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世界は廻る

  



 世界とは自分に甘くない。

 口だけの力は実力とは言わない。


 ハーバス王国の医療機関、ベットの上で俺は目も開けず回想していた。



 俺とアイネはクランコパーティと共に八層を目指した。


 だがそこで色々な困難と出会う。

 俺は一度死にかけたが皆んなの助けとノキノギの涙によって救われた。


 そのあと十六層の魔狼がアイネとクランコ達を襲う。

 クランコ達が絶望した時、突如アイネは始祖勇者の力を覚醒させた。

 魔狼はアイネによって討伐されたが、新たな敵が不幸を招いた。

 俺の頭はその頃から徐々に覚醒し始めていた。

 解凍されたインドラルの記憶と共にユラユラと。


 そして、何かを企む男の声で完全に目が覚めた。

 ユーナを、アイネを、攫う(さら)という言葉。


 ハーバスに戦争を仕掛けるという言葉。

 仲間達がやられ、アイネを連れて行かれそうになった所で俺の体は完全に覚醒した。



 ──……その男は強かった。異常なまでに。


 後々ジジイと話をしてわかった事だが男の状態は魔人化に近いらしい。


 その時は自分なら、……インドラルの想いを……力を、引き継いだ俺なら勝てると思っていた。


 だけど、……だけどソイツは強かった。


『自分の大事なもん一つ二つ守ってから言うんやな』


 その言葉は今も俺の胸を突き刺し、何度も何度も往復する。

 もう抉れない程行き交った言葉は俺の心にぽっかりと穴を開けた。


『お前、まだ大事なもん失った事ない口やな? お前一人如きが何出来るんか言うてみ?』


 その言葉は今の俺にぴったりの言葉。

 物語の主人公だと思っていた自分の自意識過剰さを木っ端微塵に打ち砕き、モブの一人なんだと改めて認識させられた。


『力だけじゃ、想いだけじゃなんにもならへん』


 その通り……その通りだった。

 想いで現実は()()()()()

 力だけじゃただの()()だ。


『お前は才能だけで博打転がしてる典型的な非現実者や』


 今なら分かる。

 言葉の外に存在する言葉を。

 ハット男が言いたい事が。


 実力もないただの力を持て遊ばし、なるようになると考えもせず突っ走る、──……俺はただの妄想野郎。


「そんな甘ないで? ってな。ほな、また会おうや……次は……────」


 これは俺が気を失った後の言葉。

 アイネを失った後の言葉。


 ハーバス王国に戻った後聞いた、あの男が放った最後の台詞。





 ──帝国からの条件付きの戦線布告。


 この流れでどういった経緯があるかはわからないが、帝国とあの男は手を組んでいるという事がわかった。


 条件付宣戦布告を記した最後通牒、そこにはハーバストラ=ユーナの身柄引き渡しとアルガモの魔石の譲渡。


 これをハーバスより北西に位置する帝国との国境、ライダス砦で受け渡しせよとの事だった。


 今から一月後の取引、それが行われない場合はそのまま戦争。

 武力による行使を遂行するという明文。


 これには国王ツイドもバルバトスも貴族もひっくり返った。


 こんな要求、王国側もすんなりと飲める訳ない。


 ────条件が王女。そんな要求。


「……ユーナをッ!!! 帝国め、突然の強気………これもアイネを攫った者の入れ知恵か」


「リューズ達の話によるとアイネは勇者の力を発現させたらしい……だとしたら帝国側が欲しいのは聖女の血を持つユーナという訳か。話から見える流れは………魔王の復活の儀を行うとも取れる……」


 あくまでも想像の範囲ではあるがと付け加えるジジイ。


 俺がノキノギに行っている間にジジイが現役復帰し魔褒章が与えられ、王国の武護の象徴となる。


 与えられた序列は魔将軍。


 これにより人口、百六十万人を誇るハーバスの民を護る加護の役割を持つことになった。

 武だけではない、知略での守りも一つ。

 優先すべきは血統ではない、民。


 勇者の血と聖女の血。

 それを求める帝国。

 一つはもう帝国の手中、このままユーナまで引き渡すとなるとその血を使い魔王を呼び起こす可能性もあった。

 しかし、それは御伽噺レベルの内容であり、真の目的は解らないまま。


「可能性よりも民が優先じゃ。交渉の有無までひと月しかない。……もし、じゃ、戦争が始まり我が国の一万四千の兵を持ってしても……」


「……間違いない、勝てぬ。圧倒的に帝国側が有利、現時点で倍以上の兵数……物量に押されるだろう」


 王としての答えは自分の娘の犠牲、魔石の譲渡だろう。


 ──当たり前だ。


 それが帝国側の要求であり、戦争を起こさせない最もシンプルな方法。

 民を守り、国を守る最善策。


 しかしそこには一人の男、親としての葛藤が。

 国王としての威厳がチラつく。


 それにランザルク=アイネはもはや帝国の手中。

 なんの為かも分からぬ帝国の要望にツイド含む、皆が頭を抱えた。


 だが、……


「っお父様、わたしの身一つでこの国が助かるなら、決断を」


 ユーナの覚悟。


 それはこの国を愛し、民を思った故の最大限の恐怖を越えた応答によりこの話はどんどんと加速する。

 議会の場で触れられぬ事のない、王女をどうするか? という話に自ら先手を打った。


「ユーナ様……」


 バルバトス含めた大臣、貴族が押し黙る。


 あくまで魔王復活は可能性のある御伽噺であり、今重要なのはこの王国の行く先。

 犠牲を何処から取るか、その一点のみ。

 ひたすら議論と話合いが行われ、夜が明け、朝が訪れる。

 何度も何度も頭を抱え、怒鳴り、正義がぶつかる。

 そして……最終的には大多数の答えが一致する。

 それは最も簡単で最短の解決策。

 王国の命運をかけた会合の答えは、


 一人の少女の犠牲であった……──。


 このままでは何一つ守れない。


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