四百年前の勇者 2
仕事が忙しいもんで、すいません
聖国王冠領首都スアンアット
聖国はかの創造神リウムが降り立った場所として有名であり、今もなお信仰者が多い。
人口四十万人近い人々がこの地に身を下ろし生活を営んでいた。
教会が多く、スアンアットを離れても一定に存在する。
首都の街並みはとても美しい。
白と青を基調とした建物群、至る所に水の流れが見られ清潔であり、人々の心も余裕があり温かい。
滅多に争い事が起こらないのは住民の殆どがリウム教の信者であり、信仰と規則の正しさを叩き込まれ育つ環境が出来上がっていた為である。
貴族も一定数存在するが政治家という面が強く、民を圧迫するような存在ではない。
巫女を中心とした聖刻協議会に出向するのが主な役割である。
聖国の王としての冠を飾るのは代々巫女の力を有した女性であり、政治的手腕をあげるのは番である男の役目であった。
「わたくしも出向くべきです! 世界が綻びかけているのです!」
聖刻室で一際大きな声を張り上げたのは今代の巫女二十一の歳になる桃色の髪をした、トヤマ=シャルノッテだった。
「ダメだよ! 君は聖国の象徴であり僕の妻だ。そんな危険な場所には行かせられないよ」
円卓の上座、その隣に座るトヤマ=ダルバスは妻であるシャルノッテを宥める。
「巫女の力を無くして邪は祓えませんわ! 私も部隊の一員としてビルゴアンコまで赴きますわ!」
聖刻室に集まった巫女の番であるトヤマ=ダルバスと貴族達は頭を抱えた。
確かに巫女は強い。
だが決して戦闘面ではない。
邪気や瘴気などといった悪気へのスペシャリストなのだ。
「確かに濃い瘴気が発生していると聞き及んでおる。だが巫女よ、そなたは忘れておる。魔人が其の場を制圧しているのだぞ? 行けば殺されるぞ」
聖刻協議会でもっとも歳を重ねた貴族ヤマダ=バーズが意見した。
歳を感じさせるシワくちゃな顔に眠りこけていそうな半眼が巫女を捉える。
「バーズ殿の言いたいこともわかりますわ! ダルバスの言うことも!」
「なら!」
「ダメですの! 神託がありましたのよ、世が終わる邪を払えと」
「なんということか……」
神託とは巫女の能力であり、創造神リウムの声とされている。
書物に残された色々な時事には時より巫女の神託が関係し、過去の偉人達は語っている。神託は必ず優先すべき絶対的なものだと。
「神託なら僕達は何も言えないよ」
「……ダルバスごめんなさい」
「初めて呪わしいと思ったね、創造神リウム様が」
東へと向かう舞台に巫女であるトヤマ=シャルノッテが加わった。
ラピアンズ帝国は人類生存圏の真ん中に当たる場所に存在した。
人口六十六万人、魔科学が発達し、独自発達を遂げている工業国だった。
ラピアンズ帝国皇帝は七代目。
二十の歳となるヘルベザァ=ダルンビモートが統治していた。
前皇帝ハモンビモートは中々子宝に恵まれず、その中ようやく授かった一人息子であった。
父であるハモンビモートと母であるティル、二人から熱烈な愛情を受け育つ。
過保護とも取れる愛だったが、ダルンビモートの性格はねじ曲がる事もなく思慮深い優秀な青年となった。
ダルンビモート十六の歳、皇帝であったハモンビモートは退き、皇帝の座を息子ダルンビモートへと継承した。
「私はこの国をよりよくしたい。民が活気に沸き、飢える事なく、生涯を全うしうる環境を」
ダルンビモートの言葉通り、魔科学と呼べる新興を打ち上げ人々の生活に彩りつく。
帝国内は魔石による街灯が設備され、広い国土を移動する為の魔馬車の改良、作物の改良がなされ飢える事のない食流通が確固となっていく。
みるみる帝国は強大になっていく。
かといって近隣国との関係が悪かったわけでもない。
聖国とも物流交流があり、小さい街や村にもその恩恵は分け与えた。
「争いなど起こらぬ方がいいが、決して怠ることなかれ」
ダルンビモートは人との争いよりも魔物、魔獣に対する対策とし、既存部隊を一蹴し新たな帝国部隊を設立した。
新たなラピアンズ帝国軍は第一師団から第四師団まで分かれており、戦闘部隊は第四師団、総数三千六百名とした。
師団員らは募集のち面接実技素行をクリアした者のみで構成された精鋭部隊であり、第四師団隊長は皇帝であるダルンビモートが熱烈アプローチをかけた一人の男であった。
名をランザルク=ブロッグという。
齢四十六でありながら鍛えられた体に歳を感じさせない爽やかな顔立ち。魔物を狩る事を銭種とし各地を渡り歩いていた所、ラピアンズ帝国に落ち着く。
一回り歳下の美人な妻を持ち、十歳になる娘と共にラピアンズ帝国で幸せを享受していた。
その男はこの地でも有名だった。
竜の魔物を単騎で討伐したやら千の魔獣を一人で壊滅させたやら、その真意を確かめるべく部隊設立時にダルンビモートは彼の家を訪れる。
皇帝直属騎士との手合いが程なくして行われたが、赤子の手を捻る以外の言葉が見つからなかった。
ランザルク=ブロッグは魔闘気のみで皇帝直属騎士を制圧する。
皇帝直属騎士にもプライドがある。何度も何度も立ち上がり魔術と剣で立ち向かうが容易く制圧される。
「私の………精鋭がいとも簡単に……」
「ランザルク殿もう一度ッ!!」
十八合行われたがランザルク=ブロッグは魔術の一つも放つ事はなかった。
「基礎がなっちゃないね。魔闘気は鎧であり武器である事を理解しねぇと、放つだけが魔術じゃねぇよ」
砂を払うかのように騎士が放つ炎の魔術をかき消した。
「弱い魔闘気を放つ、強い魔闘気に負ける。当たり前だろ?」
ダルンビモートは心の底からブロッグの強さに恐怖を抱いた。あまりにも人からかけ離れるその強さ。
だが、ダルンビモートは理解した。
この強さこそ、帝国を支えるのだと。
「ランザルク=ブロッグ殿、私はそなたが欲しい」
「いや、男に興味はないんで」
そんな言葉の先に。
ランザルク=ブロッグは第四師団隊長に任命された。
その第四師団三百名とランザルク=ブロッグを編成し東へと向かう。
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