邂逅
ジジイとの稽古後―――夜。
ヤンビスの森、恒例の夜練に俺は励む。
今日も秘密、いやバレてたから秘密な訳ではないけど特訓に励もうと思う。
それにしてもジジイの言葉が引っ掛かる。というより自分の体についての謎が深まった。
「お前は本来、………そうじゃな、この世界を変えれるほどの力を持っておるのかもしれんな。でなければ魔力官がオーバーヒートを起こさず、あの量のマナを取り込める訳がないんじゃ。」
発現こそしないもののマナ吸収量のみをあげるなら世界屈指じゃな、と判子を押された。
まぁ、あくまでジジイが見てきた中ではの話になるが。
「そもそもお前ほどの馬鹿げた吸収力は見たことないわい。わしでさえも敵わん。始祖の勇者ビオント=アグリオーニでさえもお前の足下にも及ばんだろうな」
そんな持ち上げた話の後で「発現はしないから宝の持腐れ」と苦笑いされた光景を思い出せる。この世界の勇者を俺の引き合いに出すんじゃない。
それにしても、
「………俺に足りない、発現しない理由はなんだよ」
魔法に対してまだまだ知識が浅いことなんて分かりきってる。マナを取り込み、体を循環させる毎日を繰り返してきた。
いつか発現するだろうと。そのいつかを掴めるであろうと。
ただ一向に何かが変化している気配は………未だにないと思う。
この七年で掴んだのは吸収、循環、それに無意識の奥にある体を駆け巡る何かくらいだろう。それも多分体外に発現する事のないマナだろうけど。
普通の新陳代謝じゃん。 日に日に吸収したマナが無意味な物になっている事がわかる。
俺にはやっぱ魔色がないから、ただのエネルギーに分解されて……
「んなろっ! 発現せよ! 土壁!」
くそぅ……無理だ。
それでも諦めがつかない自分がいる。
初歩の具現化魔術すら発現しない。そんな事を何年も何年も繰り返してきた、はずなのに。
俺のなんともいえない叫びにヤンビス森の木々達は笑う。巨木を揺らし、しなる。
「あっークソッ! くそぅ………」
俺じゃ、やっぱり無理なのかと地面にぺたりと座り込む。
夜風も今日は少し痛々しく俺のテンションもただ下がりだった。
だけど、だけど………だけど。
ここで心が折れては前世の二の舞になる。
これといった事もなく、良く言えば運命通りに生きてきた前世。
勿論挫折なんかもあったし、その度に楽な方を選び淡々と息を吐く作業を繰り返してきた。
でも、今は違う。適当になんか終わらせない。やれる、まだ俺はやれる。
ため息を吐き散歩でもするかと、立ち上がりを決めた時だった────
『<〆∥ £&*!!!』
突然この森では聞くことの無いであろう音が森全体を揺らした。そして響く。
言葉? いや音?
なんにせよ言葉なのか、音なのかさえも今は定かではない。でもこの音に既視感がある。
『t/jn,!"!』
その不快な音は少しずつ俺へと近づいてくる。
ヤンビスの巨木達が不快な音を嫌がる様に葉を揺らす。
『オマエガ£&*〆< コン#"$ ヵ!』
「なんだよ、この声?」
今度は少しだけ読み取れた。
声に暈しぼかしが入ってすべてを聞き取れない。
しかし体が冷や汗を垂らし警報をガンガン鳴らしてる。
これはヤバイ。ヤバイ前触れだろこれ。
毛穴から汗がぶわっとふきだし額を伝い地面に落ちる。
『コ』
『ロ』『ス』
その音は明確な言葉になり、俺の危機感知上限を突破した。
「──ッ嘘だろ? おぇ!?」
明確な殺意、突如それが頭上から降ってくる気がした。
咄嗟に転がり回避し、その場から離れる。
その落ちてきたモノに俺は目を向けた。
『ミぃィぃ"イぃ!! ツケェタァ"!オイシソナタマシイ"!!!』
それは前世で山田つよしを木端微塵にした豚の怪物に類似する魔物だった。




