もう一人の
ラバリズバ帝国より三万近い兵が進軍を開始した時、一人の男が帝国城へ"降り立った"。
その男、異形な人型はバルコニーより帝国城内部に侵入した。
赤黒い三本の角と大きな翼は男の骨に収納され、普通の人の形へ変化を遂げる。
「静かやなぁ……そりゃまぁ三万近い兵隊さん出撃させたらこうなるか」
何処から取り出したかも分からぬ愛用のハット被り、自慢のステッキを手に持ち目的の場所に向かった。
カツカツと足を進める先は皇帝の座。
おもむろに王間の扉に手をかけ破壊した。
威厳ある人より少し大きい両開きの扉は土砂崩れのように上から下へと崩れ落ちていく。
「はて、今日は客人の予定はないが?」
豪華絢爛を尽くした椅子へ越しかける皇帝サバンが片肘を付きながら壊れた扉指差す。
「アポなんていらんやろ?」
左右には皇帝執事であるヤバズと赤髪短髪に真紅の瞳を持った男リバイズが佇む。
「……黒ハットの男よ……今日は何をしに参った? 時期尚早ではないか?」
サバンの問いかけ。
その疑問にたった一言。
"ほな"──それが戦いの始まりだった。
その言葉と共にキィンッと火花をあげた。
「一撃で決めるつもりやったんやけどなぁ」
ステッキによる素振り。
斬れ味は空気を切り波動を生む。
目にも留まらぬ速さでサバンへと飛来したが、リバイズが握る具現化された白炎の剣によって相殺された。
「やはり、賊は賊……か。リバイズ、その輩を殺せッ!」
「────!」
踏み込み、振られる一筋の白炎──
重量を感じさせぬ一振り。
それはいとも容易く止められる。
「──ッ! ──白炎弾龍流」
追撃……
リバイズの振るう剣が太古のドラゴンを形成しシェイクへと迫った。
ゴオ"オ"オ"オ"と爆音を彩り突き進む極大の一振りはハット男を吹き飛ばし体を浮かせる。
帝国城の内壁を突き破り外壁すら破壊した青く広がる空まで立ち昇った。
遥か上空まで打ち上げられたハット男は魔人化に至る。
焼け切るような灼熱を素手で抑え込もうとするが力が拮抗するまで少しの間が空いた。
「熱すぎやん、なんつーもん放りなげんねん」
「消えろッ」
更なる追い討ち、はるか上空。
──空を走る男の追撃。
リバイズ自身が纏う白炎により空気が蜃気楼を起こし振動する。
ハット男は防御姿勢の取れぬまま頭の上から振りかざされた爆炎剣撃をダイレクトに浴びた。
「痛ッ!」
重すぎる一撃によって真っ逆さまで墜下する。
ヒューッと重力を切る音とドンッッ!!と地面を抉る音が同時に鳴り響いた。
「あかん、あかん、死んでまうわ」
抉れクレーターを作った地表、その中心でシェイクはゲホッゲホッと咳き込み笑う。
先程までのハット男はもういない。
赤黒く染まる三本の角、羽根のように生えた二本の腕、血管が膨張し人ではない何かへと変貌を遂げる。
「その体……異常だな、俺はお前がナニモノかは知らない。何者でもイイ!死んでもらうぞ俺の為に」
リバイズは取り乱さない。蜃気楼揺らめく魔闘気を更に練り上げ臨戦体制に移行。
「馬鹿が、黙れや、パチもん。ホンマもんのパチもん、偽もんや、それが粋がるなって、確かにお前は強いかもしれん? 人の範疇を超えた力を持ってんのもまぁまぁ分かる、努力したのも認めたる。けどお前じゃワイは殺せへんで、所詮は模造品の成り損ないや」
「模造品? 成り損ない? パチもんだと? 何の話だ? 気でも触れたか? 心配するな、俺がひと思いに──」
「オイッ!!! 黙れって聞こえんか!? パチもんもパチもんや!──お前勇者の血族やろ? 見たら分かるねん! ムカつくさけ! ただお前は薄すぎる……言うたらただのちょっと力の強い、努力しただけの兄ちゃんや」
「ふんッ、そんな事か、魔人もどきならわかるか。確かに俺は勇者の血筋だ……お前が言うパチもんとはそういう事だったか! はははははははっ! 確かに俺は覚醒発現者じゃない! だがそれでもお前を、お前を! 殺す事は出来る──ッ!」
