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94 聖王国にて(前編)★フレッド視点

 フレッド視点です。

 時系列は、第84話(第六章の最初)の時点です。



 地の精霊に会うために聖王都に潜入したフレッドとセオ、パステルの三人。

 フレッドは今までずっと身を隠して生きてきたが、地の神殿で聖王国の騎士に見つかり、ついにその生存が発覚してしまう。

 その晩、フレッドはセオの父オリヴァーの兄であるイーストウッド侯爵と共に、聖王城へと足を向けたのだった。


 (第83話、第84話より)

____________________________________



「――何者だ、止まれ! 夜間の入城は禁止されている」


「おお、真面目に仕事しておるのう。えらいえらい」


 ワシは、城門前で槍をクロスさせている騎士二人を見て、独りごちる。

 騎士たちは怪訝な顔をして警戒を強めた。

 若い騎士たちは、ワシの顔を知らぬようだ。

 ワシが聖王だった時は、夜間の入城禁止なんて決まりはなかったのだが。


「大神官は何も伝えておらんのかのう? 昼間に強制的にアポ取らされたんじゃが」


「……何者だと聞いている。答える気がないのならば、どのような用件であれ、ここを通すわけにはいかない」


「ふむう、困ったのう」


 ワシが隣に立つ侯爵に目配せをすると、侯爵はすぐに心得たようで、頷いて一歩前に出る。


「イーストウッド侯爵家の者だ。至急、大神官様に取り次いで貰えないだろうか。地の神殿で伝えた件だと言えば、分かるだろう」


 騎士たちは頷き合って、一人が城内へと入っていく。

 入れ替わりに、中に控えていた騎士が外へと出てくる。

 ガチャンと大きな音を立てて扉が閉まると、騎士たちは再び槍をクロスさせた。


 吹きさらしの、冷たい風が肌を刺す。


 『水晶の街』の名に相応しく、氷のように透き通った城壁は、昼間はキラキラと輝き、この上なく美しく荘厳だ。

 だが夜になると、ただただ冷たく青白い、月の光を反射している。

 壁の向こうには暖かい火が焚かれ、明るく照らされている筈だが、魔力が満ちた水晶の内側を透かし見ることは叶わない。



「それにしても、随分様変わりしたのう。――あれから、何年経ったか」


「十三年、と記憶しています」


「そうか。もうそんなに経つか。ワシが風の神殿を見に行くといってここを出た時は、セオはよちよち歩きじゃったのう、そういえば」


 エーデルシュタイン聖王国の王位継承は、特殊だ。


 成人を迎えて仕事に就く、もしくは一部の貴族が高等教育、専門教育に進む年齢は十五歳。

 貴族が爵位を継ぐ、または王族が即位可能になる年齢が十八歳。

 ここまでは、この大陸全ての国で共通している。


 国によって異なっているのが、王位継承権の定め方だ。

 ベルメール帝国では皇帝、ファブロ王国では国王が崩御もしくは譲位することで、王の長男・長女である王太子が次の王として即位する。

 それに対して、聖王国では、最も位の高い精霊の加護を受けている者が、成年王族の中から聖王として即位するという決まりだ。


 だからこそ、ワシが即位する時はちょっとばかり兄に恨まれることにもなった。



 ワシの兄、ジェイコブは祝子はふりこだった。

 六大精霊に加護を授かっている神子みこに次ぐ、高位精霊の加護を授かっていたのだ。


 前聖王だった父を除いて成年王族の中で最も強い精霊の加護を持っていたため、兄は今から四十五年前、父の崩御と共に、聖王として即位した。


 ところが、その三年後、ワシが十八歳の誕生日を迎えると、兄は、たった三年で聖王の座を辞することになった。

 ワシが六大精霊のひとり、地の精霊の加護を授かる神子だったためである。


 ワシは正直、兄が聖王のままでも良いのではないかと思っていた。

 兄は勉強家で覇気のある人間だったし、聖王としてせわしなくも充実した日々を送っていたようだ。

 ちいとばかり強引な側面はあったが、その手腕を存分に発揮し、地位も権力も完璧に使いこなして、国を治めていた。


 対して、ワシは権力にそんなに興味はなかったし、美味しいものを食べてのんびり生活したかった。

