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不穏な

 


 突如後方より高鳴る光、眩しく発光した場所はリューズとアイネのいた場所。


 やがてその光は集束していき、姿を見せたアイネに目が集まる。


「クランコさんありがとう、みんなもありがとう。今から、後は任せて下さい」


「ランザルク? 任しても………大丈夫なのか?」


「だいじょうぶ! 私が魔狼を倒します」


 クランコの横を優雅に通り過ぎるアイネは光輝く大剣を大きく振りかざし魔狼へと駆け出した。

 自分よりも重量のある大剣を悠々と持ち接近、魔狼の左首に向けて大剣を振るった。


 ドンッ!と破壊の限りを尽くした音は魔狼エンシェントウルフを肉薄にする。


 手数重視というよりも一撃重視。

 その一振りは聖光を輝かせ左首の中腹まで抉り切り込まれる。


「ウォォォォオン"!!!」


 魔狼は痛みからの悲鳴をあげ、首元に刺さるその元凶に向けて自爆のブレスを放つ。


 ゼロ距離ブレス。


 己の首を完全に切り棄てるが如く魔力を練り上げ、左首ごと焼き殺す覚悟で吐いた。


「テレッ・ドレア──荒王聖盾斧(フレパッツァフル)!」


 刹那アイネが紡ぐ詠唱。


 首元に切り込まれた大剣は消失し、代わりに銀色に輝く丸盾と毛皮の装飾が施された白戦斧がアイネの手元に具現化される。


 丸盾が吐かれたブレスを無効化した。

 ゴオオォォオ!と、左右に流されたブレスは魔狼自身を傷つけ、瀕死にするだけのオウンゴールとなった。


「あの強さはなんだネ?」


「高密度なマナで練られた魔力を流すなんて………いくらランザルクといえど出来るか?」


「でも、今のアイネちゃんなら」


「クランコさんっ隣くるっす! 止血するっすよ! こっちへ来るっす!」


 目の前で行われる戦い。


 ハーバス王国第二護衛団団長として知られたランザルク=アイネとは別物であった。

 髪色や瞳に合わぬ光魔術を得意とし、自己回復力と剣術での長期戦闘を得意としていたはず。


 しかし今の戦い、その戦い方は大きく異なっている。


「私が皆んなを守るっ」


 一撃重視の大剣から打って変わり、片手斧と盾を巧みに使った攻防一体の手数重視に切り替わる。


 斧の重心を最大限に振り回したと思えば丸盾で弾き、また戦斧で突き崩す。

 手馴れたバーサーカーのような戦闘スタイル。


「ウォォォォンッ"!!」

「わたしがっ、わたしが………みんなを守る」


 魔狼の反撃などに怯む様子もなく突き弾き切り刻む。

 踏もうとも、吐こうとも、振り払おうとしても赤髪の少女の嵐が止むことは、ない。


「わたしはリューズまもる」


 赤い瞳は血走り、斧と盾は聖光をあげ、魔狼を肉薄にする。血走りあげる閃光は1つ1つが確実に魔狼へと突き刺さっていく。


「りゅーず、りゅーず。まもる、まもるの」


 アイネの頭の中にパーティの面子など頭にはない。知覚が研ぎ澄まされるなら削られていく邪魔な感情。それは最終的に1つの形となる。


 守るべきは自分の愛する者、殺すべきは愛する者に害をなす者。

 ────ただそれだけ。


「ウォォォォォオォォォォォォンッ!!!!」

「うるさい、わたしは──………!」


 魔狼最後の悪あがきだろうか、斬られ突き打撃を受けた体に鞭を打ち必死に抗おうとする。


 ただそれは目の前の少女には"何一つ"届かない。


「まもるの!」


 初発のブレス以降、抵抗を許さず一方的に魔狼を仕留める。

 ドンッと巨体が横に倒れ、棘のような灰色の毛並みが汚く微睡み呼吸を止めた。


 その光景にアイネも一時力尽きる。

 どこから湧いたかも分からぬ力に魔臓器は完全にオーバーヒートしていた。


「アイネちゃん!」

「ランザルク!!」


 半ば呆然と戦いの行方を見ていた仲間がアイネが倒れた事により駆け寄る。


 同時に何処からか、拍手の音が鳴り響いた。

 パチンパンと繰り返される雑な手拍子。


「ど偉いもん見せてもろたわ、魔狼がここまでコテンパンなるなんて思てないで、ホンマ」


 その拍手を鳴らす手、ハットを被る長身の男。ここにいる者が知らない不審な生き物。


