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八層にて

 


「ここから八層へ転移する。みんな準備はいいか?」


 クランコの呼び声で各々が声を返す。

 これまでただの階段だったのに八層からは転移という形らしい。


「いくっすよ!」


 サミが魔力を流し転移紋を起動させる。

 パリパリィと光り輝き、その紋の上へと足を進めた。

 ──突如視点が暗転する。

 閉ざされた眼を開けるとそこは綺麗な光がチラチラと煌めく洞窟の中だった。


「やけに明るい壁だな、瘴気も濃いし」


「チラチラ光ってるのはアーリチ鉱石ダヨ。街じゃ街灯とかに使われてル、便利な鉱石サ」


 ナルシアが俺の疑問を解消してくれる。

 確かに集めれば光源となりそうだ。

 色味が優しく、目が痛くない。

 隣にいたアイネは「綺麗だけど瘴気が濃くて霞んで見えるね」とこぼす。


「沼湖までは少しかかる。ここから先は常に魔闘気を切らさないでくれ。モンスターの索敵はビブル、任せるぞ」


「おうよ! まかせとけ!」


 六人はクランコの後に続く。

 八層からは複雑に迷宮化しているらしく、初見では沼湖に辿り着くまでにかなりの時間を要するらしい。


 だからこそクランコが手に持つマッピング、それを頼りに先へと進む必要があった。


「魔物の反応だ! ワーウルフが十! くるぞ!」


 ビブルの索敵による敵の報せ。

 念の為に俺もオーダーによる索敵を行なっており、ビブルの索敵の精度に感心する。


「了解だ。その数ならジョズと出る! 他は温存しておいてくれ!」


 そう言いながらクランコとジョズが武装し前へと出た。ワーウルフが目視出来る距離に入ったとほぼ同時ジョズが魔闘気の出力を上げた。


 マナ嗅覚を頼りに獲物を見つけるワーウルフは人の肉を良く好む肉食魔物であり、マナの流れには敏感。

 

 ワーウルフの群れは隊を成し、ジョズの魔闘気に反応を示しあからさまに敵意を表した。


 その群れに人ほどの大きさがある銀色の楯が投げつけられる。


 クランコの手から離れた一枚の楯は凄まじい音と速度を兼ね備えトマホークの様に飛来する──が、ワーウルフはマナの流れを読む事に長けた魔物。


 半頭以上が避ける事に成功する。

 そのまま何匹かのワーウルフが速度を殺さずクランコに飛びかかったが、新たに生成具現化した盾によって弾かれた。



 クランコの得物は魔術で具現化する銀色の大楯である。

 攻防を兼ね備えた安定感はパーティの要になるのも頷ける。


「ジョズッ! いまだッ!」


 残ったワーウルフの小さき群れにジョズが単身突っ込む。

 魔闘気を膨張させ繰り出されたショルダータックルはワーウルフを勢い良く四散破裂させていく。


(えげつねぇ、風船みたいに消し飛んでるぞ)


 走り方でアメフトタックルを想像させたが、威力はまるで大型トラックに跳ねられたような。壁が一方的に押し込むような。


 残党ワーウルフもクランコの大楯の打撃によって生き絶えていく。


(技術のある力押し……か)