 だから、聖王の仕事なぞ兄に任せて、辞退しようとしたのだ。


 しかし、当然そのようなことが認められる訳がなかった。


 ワシが十八歳になると、あれよあれよと聖王に即位させられ、何だかんだで三十年近くも聖王としてこき使われることになったのである。



 そして、ワシは十三年前、ある情報を耳にする。

 セオに加護を授けている風の精霊が、何かトラブルに巻き込まれているようだという情報だった。


 『空の神子』であるセオはまだ一歳の赤子。

 同様に風の力を使える『虹の巫女』ソフィアも、息子のセオと夫のオリヴァーと三人で地方へ挨拶回りに出ていて、連絡にも帰城にも時間がかかる。


 ワシも魔法と魔法道具(マジックアイテム)を駆使すれば風の神殿には行けないこともないから、準備を整えてすぐに出発した。


 なんせ、風の神殿の存在する崖山(クリフ・マウンテン)は岩だらけの山。

 『岩石の神子』であるワシには、登ること自体は造作もない。

 地の魔法は防御に特化しているから、襲い来る魔物も、ワシにかかればどうということもなかった。


 問題は薄くなっていく空気と水、食料などだが、魔法の家を応用した魔法道具(マジックアイテム)を用意すれば解決出来る。



 ワシは無事風の神殿に到着したものの、風の精霊アエーラスにトラブルという話は誤情報だったと判明した。


 ワシとラスは意気投合して宴会となり、翌朝、二日酔いのラスがうっかり自分で神殿を破壊してしまい、ワシが修繕する羽目に。

 ラスの黒歴史として刻まれているであろう事件である。


 ラスはワシに礼をすると言ったのだが、セオが困っている時に一度だけ直接手を貸すようにと頼んで、ワシは自力で山を降りた。


 山を降りたワシを待っていたのは、ある噂話だった。


 ワシが突如行方不明になり、遺体で発見されたと。

 そして、新しい聖王として、ワシの兄ジェイコブが再び即位した、と。



 ワシは、そもそも聖王の器ではなかった。


 今聖王国に帰っても、手続きも煩雑になるしまた兄に恨まれるし、トラブルにしかならない。

 兄が聖王を務めるなら、ワシはこのまま居なくなった方が良いに違いない――ワシはそう考えたのだ。


 それからは、ファブロ王国の端に位置する魔の森に居を構え、近くにある小さな街で粘土細工や陶芸品を売って生計を立てていた。

 念願だったスローライフだ。



 だが、王国内には聖王国の噂も届かない。


 あれから長い年月が経って、感情を失くしたセオが目の前に現れた時、ワシは全てを知り、衝撃を受けた。

 娘のソフィアがもうこの世にいないことも、孫のセオが針のむしろで生を繋いできたことも、信じたくなかった。


 セオは情報屋に都合良く利用され、その代わりにワシの居場所を探りあてたようだ。

 セオは、ワシを見つけた後は、ソフィアの次代にあたる『虹の巫女』を探す予定らしい。


 ワシには、その人物に心当たりがあった。



 ワシは、十四年前にパステル嬢ちゃんが生まれた時、ソフィアが込めた願いと魔法を知っていた。

 だからこそ、セオの望む『虹の巫女』が誰なのか、どこにいるのか、どうやったら会えるのか、ワシは正しく理解していたのだ。


 ソフィアが繋がり(バイパス)を結んだ時、目の前で、しっかり見ていたのだから。


 パステル嬢ちゃんに会うには、ソフィアの残した魔力の残滓ざんしを辿れば良い――そして、セオにもそれを辿る手段、『虹の巫女』の想い、その繋がり(バイパス)が残っているようだった。


 ワシはセオに、心に残る繋がりに耳を傾け、繋がりが導く先に向かうように告げた。


 その後は、セオは昼間にワシの家で情報交換と旅の準備、夕方にはロイド子爵家へ戻る日々――そう、パステル嬢ちゃんとの物語が始まったのだ。




「お待たせ致しました。ご案内致します」


 ワシが昔のことを思い出して感傷に浸っていたその時、目の前の扉が再び開いた。


 見知らぬ顔の神官に案内され、ワシは十三年ぶりに、生まれ育った城の中に足を踏み入れたのだった。


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