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エルフさん♀には秘密が多い  作者: 茉莉鵶
第1章 幼少期編
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第02話 エルフの家族


 目の前が真っ暗だ。

 いや…目はちゃんと開いている。

 しかも、ここは息苦しさがある。


 誰かの声が聞こえた。

 でも、何を言ってるか分からない。


 何だろうか?

 さっきから…身体が押される感覚がある。


 徐々に…息苦しさが増してきた。

 急に、目の前が少し明るく見えてきた。


 若い女性のような声。

 若い男性のような声。

 年配女性のような声。


 たくさんの声が入り混じって聞こえた。

 何となく…。

 私は今の状況を察した…。

 今から…自分は産まれるのだと。


 若い女性の叫びにも似た声がした。


 すると、頭が締め付けられる感覚がした。

 いきなり目の前が開け、明るくなった。


 「アギャアアアアッ!!アギャアアアアッ!!」


 この瞬間、私は…産まれた。



────



 ここは、一体どこだろう?

 まぁ…確実分かることはあった。

 私は…男児に転生した。


 何故、性別が分かったか?

 少し言いづらい事なのだが…。

 足の付け根の間に…小さな息子の感覚があるのだ。


 今、私の出産後の処置を産婆さんがしている。

 台のようなところに私は乗っている。

 ぼやけていて見ずらいが、耳が尖っていて長い。

 それに、老けた声の割に…見た目が若々しい。


 まさか…?

 いや、あり得ない…。

 でも…私はダンプに轢かれて死んだ。

 だから、これは現実なのだろう。

 どう見ても、産婆さんがエルフにしか見えない…。


 即ちここは。

 日本でも。

 地球ですらない。

 異世界なのだろう。


 だからだ…。

 私の周りで、皆何か言っているのだ…。

 でも、全く理解出来なかった。


 ふと疑問が湧いた。

 産婆さんはエルフなのは分かった。

 私の両親はどうなのだろう?


 産まれた瞬間、一瞬だけ母親の顔を見た。

 とても肌が白くて、綺麗な女性だった。

 だが、すぐ産婆さんに引き離されてしまった。

 だから、ちゃんと姿を見れていない。


 何だ?

 産婆さんが私に向かって、何か語りかけている。

 とりあえず…何か喋ってみればいいか?

 ああ…でも、そうだった…。

 ここは地球でも日本でもないのだ。

 この世界の言葉が分からなかった…。


 日本であれば、いきなり喋って大人達を驚かすことも出来ただろうが…。

 とりあえず、今は喋ることは諦めるしかない。 


 「キャッ!!キャッ!!」


 結局…。

 私は産婆さんに向け、可愛らしく笑い声をあげるくらいしか出来なかった。



────



 処置が終わると、私は産婆さんに抱っこされ母親の胸元へと戻された。

 そこでまじまじと母親の姿を見た。


 マジか…。

 息を呑む程に綺麗なエルフの女性だった…。

 透き通るほど白い肌で、銀髪で目の色が蒼だ。

 優しく私に向かい微笑みかけている。


 ん…?

 少し目を疑ってしまった…。

 今、私は母親と一緒にベッドの上にいる。

 でも、頭が混乱するのだ…。

 何故かと言えば、日本でよく見た…白いシーツがかけられた病院のベッドだったからだ…。

 文明レベルは…現在の地球と変わりないみたいだ。


 エルフのいるファンタジー世界と言えば、文明レベルは中世の地球を想像してしまう。

 だが…この世界は違っていた。


 先程まで産婆さんを見ていたが違和感がなかった。

 恐らく、白衣姿だったからに他ならない。


 「キャッ…!キャッ…!キャッ…!キャッ…!」


 先程から母親の傍に、男性らしい姿が見える。

 だけれども、産婆さんと何やら話し込んでいた。

 その為、産まれたばかりの視力では顔が判らない。


 注意をひいて顔を見ようと、私は何度も笑った。

 狙い通り、男性は姿勢を低くして私に顔を向けた。


 ん…?

 さっき聞こえていた若い男性の声の主なのだが…。

 まだ幼さの残る母親より、大人な雰囲気が漂う。

 エルフだからなのだろうか…?

 ファンタジー系の小説等の知識でしかないが…。

 夫婦の歳の差が大きいのも当然の事なのだろうか?


 男性は母親の頭を撫でると、優しく声をかけた。

 この状況だけで判断すれば…私の父親なのか?