「犬っころ捕まえよう思たけどそれより凄いもんおるしなー。ホンマわからんなあ、人生」


「……お前は誰だネ?」


「あーすまんすまん。自己紹介しとか──……シェイクやでぇ。ホンマええもん見せてもろたわ」


 ヒラヒラとした服の端を掴み、腰を曲げバカにしたような挨拶。


 ここにいる者の内心が一致した。


 冒険者ではない。また別の"なにか"だと。

 シェイクと名乗る男は先程まで戦いの渦中にあった者を指をさして口を開く。


「その犬っころと戦ってた女。もろてええか?」


「そのオンナってのは、ランザルクの事か?」


「それしかおらへんやん。まさかまさかのやったわホンマに」


 ビブルの問いにびっくりしたようなジェスチャーを加え、一歩ずつアイネへと歩みだす。


「っ!なに! なんなの! 近寄らないでッ! 意味わからないから! アイネちゃんを貰うって………なんなの!?」


「あん? 貰うってか、言い方悪かったわ。寄越せって言っとんねん」


 その長身は歩みを止めない。


「人を欲しいってどういう事? そもそもアナタの目的はなに? 

 なんでここにいるの?」


「ホンマ面倒くさい女やなぁ、一々説明いるんか? ん―――目的はそのオンナが殺した犬っころやったんや! それが来てみれば………まぁ、あれや。予定変更っちゅーやつやな。だってその女勇者の力継承しとるんやもん。しかも始祖の方やで?そりゃ欲しいに決まってる。いずれ居るはずやったからなぁ。まぁわいらの計画に必要ちゅーやっちゃ」


 シェイクと名乗った男の話に、アイネが勇者の力を継承している事実に一同が驚愕する。確かに魔狼戦は異常に強すぎた事を思い出す。


「始祖ってビオント=アグリオーニっすか?」


「おー。よお知っとるやん。元々男にしか継承せんはず、そう思とったんやけど。まさかまさかの女や。そりゃ誰も気付かへんで」


「でモ……勇者の力がなんだっテ言うんだヨ」


「だからワイらの計画に必要な"器"なんや。あとはハーバストラ=ユーナさえ手に入れば目的は達成やー。また楽できらー」


 ハーバス王国国王の愛娘の名前もシェイクの口から飛び出る。


「ユーナ姫だって!?」


「ランザルクに続キ、王女モ、その計画の中に入ってるのカ………?お前ハーバス王国に戦争でも売る気かネ?」


「そのまさかやで?──………戦争やな。まあどうなるか楽しみにしとき、もうすぐ事は始まるさけぇ」


 不穏な言葉を発し歩みを続けるシェイクの前に、止血終わりのボロボロなクランコが立ち塞がる。


「お前の計画なんぞ俺には関係ねぇ! ランザルクを連れてくって言うなら俺を殺してからいけ!!」


「なんや、ツルっぱげ。そこで寝とかんかい」


 一蹴。


 シェイクの何気ない一蹴り。

 メキッと音を鳴らし吹っ飛ぶ。


「クランコ!」

「クランコさん大丈夫っすか!」


「大丈夫大丈夫、ただの蹴りや。その女は器やさけ丁重に扱うで。あー………あとは王女やな。王女さえ手に入れば人柱は揃う! あー始まるなぁ。楽しみやでぇ、ホンマ。ワクワクするわ」


「ダメ! アイネちゃんは渡さないからっ!」


 ジュネは水剣を具現化し、シェイクと対峙する。


「水流心一刀流────泡踊りっ!」


 一刀の水剣が流れるように舞いシェイクを襲う。その連撃一つ一つに軽く反応し自慢のステッキで弾き落とす。


「中々筋ええで、ワイも女殴る趣味はないんやが...…..ほらッ!」


「ッア……ハッ」


 ステッキの先端がジュネの鳩尾を突いた。

 圧迫された胸の痛みと共に吹っ飛び気絶する。


「ジュネェ!」


「まぁまぁ、死んではないんちゃう?わからんけども...…...ほなこのオンナは貰っ────………?」


 シェイクのアイネへと伸ばした手は何者かによって掴まれた。

 落としていた視線は赤髪の少女から自分の手首へ移る。



「────ッアイネから離れろ、殺すぞ?」


「ほぉ―――おもろいやん」


 雷が迸るほとばし鬼の顔をした黒髪少年だった。


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