第12話 人間の街
私はリゼイルの案内で、クゥイルデの街に着いた。
街道沿いにひたすら歩くだけだった。
時間的にもそれ程の距離ではない。
「ここがクゥイルデの街さ。」
うん。
やはり想像していた通りだ。
ファンタジー世界観溢れる情景が広がっていた。
街の主要な通りを挟んで、石積みの家や煉瓦積みの家が立ち並んでいる。
その中には木積みの家や土積みの家もあるようだ。
「大きな街だろう?」
うーん。
エリンダルフの広さと比べると相当小さな街だ。
半分にも満たないかもしれない。
「エリンダルフの街の方が大きいかも…。」
「本当…なのか…?!」
まぁ、当然の反応だろう。
エリンダルフを知らなければ大きな街といえる。
これ以上の広さは恐らく想像出来ないはずだ。
「うん…。いつかリゼイルに見せてあげたいよ。」
「俺、決めた!!エルフをエリンダルフに連れて帰る!!」
「え、本当に?!」
「その代わりと言ってはなんだけど、俺の彼女になってくれないか?後悔はさせないからさ…?」
ああ…。
そういう系か…。
でも、今の私は孤立無援だ。
見も知らぬ街で生き抜くのは厳しいだろう。
現状唯一の頼みの綱はリゼイルだけだ。
女の身体になってしまったからには…仕方ない。
だけど、彼女になるということは色々な事が伴う。
キスは普通するだろう。
ボディタッチは普通するだろう。
お互いの身体を慰め合うことだってするだろう。
お互いの身体を重ねることだってするだろう。
それは、エルミリスと私がしてきたことなのだ。
これまでエルミリスがしてくれていたことを、今度は私がリゼイルにする番ということだ。
もしもエリンダルフに帰ることが出来たなら…。
私はエルミリスの元に戻りたい。
二人の間の子供もいるのだ。
リゼイルには悪いが…その時は別れようと思う。
まぁ、私の心が完全にリゼイルのモノになっていなければだが…。
私の人生、先のことなんて分からない。
ダンプに轢かれたり。
異世界に転生してエルフになったり。
10歳で彼女妊娠させたり。
戦闘機に押し潰されたり。
女の身体になったり。
色々ありすぎて、絶対なんて言葉は信じられない。
「うん…リゼイルの彼女になるよ!だから、エリンダルフ目指して頑張ろうね?」
生きる為もあった。
でも、通常一度しかない人生だ。
それが今、実質三度目を味わえている。
もう、どうにでもなれだ。
「お、おう…。そろそろ、俺達の家に着くぞ?」
俺の、じゃないのか…。
私も含めて…なのか?
まだご両親にもお会いしてないのに。
全く…気が早い男だ。
「なぁ…?エルフは、彼氏いたことあるのか?」
わかる。
男としては当然、気になること…。
ん…?
あれ!?
さっき、私が処女というのはリゼイルが確認していたよな?
一体、何が気になるんだ?
処女の彼女に聞くことなんかあるのか?
「ないけど…。何か気になる?」
恋人はと聞かれたら、ある。
エルミリスは大事な許嫁だ。
でも、彼氏はと聞かれた。
だから、ないと答えた。
「本当か!?やった!!完全に綺麗な身体なんだな…。やった…。」
完全に綺麗な身体とは何だよ…。
やったって…。
何なんだ?
人間はエリンダルフとは決まりでも違うのか?
「あ。ここが俺達の家。」
急にリゼイルは足を止めた。
煉瓦積みの家だった。
広さ的には、私の家の半分くらいだろうか。
一階建なので部屋数は四つくらいが限界だろう。
「立派なお家だね!」
「そうか?さて、入るか。」
──ガチンッ!!
リゼイルが玄関の金属製の扉に鍵を入れて回した。
「よし。開けるぞ?」
──ギィィィィッ…
扉の取っ手をリゼイルは掴むと、押した。
すると、家の中へ向かって扉が開いていった。
「ただいま!!母さん、新しい彼女…連れてきたぞ。」
ほぅ…。
今、新しいと言った…。
まさか、私よりも女性経験豊富なのか!?
