一難と出逢い
ヤンビスの森かやや北よりの東。
王国によって舗装されたヤンビエズ山を越え、時折現れる魔獣を狩りながらハーバス王国を目指す。
足取りはとても軽い。地元から上京する気分だ。
ヤンビエズ山はそこらに観光名所チックな壮大な景色があり歩くだけでテンションがあがる。前世の通勤時間は苦痛でしかなかったが。
「壮大やぁ」
標高が高いにも関わらず熱帯という異常な土地柄故に作られる甘味たっぷりのビエズ芋に、神雫と呼ばれる人肌温度に近い湧き水、ヤンビス森にはない生態系、全てが新鮮であり、心が踊った。
ヤンビエズ山を越えると獣の道と呼ばれる現地人に聞いた荒道を行く。
なんでも正規ルートは舗装された道で安全かつ魔物が寄り付きにくいらしい。
なんでも等間隔で魔物が苦手とする道灯塔が設置されているからと道中立ち寄ったお店のおばさんが話してくれた。最先端魔科学らしい。
俺は稽古がてら獣道を選択した。
(そんなに魔獣強くないな)
魔獣の数は多い。
ラビットやスパイダー種という数、群れを成す魔獣が多いが今の俺にとっては余裕のある戦いばかりだった。
そうこうしていると舗装された道へと合流する。
そして今、四日かけ辿り着いたハーバス王国前、入国門そこで俺は立ち尽くしていた。
「一万ジル!?」
理由は簡単、入国滞在通行料だ。
払えないって訳ではないけど、ジジイからもらったのが一万ジルとちょっと。
ほぼ全額。
宿も取らないといけないし、王国内に入ってからの方がお金はかかる。
「申し訳ないな。 決まりなので」
門番の人あなたは悪くないんですよ。
お金をくれなかったジジイが悪いんですよ。
しかしどうしたものか………ギルド登録をしないと行けないダンジョンや素材取引や名声、コツコツ積み上げていく最初の最初で躓くなんて──
「少年っ、どうしたの?」
思案を巡らせていると俺の真後ろから声が聞こえた。
ボウヤ?ああ俺の事か。
(前世三十路まで生きてるから錯覚起こしてた)なんて要らぬことを考えながら声のする方へと顔を向ける。
―――お姉さん美人すぎない?
俺に声をかけてきた女性、立ち姿がモデル。
腰あたりまである艶のかかった手入れの施された黒髪。
あ、色が俺と一緒だ。
大きすぎない胸部にはブドウのブローチが良い感じでアクセントに。
それにしてもスタイルが良すぎる。
綺麗なんだ、立ち姿が。
目線の高さから身長は今の俺と同じくらいだろう。
俺が一六四センチくらいだから女性にしては高身長だと思う。
なによりも腰に差している鞘が闘う女性を沸騰させ、よりエロく見えた。
すいません三十路目線で。…
「ねぇ、きこえてる?ねぇ?」
おねぇさんが俺の手を取り……
いやいや! 普通に照れるからっやめて!やめて!嬉しいけども!
「聞こえてェおりまァす」
だせぇ、声上擦ったわ。
そのまま手を取られたまま軽く経緯を話す。
お金の話だし、みっともないなぁ。
………
……
…
「通行料出してあげるよ! 全然っ任せて!」
なんど! 凄く気前のいいお姉さんだった!!
こんな見ず知らずにおっさんに慈悲をくれるなんて。今は子供だけども。
「門番さんこれこの子の分ね、 滞在許可証出してあげて」
ポンっと一万ジルを支払うおねぇさん。
またこの人は………という感じで門番が確認業務へと移る。
それにしても日本と紙幣価値同じだからなぁ、一万円は大きいぞ。
これはちゃんと返さなきゃな。
「ありがとうごさいます! 絶対返すんでお姉さんの名前を教えて貰ってもいいですか?」
そんなに気にしなくていいよーと笑顔見せる。いや笑顔も美しい………眼福です。
「んー。うんうん………でも、これも何かの縁だね! 同じ黒の髪に会うのも久しぶりだし! うんうん! 私はロゼッタ、少年の名前は?」
お姉さんの名前はロゼッタと。
自分の脳のデータベースに打ち込む。
忘れない。忘れれない。恩人かつ美人。
「俺はリューズです!」
リューズねっ!と呟き、ロゼッタは王国内を指差す。
「あの王国の左側に見える建物みえるでしょ? あれが私の職場。 商会なんだけどね、用があればあそこに来て貰えば私に会えるよ! あ、受付でロゼッタいますかー?って聞いてね?」
お金もゆっくり返してくれたらいいよーとにっこりと微笑む。
「ありがとうございます! 出来るだけ早く返せるようにします!」
前世は社畜サラリーマン。
納期に厳しい世界に生きていただけあってゆっくりなどと言われたら直ぐにでも! となってしまう。
だがまずはギルド登録、そこから素材を買い取ってもらい、討伐依頼を受けダンジョンに潜り―――
きっとそんな遠くない未来に返せるであろう算段を立てる。
「わぁぁぁぁ! やばっ急がなきゃ、リューズまた顔見せに来てね? それじゃっ!」
何かを思い出したかのようにロゼッタはあの大きい建物へ向けて走っていく。
ロゼッタのおかげで助かった、めちゃくちゃいい人だし、美人だし。
そんな事を考えながら門番から滞在許可証を貰い王国の大きい門をくぐったのであった。




