王国兵と姫と狂気の塊
俺が選んだDランク依頼アージュ草の採取。
それはただただひたすら量をこなす依頼であった。
魔物や魔獣が出ない領域に生えた野草群の中からアージュ草のみを摘み取り納品するというもの。
簡単に言っちゃうとハーバス王国近郊に生える医療に使える薬草摘みである。
ただ生えてる草を摘み取るだけかと思いきや、類似する草がすごく多い。でも俺にはチートがある。
「解析便利すぎて笑っちゃう」
触れた物がアージュ草かはたまた別の草なのか、一目瞭然。 俺に限ってはだが………ああ、鑑定持つ人も出来るか。
鑑定技能無しだと半日かけてアージュ草を摘んでも半分も別草だろう。
それほどまでに類似している。
だって見た目雑草だし、滅茶滅茶な量生えてるし、絶対毒草とセットで生えてるんだよなぁ。わからないよ普通。
(見た目一緒なんだよなぁ、簡単だけどさ)
触れては解析しを繰り返し、アージェ草のみを摘んでいく。 その間忘れずに索敵もかけておく。
人に襲われても笑えないしね。
俺はるんるんとアージュ草をいたが、突然魔物の反応を感知した。頭の中に時計のアラームの様な音が鳴り響く。
「音が心臓に悪いって」
んーと、気配は..…....俺がいる所より少し南、森の中だ。魔物らしき気配と人の気配を感知する。
「これ、戦闘してんのか? それにしてもこの魔物の気配………デカくね?」
ヤンビスからハーバスに来るまでも魔物を狩ったが、ここまで反応の強い気配は感じた事がない。
素材を剥ぎ取ってもそんなに需要の無い有耶無耶な雑魚ばっかりだった。
「オーダークリエイト、マジックバッグ」
異次元の歪みに、摘み取り持っていたアージュ草を投げ入れた。
それにしてもこの魔物の気配、助けに行った方が良さそうだな。人側の気配も微妙に薄くなってる気がする。
この気配配置、八人が一人を守っているような感じに思える。魔物一体だけ。
『求―――キケンナセイタイヲカクニン』
突然クリエイトが脳に直通してくる。
いやびっくりした、なんだよ? 逃げろって事なのか?
確かにやばそうな感じはヒシヒシと伝わってくる。でもこれってお決まりのパターンじゃないか。
それに逃げるつもりはない。
今なら戦える力は充分にあるし、まずなにより助けになるなら助けたいと思うからだ。
この世界に来てからのジジイの教えでもあるし、俺自身もこの力を持った時、誓ったんだよ。
自分のしたいように力を使うと。だから行く。
脳内で未だ鳴るクリエイトの警告を無視し、戦闘が行われている場所へと俺は駆けていく。
索敵を継続したまま魔闘気を纏い、身体強化された体は淡く白く熱る。
◇
◇
◇
◇
「………私以外退きなさい 、早く! ユーナ様を早く連れて離れなさい!」
赤髪の女性が吠える。
八人中、唯一戦闘能力がある女性が一番最前列で大喝する。
しかし他の者は中央の馬車の前で構えもせずに立ち尽くしていた。
それは絶念や自棄に近い状況であった。
―――茫然なのかもしれない。
彼等が対峙してるのは魂喰らいの大男であった。
男と表現しているが、こいつは人でない。
これは厄災の一種、狂気の塊。
「序列二十四魔―――アルガモッ! 私達では勝ち目はないわ! ジョイン、しっかりしてッ! ユーナ様を連れて王国へ行きなさい!」
ジョインと呼ばれた男。
その男の頭の中は先を見据えて震えていた。
紫色の髪が乱雑に散らばり目の光が消え、すらっと伸びた身長も今では小さく見えてしまう。
そんな怯えきったジョインが心中をぶちまける。
「そそ、それではだんちょうが………!団長が!」
ギリギリ立っているのは団長と自分含めて五人と馬車中のユーナ姫のみ。ジョインは葛藤していた。ここでユーナ姫を連れて逃げる事は可能だ。確かに逃げ切れるかは別としてこの場を離れる事は出来る。その務めこそが王国騎士の最重要事項という事も分かっている。
ただもし団長を一人残した場合は……
殿を務めた団長は間違いなく.……死ぬ。
いくら団長が強くても勝機は無いに等しい。
序列魔とは一国を挙げ立ち向かうような難敵。
個一人が秀でていようとどうかなるような話ではない。
正解がわからず悩むジョイン。
それでもどれかを選択せねば未来はなかった。
様々な葛藤の中、歯をギリギリと鳴らしジョインは声を張り上げる。
「団長が殿を務める! ここは姫を馬車から下ろし、ハーバスまで退避する! 立てる三人は倒れてる奴を背負えッ! ユーナ様は私が!」
ジョインの決断は団長の想いを受け継いだモノ。切迫した四面楚歌のような状況にて必死に考え抜いた結果であった。
声に出してからは早かった。
遮音魔術と保護魔術のかけられた馬車の扉を開ける。
「ユーナ姫………緊急事態です。序列魔が現れました。私と共にハーバスまで先に退避します。馬車では追いつかれますので」
序列魔という言葉を聞いて、黒瞳は絶望と恐怖を滲ませる。その名を聞いたユーナ姫は寒気立ち、震えが白銀の長髪にまでも伝染した。
透き通る肌さえも青白く見える程に。




