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オーガ



 皆の同意により八層の探索は続く。


 沼湖が広がる空間より先はクランコ達も未知の領域だった。一般的な情報にも七層以降の地形図は基本存在しない。


 もし他の冒険者がマッピングしていたとしても価値が高く、特に深い層における情報交換はない。公式な売買や裏でのやり取りはあるが、買った情報を安易に流す事はないと言える。


 マッピングが他パーティに渡ると、財宝や希少なアイテムに目が眩み、力足らずで死んでいく者達も多いのだ。だからこそ冒険者の原則は自分達の力量を知る事に尽きる。

 自分達が潜れた場所だったのならば情報など必要ない。行けない所だからこそ情報が無いと思うボーダーを引く。

 そうなってくると情報の流通は当たり前のように少なくなり、情報市場価値は更に上がる。だが、真の冒険者は知っている。

 未知とは恐ろしいものだ。力無き者を眩まし喰う怪物なのだ。


 クランコの話によるとひと月──

 ひと月で六十人以上が命を落とす。

 その内半分以上は己の力量以上のダンジョンや、討伐に"情報"のみで出向いた者達の結果らしい。

 情報は己を生かすが、殺しもする。

 だから冒険者達は自分の足を運び見極めなければいけない。そのラインを。





「気を引き締めていこうぜ! しっかり索敵してやるからよ!まかせとけや!」


 ビブルの掛け声はパーティに安心感を与えた。 

 完全に先手の取れる戦いが出来るという事はバックアタックに比べ、ダメージも緊張感の張り方も変わる。

 下手に力まず、足を進めれる状況は安定を意味した。


 俺もビブルの索敵のみで大丈夫だと安心していた。凄く精度が高いからね。


 そうこうしていると、


「別れ道っすね」


 完全に左右に別れた道に俺達は足を止める。


「全く未知だからナ、どっちに進んでもいいダロ?」


「じゃあ、右だ。瘴気が濃すぎて反応悪りぃが、魔物の反応もあるし道は続いてるだろ」


「ビブルの予感は当たる。今回は右に進むか」


 クランコの決定により右に逸れた道へと足を進める。八層に入り明かりを灯し続けていたアーリチ鉱石が少しずつ減っていく。洞道どんどん大きくなっていく。


「リューズ、ちょっと暗くなってきたね?」


 アイネの言葉に「ああ」と相槌を打つと先頭を歩くビブルが声を張り上げた。


「一匹くるぞ!強えやつが!」


「敵を確認次第戦闘に入るッ!」


 クランコの声により皆が武器を構え、先を見続けた。地響きと共に姿を見せたのは灰色の毛皮を纏ったオーガ。


「ジェネラルオーガッっすよ!」


 灰色の毛皮と体の半分近くある大岩を片手に現れる。ジェネラルオーガは完全に戦闘にのみ特化したオーガ界の切り込み隊長。


「ジェネラルがいるってことはサ、この先オーガの巣って事じゃないカ? ビブル?」


「……いやこの先に魔物の反応はねぇぜ? はぐれたオーガか、変異種か?」


 二人のやりとりに俺は索敵を行う、……確かに他の魔物の反応はない。


「──アイネ、戦闘準備だ」


「わかってるっ!」


 突如ジェネラルオーガが大きく振りかぶり、手に持つ大岩を放つ。轟音放つただの岩は完全に俺達に向けられた先制攻撃だった。


「サミっ!」


「わかってるっすよ! 大地の護りをー大地の鎧ストーンアークっ!」


 投げられた大岩の前に大楯を構えたクランコが立ち防ぐ。

 サミの唱えた防御魔術はクランコを包み、構えた大楯に勢いよく大岩が衝突した。


「おりゃああああああああああ!!」


 完全に勢いを殺された大岩は左右に砕け散り小石となり舞う。各々がそれと同時に開戦の火蓋を切った。


「水流心一刀流ッ! 五月雨ッ」


「吹き荒れロ! 突風刃に化けヨ──大風ノ一太刀ウインドスライサー!」


 ジュネがクランコの背後より飛び出しジェネラルオーガに向けて滑走する。水分身による連続突きがジェネラルオーガの足を襲う。

 追撃にナルシアの風魔術による一太刀が顔面に直撃するが、


『ウォォォォォォオ!!』


 ジュネとナルシアの攻撃はまるで蚊にでも刺されたかのように軽く、一蹴される。


「──んッ!」


 ジュネの水分身は振り回されたオーガの上半身により破裂し、その余波を食らったジュネ自身はクランコより遥か後方へと吹き飛ばされ、壁に激突。


「ジュネちゃんっ!!」

「ジュネ!」


 アイネがすぐさま駆け寄り回復魔術を施し、自身の魔闘気をジュネにも連結させる。

 気を失った為、練り上げていた内闘気を四散させていた。

 アイネのとった選択肢はジュネを瘴気から救う事になる。


「ジョズッ! リューズ! ナルシア! ここは早く決めたい! 引くにしてもアイツの足を止めなきゃならない!」


「まかせろ、いく。」


「サミは全力で補助魔法をかけろッ! ナルシアァアデカイやつを一発! ビブルはアイネとジュネを守れ!」


(クリエイト!出来るだけ硬い剣をくれ!)

【イエスマスター、オーダーアダマンタイトソード】


 クリエイト選択による硬度を誇る剣が手元に具現化、発現される。


「右を狙え、挟むぞ」


 クランコは大楯による打撃で、ジョズは具現化したナックルでジェネラルオーガへと詰め寄り打撃を打ち込む。


 ジョズの一撃は弾丸が如くジェネラルオーガの右太腿を打ち抜く。クランコの打撃が衝撃波を発生させオーガを後退させた。

 しかしそんな事では戦闘狂いのオーガは止められない。巨体に似合わぬ速度でジョズの追撃を己の拳で受け止める。


「オーダクリエイトッ! 火球ファイアボール!」


 放たれた火球は牽制の意味を込めてジェネラルオーガの頭部にて破裂した。


 ボンッ! ボンッ! ボンッ!


 計三発が着弾。

 ほぼ同時にアダマンタイトソードにより斬り込む事に成功するが、オーガの強固な皮膚に弾かれる。全く傷付かない鋼鉄の鎧はただ手を痺れさせるだけであった。

 ほぼ素人のような剣術では硬き剣であっても意味は成さない。そう切れ味のない鈍器である。


【マスター。剣の扱いが素人です。魔術か、聖印の刀によるデバフダメージがいいかと……】


 クリエイトによる残酷な提案は有無も言わさず許可される。新たに具現化された聖印の刀を持ち疾走する。そして初手の切り口を左脚へと刻む事が出来た。この刀の切り口は断続的な毒となり蝕む。


「────っ示したまえヨ! ──火と風の教典アドミックフレアッ!」


 ナルシアの魔術は数刻の詠唱により複合魔術として放たれた。風に運ばれた蝋燭の様な灯火がオーガの頭上にて渦巻く。

 灯火の消滅と共に轟音をあげ火柱をあげる。


「クリエイトッ!」


【マイマスターこの状況における最適解はナルシア殿の魔術とオーガを囲ってしまう事です。……マナを頂きます】


 クリエイトの心象がなだれ込む。


『「オーダーッ!絶対的な鎖アブソリュート」』


 未だ轟音をあげジェネラルオーガを燃やし尽くす火柱、それに鎖が巻きつき閉じ込める。断続な火と毒の攻撃。

 鎖が炭化しオーガが消し炭になるまでの間、断末魔が耳に響くのであった。


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