。


 ──ガシッ…!!


 すると目の前にいたリゼイルが私の両肩を掴んだ。


 「あのさ!!俺、またエルフと付き合いたいんだ!!もう、お前しか愛さない!!他の女は相手にしない!!だから…。」


 急にリゼイルからの愛の告白が始まってしまった。

 別れた当日によく出来るなと、ある意味感心する。


 「私、気移りし易いんだ…。生まれてから、両親居なくなって…祖父母に育てられてたから…。愛情に飢えてるのかも…。だから…優しくされちゃうと、そっちいっちゃうかも…。リゼイルが、それでも良いなら…。」


 こう伏線を張っておけば、別れやすいだろう。


 「俺が…エルフを寂しくさせない!!約束する!!」


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