「ジョズ大丈夫か?」


「怪我はない。この程度」


 二人はお互いを労いパーティの元へと戻ってきた。


「強い……」


 俺の口から溢れたのは単純な賞賛だった。

 俺のように特別な力を有している訳ではないのに。純粋な戦闘経験値、技術による戦いは俺の中の何かを駆り立てる。


「よし、どんどん進もう。マッピングを頼ればすぐだ。魔物との接敵がどれだけあるかが問題だがな」




 深くまで進めば進むほどに瘴気が濃くなり、少しばかりか息苦しさを感じるようになる。

 魔物もワーウルフ以外にライザーウルフやゴブリンイーターなども混ざるようになってきた。


 それでも難なく戦闘をこなし奥へと進んでいく。

 それにしてもこのパーティは穴がない程完璧だった。連携は勿論の事、各々の役割がキチンと分担されている。


 クランコ、ジョズは盾兼物理魔術によるアタッカー。

 ナルシアは完全な魔術師、火と風をメインに使い魔物を殲滅していく。

 ビブルは索敵や斥候を担い、戦闘には殆ど参加していない。サミは回復や補助の魔術師、このパーティ内で最も魔臓器にマナを取り込める。

 ジュネは水魔術を行使する剣士、遊撃手のような動きで手が届かない場所を拾っていく縁の下の力持ち。


 さらに俺とアイネ。

 八層であっても、群れに襲われても、関係ないほどに強く安定感があった。

 軽々と敵を倒しいき、予定より早く沼湖にたどり着く。


「速く着いたな、これも二人が強いお陰だ!」


 クランコは俺達に労いの言葉をかけ、マッピングした地図を片付ける。

 クランコがさりげなく指を指す先、そこには小さくもなく、大きくもない湖が広がっていた。


(沼湖って名前だから、もっと汚いもんかと想像してたのに)


 目に映るのは綺麗な池。池にしては巨大で湖にしては底が見える程浅い。

 透き通るような水がアーリチ鉱石の光を飲み込む。


「リューズ。早速この沼湖の水を汲んでくれるか?その間、周辺の護衛は任せてくれ」


 俺はマジックバッグより水筒を十本取り出し膝をつけ水を汲んでいく。

 この水筒はおよそ五リットル程溜め込む事ができ、マナの循環が優れている魔筒。

 水筒をチャプチャプと沼湖に沈め蓋をし、そのままマジックバッグの中へと収納していく。


「結構暖かいんだな。見た目は冷たそうなのに」


 数分程で全ての水筒を満たしきり片付ける。


「水は蒸発してないカ?」


「大丈夫だな。マナを循環させてるし、全く問題ないみたいだ」


 実際マジックバッグ内は自分の意思関係なくマナが均一で循環している。持ち運ぶのに苦労などなかった。


「リューズくんはマナの適応循環に優れてるのですね」


「すごいっすよ! 初見で水を蒸発させないなんて!」


 皆んなが賞賛してくれるが当たり前だ、汲んでる際にクリエイトが補助してくれていたからな。

 自分だけだと水のマナとの均一化なんて難しくて出来るわけがない。


 恥ずかしい。


 ロゼッタはある一定以上のマナを流せば蒸発しないと言っていたがクリエイトの解析結果は水温によるマナ性の変化だった。


 ちょっと小難しい話だったが、この沼湖は季節や瘴気などで水温の変化があり、その度に均一化するマナ量が変わるとの事。


 前回汲めた時はこのマナでいけたから、今回も同じという話ではないらしい。毎回毎回変わると面倒だな。水の希少性も頷ける。


 ただクリエイトさんに計算させればそんな難しくない。季節による法則性もあると解析結果に出てたし。突き詰めれば汲む為の魔道具も作れそうだ。


(ロゼッタに教えてあげよう)


「リューズに任して正解だったな、後は7層に戻り、一度休憩してから街へ上ろう」


 クランコの提案に皆が首を縦に振る中、ジョズがもう少しマッピングと呟く。


「まぁまぁ、そうっすよね! 予定よりも早く着いたし、水も問題なさそうだし。もうちょっとマッピングしてから帰るのもありっすよ!」


「賛成です、リューズくんもアイネちゃんも問題ないならもう少し進んでみませんか?」


 サミとジュネは乗り気のようでジョズに賛成した。


「俺は問題ないぞ? 元々行ける所までいくつもりだったし」


「わたしもリューズが大丈夫ならついて行きます」


「リューズとランザルクも大丈夫みたいだし、こんな機会は中々ないしな! もう少しマッピングするか」


 これが運命の始まりを告げる選択とは俺達は知らない。


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