白炎の剣が火粉を撒き散らし斬撃と化す。
「アプリコットフィズ」
シェイクの四手に斬撃が吸収されていく。
斬っても斬っても空を斬るような感覚がリバイズを焦らせる。
「アホか、ワイらはお前らの天敵やぞ? 二番煎じの勇者の模造品もどきが調子乗んなや! そんなで殺せる? アホアホアホアホッ! ボケナスや!」
両の手に吸い込まれるように斬撃が消えていく。
それはカウンターとして返された。
「ロブ ロイ」
竜巻、それは奪われた斬撃の舞であった。
己の放った斬撃が男の手によってカウンターに使われる。
「くっ──」
一時撤退。
余りにも量が多すぎる手数。
誘導される空気の刃を弾き落としながらバックステップ。
それよって本体と距離をとり、一度思案に移る。
だが、"この"戦いにおいてそれは悪手だった。
「引いたらあかんで」
──先手。
戦闘の中腹における先手は戦況をガラリと変える。
強者相手に後手後手になり過ぎたリバイズの綻び。
「ガッ──ハッ」
四点掌底。
魔人化したシェイクの接近特化の打撃。
弾け飛ぶ。
揺さぶられるのは体、脳味噌だけじゃない。
内部から狂うものがあった。
「クッ……マナが」
マナを全く吸収出来なくなる魔臓器に、疑問を浮かべ地面を擦り転げ吹き飛ぶ。
「ほらな、弱いやろ? 自分」
背中に乗られ赤髪を引っ張られ顔を持ち上げられる。
眼に入るのは三本の角が生えた男の顔。
「ランザルク家も悲しいなぁ、勇者の血筋を求めた帝国に拉致られ、お兄さんは殺されたんやろ? 力も持ってへん癖に反発して、さすがわろてまうわ」
「わらうな! やめ……ろ!」
「母親に父親はずーと牢屋暮らし、力が少しばかりあるお前はええ様にこき使われて」
「やめろッ!!」
「血だけがちょっと良かっただけに。ああ、そうそう、そうや! ええ事教えたるわ。勇者の正統後継者は歴代男やった、だから覚醒発現は男しかせんと思われてた。だからお前とお前の兄貴は捕まった。妹は女やから執拗に追われへんかったんや」
「──アイネ」
「そうそうアイネちゃんやっけ? お前の妹、あれはホンマもんやったわ」
「おい! まさか!」
「ここまで言うたら流石に分かるわなぁ、……お前の妹が今代の勇者や。まあ発現早々にワイらの手中やけどなぁ」
「……やめろ、やめろやめろ! アイネをどうするつもりだッ!」
背中に乗りリバイズの髪を掴みあげるシェイクはペッと唾を吐いた。
「えぇ眼するやん、ザ兄貴って感じで好きやでぇ。まぁ最期やし教えたるわ。お前の妹とハーバスの王女、それに帝国の兵士はみんな人柱や、魔王復活の為のな」
「……なんだよそれ」
「ワイらの悲願や! 帝国共の魂と勇者と聖女の生贄……これで魔王復活。そのあと帝国は貰うで? 魔国として復興や! 世界はどうなるんやろうなぁ、楽しみやでぇ」
「意味が、魔王復活……生贄……帝国……アイネ」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
ハーバスの王女? 帝国が魔国になる?
アイネが勇者?……俺の妹が生贄?
「せや、ワイらの夢の為にお前の妹使わさせて貰うで」
長兄タザリールはアイネを守り死んだ。
妹を逃す為に死んだ。
アイネはオレ達の愛する妹。
やめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!
もう俺の、俺たちから大事なものを奪わないでくれっ!!
「────リィ」
「あん?」
「……レィズ・ナィ・アルディ……マ・ガッマト……
────勇王聖剣ッ!!」
もう一人の勇者が今代に誕生する。
更新は割とのんびりなんです、続きが気になった方はブクマしていってくれると嬉しいです!