 そんな事考えていた時だった。

 男性は産婆さんと部屋を後にしてしまった。



────



 時の流れは早いものだ。

 転生してから、二ヶ月が過ぎようとしていた。

 今、母親の実家で祖父母と共に生活している。


 エルフだから、森の中での生活を想像していた。

 だが、現実は違った。

 周囲をぐるりと森には囲まれてはいる。

 それ以外は…現代の日本の都市みたいで愕然とした。

 

 私の産まれたあの場所は、産婦人科の病院だった。

 母親と共に寝かされていた部屋から、別の部屋へ移される際、建物の感じを見て直感した。

 だから、私が産婆さんと思い込んでいた女性は、恐らく女医さんだったのだろう。


 そうだ…。

 この二ヶ月の間で、衝撃の事実が発覚した。

 産まれた時、父親と思っていた男性の事だ…。


 あの後、入れ替わるように母親を少し大人びた感じにした女性が部屋へと入ってきた。

 その時は、母親の姉も立ち会いに来たのだと思っていた。

 姉と思しき女性が、私を抱っこしようと手を近づけてきたので左手を見ると、薬指に彫金の美しい指輪をしていた。

 ああ…。

 こんな綺麗な女性だ、結婚していて当時だろう。

 私は内心そう思いながら、その女性へと微笑んだ。

 その日は、私は新生児室へと移されて、何も起きなかった。


 その翌日の事だった。

 朝から、父親と思しき男性がやってきた。

 私は母親に抱かれて、授乳の真っ最中だった。

 本当に久しぶりだった。

 前世の赤ちゃんの頃ぶりかもしれない。

 女性のおっぱいを吸うなんて…。

 しかも、美人エルフのおっぱいだ。


 男性は母親と何やら話し始めた。

 私は相変わらずおっぱいを吸っていた。

 ふと男性の左手に目をやった…。

 すると…。

 薬指には彫金の美しい指輪がはめられていたのだ。

 思わず、おっぱいを吸うのをやめてしまった。


 昨日見た、姉と思っていた女性と同じ指輪だ。

 はじめは姉の旦那さんかと思った。

 だが、出産に立ち会うのはおかしい…。

 

 結局、導き出された答えは…。

 昨日、母親の姉と思っていたのは祖母。

 今、目の前にいる父親と思っていたのは祖父。

 もう、それしか考えられなかった。


 祖父母なら出産に立ち会ってもおかしくない。

 だから…こう考えた。

 私の父親は、仕事で多忙を極めていた。

 出産に立ち会えないので、代理を頼んだのだと。


 でも、私と母親が…病院を退院する日になっても、父親は一度も姿を現さなかった。

 そして、二ヶ月経った今までも…ずっとだ。


 恐らく、私の推理は…最後を外していたのだろう。



────



 「アヴィルナ?お誕生日おめでとう!!」


 いつの間にか一年の年月が経っていた。

 毎日、母親達の言葉を間近で聞いている。

 だから言葉も、少しだけ分かった気になっていた。


 「あー。あー。」


 まぁ…でも、何となくだ。

 そんな感じだろうくらいだ。

 分からない言葉は、脳内で適当に補完している。


 あと、流石に…まだ喋れない。

 一歳児で、流暢に喋ってみたかったが無理がある。


 「ほら?アヴィルナ。おじいちゃんの所までおいで?」


 そうだ。

 喋れないかわりに、私は歩けるのだ。

 それが、祖父の自慢のようだった。


 「あうー。じー。じー。」


 そうそう。

 かー。

 じー。

 ばー。

 くらいなら喋れる。


 祖父の方に喋りながら、よちよち歩いていく。


 「流石、私の自慢の孫だ!!偉い偉い!!」


 祖父は髪は金髪で、目の色が蒼。

 祖母は髪は銀髪で、目の色は紅。

 因みに私の髪は金髪で、目の色は翆だ。

 髪の色は祖父譲りだが、目の色は誰とも違った。


 結局、母親は父親が誰とも明かさず一人で産んだ。

 恐らく…目の色が翆のエルフが父親なのだろう。

 

 そんな訳もあって、今後も母親と共に、祖父母と一緒に暮らしていくようだ。

 だから、長命のエルフの家系に産まれて、本当に良かったと思う。

 人間ならば、祖父母が老いて働けなくなってしまい、幼い孫を養うのが金銭的に困難になる場合だってあり得る。


 祖父は、どこかで働いているようで毎朝同じ時間に出かけ、大体同じ時間に帰ってきている。

 ひとまずは安泰のようだ。


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