そうだった。
リゼイルについてだが、髪は赤茶色、目は翆色、肌は肌色と白色の中間くらいだろうか。
顔は、イギリスやドイツの人を彷彿とさせるイケメン。
背格好は剣士の家系と言うだけあって、上背があり引き締まっている。
目の色が私と一緒なのには驚いたが。
「いらっしゃ…。リゼイル!!この子…エリンダルフじゃないの!!」
リゼイルの母親が挨拶をしながら顔を上げた。
私の姿を一目見るや否や、リゼイルへの態度が急変した。
エリンダルフが何か問題なのだろうか?
「ん?俺が、道端で倒れてた所を助けたんだが?」
その通りだ。
膝枕までしてくれていた。
「あら!?そうなの?!」
「はい。魔物と交戦中、私は魔法を受けて空間転移させられてしまったみたいで…。その衝撃で、意識を失ったようで…。」
ここは嘘も方便。
リゼイルに話をしたのと同じ感じで話すだけだ。
「あらっ?!お嬢さん、魔物と戦えるの?」
あれ。
そこに反応する?
「はい。私は魔法使いをしています。」
ジーッとリゼイルの母親は私の顔を見つめてきた。
「お嬢さん、うちの子と同じ目の色してる。」
リゼイルには言われなかったが、やはりそうか。
私の勘違いではなくてホッとした。
「えっ?!本当か?」
ちゃんと私のこと、見てくれてないのか…。
「リゼイル…この子、彼女なんだろう?」
そうだそうだ!!
お母さん、もっと言って!!
「あの…。可愛すぎて…目、見れなくてさ。」
え!?
そっち?!
でも、過去に彼女は居たんだよな。
よく平然と歩きながら、彼女になれとか言えたな?
段々、リゼイルがよく分からなくなってきた。
「最近まで、別の彼女連れてきた口がよく言えるよ!!」
「いや…。エルフは別格なんだよ…。側に居るだけで、胸がずっとドキドキしててさ…。」
いやいや。
嘘じゃないみたいだ。
リゼイルの顔が真っ赤になった。
耳まで真っ赤だ。
うんうん。
分かるよその気持ち。
本当に恥ずかしいんだよな?
前世の私がそうだった。
昔、絢乃ちゃんが側に居るだけで、顔が真っ赤になったな。
今頃、絢乃ちゃんはどうしてるだろうか。
トラウマになっていたりするかもしれないよな…。
目の前で、私がダンプに轢かれる瞬間を見てしまったのだからな。
「まぁ、顔真っ赤にしちゃって!!お嬢さんのお名前、エルフって言うの?」
「そうだよ!!エルフって言うんだ。なっ?」
絢乃ちゃんのことを、色々考えていて心ここに在らずだった。
「エルフ?ぼーっとして、大丈夫か?」
「あ、ゴメンなさい…。少し心配ごとがあって…。頭がいっぱいで…。」
咄嗟に、口から出任せを言ってしまった。
「エルフちゃん、言ってごらん?何が心配なんだい?」
「私、今10歳で…。学校通っていたんです。でも、もう学校行けなくなっちゃったなって…。」
前世とは世界のルールが違う。
だから、この世界の教育をしっかりと受けておきたかった。
よその家に転がり込んでおいて、学校に行きたいなんて虫のいい話あるわけがない。
「何言ってるんだい?エリンダルフがどうだったかは知らないが、クゥイルデは子供への教育はしっかりしててね?無償で学校へ行けるんだよ?まぁ、教本代は有償だけどね?」
「そんな事かよ。安心しろよ?俺の使ってた教本やるからさ?」
──ムギュッ…
そういうとリゼイルの手が私の左のお尻を掴んだ。
その谷間の奥へ向かって、指が蠢いている。
そこは違う…。
思わず、私はお尻に力を入れた。
すると今度は、私のお尻を撫でまわし始めた。
一体、リゼイルは何を考えているんだ…。
「じゃあ、母さん。俺達、部屋に行くからさ。」
このリゼイルの雰囲気…。
間違いなく、部屋で私はヤられてしまうだろう。
出会って0日で彼女になって、女になるのか…。
「ほら、エルフ?行くぞ!!」
今まで玄関を上がってすぐの居間で話していた。
リゼイルに手を引かれるまま、居間の奥へと向かった。




