ノキノギの涙
間も無くして七人は墜落する。
クランコはジュネを抱きかかえ、リューズもまたアイネを抱き込んだ。どう転ぶかわからない状況での人としての本能。
「地面が見えた! 全員、歯ァ食いしばれぇ!」
クランコの咆哮と共にドンッ!!!!と大砲を発射したかのような音をあげ、瓦礫と共に地面に激突した。
到底人が関わっていてはいけない音。
「……カハッ……ッ……」
アイネを抱え背中から激突したリューズは、咽むせながら吐血し、気を失う。
抱き抱えられていたアイネは茫然としていたが耳元で苦しむ声を聞き、頭が覚醒した。
「りゅーず!?」
他の者は多少激突の痛みがあったものの、ほぼほぼリューズがダメージを肩代わりし、すぐ様立ち上がれる程であった。
落ちた先には瘴気が無く全力の魔闘気によって悲鳴をあげていた全員の魔蔵器もマナの吸収をやめる。
──起こる二次災害。
「ジョズッ!!!」
ビブルの叫びで上を見上げる。
失神しているリューズを襲う落石が目に入った。アイネは治療の為、周りが見えていない。
「フンッ!」
誰よりも近場にいたジョズが瞬時に駆け出し、アッパーカットで落石してきた大岩を粉砕する。他の者も直ぐに立ち上がりリューズの元へと駆け寄った。そんな中、泣き喚きながら治療をする赤髪の少女──アイネ。
「やだよ、やだやだやだ、やだぁ、やだ……よ」
もはや、ヒューヒューと小さな管を通る音しか発せないリューズ、その光景しか見えていないのだろう。
赤子のように涙を垂らしながら必死にヒーリングを唱え続ける姿に他の者は息を飲んだ。
すぐさま状況をフォローする為、パーティ内で唯一回復魔術を使用できるサミがアイネの隣に並ぶ。
「大丈夫っすよ! 絶対助けれるっす! アイネさんはヒーリングを! 俺っちはリジェネレイトをかけるっす!」
サミのアイネに対するフォローは痛々しく見えた、誰がどう見てもリューズはボロボロの死にかけ。ただ人の形を保っているだけ。
六人分のダメージを肩代わりした痛みなど、ここにいる者に想像などつかない。
想像絶する────それだけ。
「あああああ! クランコォォ! すまねぇ! 見てらんねぇ! 持ってきたポーション全部使うぞ!」
ビブルの焦りを含んだ声にクランコは首を縦に振る。自分に託されていたパーティ用回復薬。
それを半ばヤケクソ気味にバッグより取り出しリューズへと振りかける。
びしゃびしゃと音を立て体へとポーションの液体は染み込んでいくが、……焼け石に水、まさにその状態であった。
「わ、私達にほとんどダメージが無いところをみると、完全にリューズ、くんが……肩代わりしてくれたって事ですよね?」
「間違いなく。どれくらい落ちたか分からんが、この滞空時間だ……いくら魔闘気を全力っていったって、俺らがここまで無傷でいられる訳がない……」
落ちてきた穴を見つめる。
高さを考え震えあがる手。
ジュネとクランコは唇を噛み締め、目線を移す。
「りゅーず? ねぇ、ねぇ! おきないの? やだよ、やだよ……ねぇ?」
悲痛。アイネの魔臓器はオーバーヒート気味、そんなもの構うものかと吸収を繰り返し回復術を発現する。
「ランザルクさん! 大丈夫っす! 大丈夫っす……なんとかなるっ……す」
糸の切れた人形のように座りこみ、涙を枯らしていくアイネ。
止まらない回復術の光がもしかしたら、といえる希望の光だった。
──だが、隣のサミは励ましながらも冷静に分析する。補助に長け、冷静さを残す、その上でのサミの判断。
(ムリっすよ……回復魔術なんて、意味ないレベルっすよ!!)
サミは心の声を喉元で塞きとめた。
諦めてはダメだ、とアイネに励ましをかけ、自分自身も心の中で叱咤した。
(なんとか、なんとかならないっすか!?)
そんな光景を見ていられなくなったナルシアは何処に続くかもわからない道へと歩みよった。ふらふらと。
仲間が死ぬ、そんな事今まで沢山あった。あの状況で最年少である少年が皆んなを守るという選択を取れた事、それを実行する勇気、決断。
それは残った者、助かった者に多大な自己嫌悪を与える。
死=単純ではない。リューズという少年の決断は有耶無耶には終わらせる事ができない。
何度も何度も、落ちるあの瞬間がナルシアの中でフラッシュバックする。
「リューズ君に助けられタ。……あの滞空時間を考えるト…………二百メートル以上の落下ダ。ダメージ六人分……」
脳内を駆け巡った計算は吐き気となりナルシアを襲った。
もし、リューズがいなければ?魔闘気を纏ったとしても運次第、余裕で死に至るその落下ダメージ……それを六人分。
「さすがニ……助からないネ……」
フラフラと壁を伝いながら歩みを進めていく。あの場にいれなかった、リューズの掠れゆく声に鼓膜の裏にこびりつくアイネの涙声、助けて貰ったからこ・そ・直視出来ない残状。
頭を毟るように掻けば気がつく、自分の被っていた魔法帽がない事に。
「──……そんな場合じゃないネ」
手を広げて見ると抜けた銀髪の髪が指の隙間に絡みつく。それが洞穴を駆ける風に流されていく。風と共にふわりと毛が散る方へとナルシアの目線がいく。
「ア?エ──」
目に映ったものを理解するまで時間がかかる。しかし理解した瞬間、裏返ったカエルのような声が出た。
「ノキノギのナミダ?」
──目に入ったのは八層など比べ物にならない程、大規模で高密度のマナで形成された沼湖だった。




