第11話 エルフ♀さんになった日
夢見心地のふわふわとした感覚の中に私は居る。
「(あなたの身体を造り替えさせてもらった。まだ身体に定着するまで、目覚めることは出来ないはずだ。とりあえず、安全と思われる場所に降ろしていく。経過を見にまた会いに来るので、その時ゆっくりと話をしよう。)」
頭の中で声が聞こえてきた。
これが現実なのか幻聴なのか、自信が持てない。
私が意識を失ってから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか?
安全と思われる場所とは、一体どこなのだろう…。
それにだ…。
また会いに来るとは、どういう意味だろうか?
私が目覚めるまで待つ時間すらないというのか。
「(今回のことは、本当に申し訳なかった。では、また会おう。)」
急に声が聞こえなくなった。
言うだけ言って、ハイさようならのようだ。
すると、急に私の意識が遠のいていくのを感じた。
────
身体を揺さぶられる感覚がする…。
「…い!!おい!!大丈夫か?」
男性の声がする。
私より歳が少し上くらいの若い声だ。
──ユサッ…ユサッ…
ん?
また身体が左右に揺さぶられた。
でも、何か違和感がするのだ。
「ん…んっ…。」
ゆっくりと私は目を開けてみた。
日の光が眩しくて、思わず声が出た。
え…?
声が変だ…。
「おおっ!?エリンダルフ、起きたか?」
今、エリンダルフと呼ばれた?
目を完全に開けると、目の前には顔があった。
耳が長くない?!
この世界に来て、初めて普通の人間を見た。
顔を横に向けると、彼の身体が目に入った。
私は、膝枕されていたのか…。
「本当に済まない…。」
「何も謝ることなんかないぜ?急に現れたんだ。木のたもとに横たわった状態でさ?」
やはり声が変だ…。
それに、木のたもとに急に現れたとは、どう言うことだろうか?
急いでいた様子のあの状況…。
身体が定着するまでの間、見えない状態にする。
身体が頃合いになったら、見える状態にする。
まぁ、こんな感じだろう。
身体の具合を確認しようと視線を脚へと向けた。
「はぁ…!?」
おかしい…。
目の前に、山が二つ谷が一つ…。
──ムギュッ…
「ひぃっ!!」
思わず私は右の山を右手で鷲掴みにした。
山頂が服に擦れ、私は悲鳴をあげた。
母親くらいありそうな大きさだ…。
本物らしい…。
「エリンダルフ、何…してるんだ?」
まぁ…そうだろう。
側から見たら奇行だ。
「イタズラされていなかったか確認しただけだ。」
「いやいやいやいや!!何にもしてないぞ!?」
嘘も方便だ。
それにしても、私のこの声。
どこかで…。
やけに懐かしく落ち着く声だ。
「それなら良いんだけど…。疑ってゴメンね?」
あ!!
この言葉!!
母親の声だ。
おかしな話だが、自分で喋っていて思い出した。
ゴメンね?とよく母親が、幼い私に言っていた。
「お…おう。なぁ、こんな場所で何してたんだ?」
それは…。
あの…。
宇宙人の仕業だ。
明らかに、ここはエリンダルフの街じゃない。
普通の人間が居るのがその証拠だ…。
きっと、降ろす場所を誤ったんだろう。
「気が付いたら…。キミの膝の上だったんだ…。」
「えっと…。どこからか飛ばされて来たのか?」
そうだな。
ものは言いようか。
「魔物と戦っていたら、魔法を受けてしまって。」
「お?エリンダルフ、戦えるのか!?」
おや?
食いつきがいい。
「私は、魔法使いだ。」
「本当か?!俺、探してたんだよ!!魔法使える人間!!」
ほう。
これは、いい流れだ。
「ねぇ?キミはなんて名前なの?私は…エルフ。」
逆転の発想だ。
この世界では、エルフがエリンダルフと呼ばれてるなら、今日から私の名前はエルフだ。
「エルフって言うのか。俺の名前はリゼイル。実家は剣士の家系だ。宜しくな?」
剣士か。
前衛が居れば、全然違うだろうな。
間合いも楽になりそうだ。
「リゼイル…。キミ、良い名前だね?」
「そうか…?何か、女に言われると照れるな…。」
ん…?!
