第20話 両親失踪の本当の理由
早いものだ。
一ヶ月が過ぎようとしていた。
徐々にではあるが、先生の目的が分かってきた。
エルミリスの母親とアヴィエラお母様は同い年で仲が良かった。
私が産まれる一年程前、彼女はエルミリスを産んだ後、何かが起きた。
その為に、お母様は目覚めさせる方法を探しているようなのだ。
本人から直接は聞けていないが、調べている文献はそういった類のものばかりだった。
英雄学校なので、大災の頃の文献も遺されている。
それと、この世界は適性が重要だ。
いくら魔法が書かれていても、適性がなければ全く意味がない。
恐らくだが、文献は見つけたのだろう。
それらしい魔法が書かれていた。
だが、適性者が見つかっていないというのが、今の私の見立てだ。
もしかすると、私のお父様は適性者を探しているのだろうか。
夫婦で分担しているのかもしれない。
手記にあった14歳の年に私を迎えに来るというのは、何かの期限を迎えた後なのだろう。
そういえば、私が14歳になるとエルミリスは15歳だ。
ということは、その頃には彼女の母親が目覚めなくなってから、15年目を迎える。
そう考えると、残された時間はあと三年もない。
直接、先生に聞いてみた方が良いかもしれない。
────
そんなことを考えながら、今日も教室へと向かう。
私の隣では、シルヴァス先生も一緒に歩いていた。
「先生?」
「はい、何でしょう?」
人前では、先生もある程度は取り繕っている。
声も男性の声を真似て低めに寄せて出していた。
「今日の魔法の授業、楽しみです!!」
「そうかな?最近、キミは退屈してない?」
「全然退屈じゃないです。稀に私しか使えない魔法出てくるので、楽しいですよ?」
「本当?ボクの目にはいつもキミが退屈そうに見えてるんだけどね?」
最近、人前では先生は私のことをキミと呼んでくる。
エルフとは呼びたくないのだろう。
部屋で二人きりでいる時は、平気でアヴィルナと呼んでくるのにだ。
「先生は、私が授業そっちのけで考え事をしている理由、わかりますか?」
「うーん…。何だろうね?まさか、このボクとしたくなったとか…?」
全く…。
先生はとんでもないことをいう。
私はこう見えても、女性同士での経験はない。
興味がないわけではないが、流石に相手が相手だ。
何故唐突に先生はそんなこと言ってきたのだろう。
この前のことが頭に残っていたのだろうか。
「それについては…興味はあります。でも、残念ですが…その理由ではありません。」
「興味あるんだ?!じゃあ、仕方ないよね…。あとで部屋でゆっくりと…。」
ちょっと!!
そこで躊躇するなり、拒否したりして欲しい。
先生も、乗り気になってどうするのやら。
「私の考え事の理由は、エルミリスの母親の事についてです。」
急に先生の口元の表情が険しくなった。
聞いてはダメなやつだったのかもしれない。
「そっか、その件についてか…。では、放課後になったら部屋でゆっくりと…しようか?」
この状況下ではどの意味にとって良いのやら。
前者についてなのか、後者についてなのか。
はたまた両方の意味なのだろうか…。
────
ベッドから激しく軋む音が聞こえる。
ひとまずだが、前者だった。
放課後、私は普段の通り先生と部屋へと戻った。
部屋に入り、荷物を置いた私をベッドの上へ、先生が押し倒してきたのだ
あとは、先生のリードで。
まぁ、それで得たこともあった。
エルミリスとも、十分いけそうだということだ。
今もまだ、先生が主導権を握っている。
もしや、身体を張って私の可能性を、見出してくれているのだろうか?
私の考えすぎかもしれないが。
ただ、先生に激しく攻め続けられており、時折私の意識は飛んでいた。
「それで、アヴィルナ?あなたはエルシェスの事について知りたいの?」
急に先生による激しい攻めが、緩やかになった。
意識がぼーっとし始めてきていたので、助かった。
それにしても、エルシェスとは誰だろうか?
エルミリスの母親の名前だろうか。
話の流れからするとそうだろう。
「あの…。そうです。何故、エルミリスの母親は眠ったままなのでしょうか…?」
折角、緩やかになっていたのに突如激しくなった。
「じゃあ、教えてあげる!!何故、エルシェスがああなってしまったのかを!!」
私の身体を先生は蹂躙しながら、昔話を始めた。
それによれば、アヴィエラとエルシェスは幼馴染だった。
また、エルシェスにはイシェルデスという兄がいた。
実はアヴィンとイシェルザとの間で、イシェルデスの嫁にアヴィエラをという話が交わされていたようだ。
この件が、私がエルミリスを許嫁にする流れになった理由のようだ。
それは置いておいて、話を戻そう。
ある日、アヴィエラとエルシェスはエリンダルフの街の郊外の森に何かが墜落するのを目撃する。
急いで二人が向かうと、森の中に何かの乗り物のようなものが墜落していた。
近づいてみると、その乗り物から怪我をして血を流した人間が降りててきて、その場の地面へと倒れた。
エルシェスは、アルゼノン家に伝わる治療の能力を使い、その場で倒れていた人間を助けた。
その人間は、この星を侵略者から護る存在だと、アヴィエラとエルシェスに語った。
彼は自分のことをオル=ドルディオと言った。
オルの乗機からの救難信号を捉えた僚機が、オルを救助に来た。
そして、彼らは空の彼方へと戻って行った。
ところがだ。
墜落事件から数週間後の事だった。
オルとその同僚はエリンダルフの街へ戻ってきた。
エリンダルフだけの街の為、上手く変装してだ。
オルがエルシェスに一目惚れしたのが理由だった。
同僚はオルが頼んでついてきて貰っていただけだ。
エルシェスの方も気になっていたようで、とても自然な感じで二人は懇意となっていった。
物怖じしないエルミリスの性格は母親譲りなのだ。
それからというもの、オルはエルシェスの元へ訪れることが多くなっていった。
アヴィエラについては、何の進展もなく過ぎた。
そして、更に暫く経った頃だった。
エルシェスのお腹が大きくなり始めていた。
流石にアヴィエラもこの頃には、エルシェスに先を越されたと焦りの色を見せていた。
数ヶ月後、エルシェスは臨月を迎える。
エルミリスの誕生だ。
ようやく、アヴィエラも覚悟を決めたようだ。
オルの同僚デア=ウェンデグと懇意になった。
恐らくだが、デアが私の父親なのだろう。
エルシェスの兄イシェルデスの姿がアルゼノン家から消えたのは、丁度この頃だった。
そして運命の日が訪れる。
その日は、オルとエルシェス、アヴィエラで街の郊外にあるオルが墜落した場所へと向かっていた。
その場所だけは、エリンダルフの街に張られた結界が何故か弱く、外界との行き来が何とか可能になっていた。
前日、デアが任務で空の彼方へと戻っていた。
だから、三人でデアを迎えに行こうとしたのだ。
突然、三人の前方から見慣らぬ人間が歩いてきた。
エリンダルフの街に人間が居るのは異常事態だ。
オルが二人の前に出ると、人間から何か放たれた。
するとオルは即死し、エルシェスも余波を受けた。
一番後ろにいたアヴィエラは、すぐさま魔法で応戦したが逃げられてしまう。
数分後、何も知らないデアが空より降りてきた。
そこには、息絶えたオルと、意識のないエルシェスが地面に横たわり、臨戦態勢のままのアヴィエラが立っていた。
デアが調べた結果、分かったことがあった。
あの人間は侵略者の可能性が高いこと。
彼らの対抗勢力のオルを狙った可能性があること。
死属性の魔法が使われたこと。
エルシェスは死属性魔法で治る可能性があること。
だから、デアとアヴィエラは死属性の適正を持つ者を探し始める事になった。
死属性の適正を持つ者は、先の大災で侵略者によって拉致されたり、殺されたりしており絶えたと考えられていた。
適正を持つ者の特徴や魔法についての文献は、エリンダルフには焼失し既に存在せず、大災の元英雄が学長を務める英雄学校にあるかもしれないという事だった。
ただ、エリンダルフに伝えられている事としては、毒属性も併せて使えたという。
毒属性の適正を持つ者の目は、翆色だったと伝えられていた。
ただ、大災で毒属性は絶えたと伝わっていた。
その頃、既に私を妊娠していたアヴィエラを残し、先にデアは死属性の適性者を探す旅へと出た。
そして、私を出産したアヴィエラは私の目の色が翆色だと気付き、森に棲み着くスパルディンの毒を使い部屋に細工を施し、死属性の文献を探し家を出た。
「アヴィルナ?私達の唯一の希望はあなただけなの。だから…お母さんに協力してくれるかな?」
私は身体を震わせ、頭の中は真っ白になった。