おんな?
今、女って言った?
──ギュッ…
「はああああっ!?」
私は思わず股間に手をやった。
だが、直後に大声が出た。
ない…。
居ない…。
息子が家出していたのだ。
ショックすぎた。
「なぁ…大丈夫か?さっきから様子おかしいぞ?」
「取り乱した…。大丈夫だ…。魔物に、犯されたかと思っただけだ…。」
今のは、誤魔化すのはかなり苦しい。
「俺が、確認…してやろうか?」
何だ…?
信じてくれた?
私も…どうなってしまったのか、確認したかった。
だが、年頃の男に確認させるのは、正直怖い。
相手に悪意があれば、犯されるだろう。
「絶対に、変なこと…しない?」
ゴクりと生唾を飲む音が聞こえた。
「ああ!!誓う。もし、魔物に犯されてたら直ぐに、医者に見せないと、手遅れになるからな?」
「分かった…。頼むよ…。」
ゆっくりその場へ私は立ち上がった。
目線が低い…。
私の身体、一体どうなってしまったのだろう…。
今着ている服は、通っている学校の制服姿だった。
戦闘機に押し潰される前と同じだったのだ。
どうやって復元させたのだろうか…。
私も頭の中では、色んなことが渦巻いてグルグルしてパニック寸前だった。
──ズルッ!!
そんな時だった。
履いていたズボンと下着が、勢いよく下ろされた。
────
「うん、大丈夫そうだぞ?それにしても、エルフは処女なんだな…?」
じっくりと…リゼイルに見られてしまった。
だが、分かった。
完全に私は女の身体になっていた。
「悪いか…?私はまだ、10歳なんだ。」
言っていて思った。
10歳にしては…なかなか発育が良い。
エリンダルフの身体は早熟なのだろうか?
だから、エルミリスは11歳で妊娠したのか…?
「そうなのか…!?俺より上かと思ってた…。因みに俺は、13歳だ。」
そう言いながら、リゼイルは私にズボンと下着を履かせてくれた。
「恥ずかしいところ確認して貰っちゃって、ゴメンね?」
「いや。魔物に犯されてなくて良かったよ。この辺りは、そういう話が多いんだよ。」
エリンダルフの街では、魔物の話なんか殆どない。
魔法使い等が日々、治安維持を行っているからだ。
ここでは魔物は野放しなのだろうか?
「そうなんだね…。そういえば、ここは何処?」
まず、聞くべき話だった。
「ここか?クゥイルデだが?」
初めて聞く地域の名前だ。
そもそも私は、エリンダルフしか知らない。
どれくらい離れているのだろうか。
「私は…エリンダルフの街に住んでいる。そこから飛ばされて来たと思う…。」
「エリンダルフの街…だって!?世界の反対側にあるって言われている、幻の街だぞ?」
でたでた…。
世界の反対側って…。
しかも、幻扱いされている。
「うん。エリンダルフの街にはね?人間はエリンダルフしか住んでいないんだ。」
あ…。
リゼイルの出立ちを見ると、思い切り…中世だ。
嫌な予想的中だった。
恐らく、エリンダルフの街は…どこかの宇宙人が関与している。
その技術を享受して、あそこまでの近代的な文明が成り立っていたのだ。
「しょうがない。エルフは俺が…面倒見てやる。だから…俺のパーティに魔法使いで入ってくれ。」
「えっと…。私…エリンダルフだし、女だけど、良いの?」
とりあえず、言質だけ取りたかった。
後で、色々言われても面倒だ。
「ああ。エルフが14歳になったら、俺と結婚しよう。その時嫌なら嫌でも良いぞ?」
マジか…。
私はこれから女にされるのか…?
拒否権はその時あるって事か。
まぁ、あと4年ある。
それまでにリゼイルを誰かとくっつければ良い。
「分かった。」
──ギュッ…
リゼイルが左手を握ってきた…。
「じゃあ、クゥイルデの街まで行こう。これは、逸れないようにだからな?」
「うん…。」
念押しが一番怪しい。
リゼイルの手は、緊張からか汗ばんでいた。




