ダンジョンorごはん
あの夜さらにウェスタと飲み明かしアイネや王国、帝国、昔の戦争など色々話をした。
アルガモの一件が合った為、俺は帝国の話に食いつく。はるか昔の帝国との戦争後、平和の協定を結びとりあえず形は仲直りしたらしい。
そう形だけは。
実情は今も水面下──冷戦状態らしい。
それにアルガモが前回よりも強化されていたという話があがっているとの事。
ウェスタさんのお父さん曰く、前回出現時は少なからず理性的で人の言葉を喋っていたとか。
確かに俺が見たアルガモは一言で言うなら獰猛な怪物だった。それに人の言葉なんぞ一言足りとも放っていなかったし。
「ありゃ合成魔物キメラだ。色んなもん混ぜまくって、出現毎にそれが露呈してた。いったい帝国の野郎どもは何を混ぜたんだろうなぁ」
今思えばチグハグなモノが必死に形を保っているようにも見えたし……
「リューズがいなかったら王国も危なかったなぁ……──」
麦酒と話で夜が深まっていく。
◇
◇
◇
翌朝、アイレッド=マザーバッグ現役復帰の報せに王国が賑わっていた時、リューズ達はノキノギの街を発とうとしていた。
「ウーマってホント馬じゃん」
ノキノギよりダンジョンまでは訓練された魔物を使い移動する。このウーマと呼ばれる魔物は珍しく、他の魔物に敵対されにくい特性を持つらしい。
餌付けと訓練次第ではこのように人の移動手段になり得るのだとか。
笛を貸し出され、吹けば直ぐに飛んでやってくる従順さも持ちあわせる。それもこれも調教師の腕次第だが。
「むごうにづいだらウーマは、はなじでやっでげろ。かっでぇに草ぐっで帰りまっでるがらさー」
(訛りすぎだろ)
ヤケに濁音の多い調教師より、大方の説明を受け走り始める。ウーマは約六十キロの速度で駆ける事が可能でダンジョンまでの距離ならば休憩も必要ないらしい。
「わあぁぁ、はやい! はやいよっ!」
アイネが後ろで楽しそうにはしゃぐ。
うん、原付並の速さだ、確かに気持ちいい。
「ちゃんと掴まってろよ? 落ちるぞ?」
「大丈夫だって、しがみついとくからっ」
そんな事を言いながら楽しそうに周りの景色を眺める。昼前の快晴という事もあり、清々しい気分で先を進む。
少しばかりの泥濘みがある森だがウーマは気にせずグングン足を運ぶ。
二度程自分達の休憩を挟み森の奥へと侵入。
周りの木が小木から大木に変わり十五メートル程の長さに達してくる。
(木がデケェな。人の手が入らないからか?)
草木の量で太陽の光が入りにくい状態なのか少しばかり薄暗くなってきた時ウーマの速度が落ちた。
「着いた……みたいだな」
一般人立ち入り禁止と書かれた看板の横に詰所のような場所がある。
そこのドアがガタリと開き一人の男が出てきた。
「これより先はノキノギのダンジョンだ。許可が無くては進ませる事はできない」
その者の服にはハーバス紋の刺繍がされており、貰ったレリーフを見せる事で簡単に中へ入る事が出来た。
気をつけていけよと言葉をかけて貰い先へと進む。
詰所から定期的に建てられた看板を沿って歩く。
道などない。
完全に自然そのままであり、湿った地面が歩きにくい。
その自然を堪能していると洞窟の入り口のような場所が眼に入る。
「ついたね!」
「ああ」
もう、どっからどう見ても洞窟。
外国の旅行写真で見たような。
洞窟入り口直ぐの階段を下った先にはこれよりノキノギの地底沼湖と書かれたボロボロの看板が乱雑に突き刺さっていた。
そうして俺は初のダンジョンへ侵入するのであった。
中は暗く、定期的に人工的にぶら下げられているランタンを頼りに歩く事になる。先駆の冒険者達が入る度に付け直しているそう。
一層は対して強い魔物はおらず、戦闘を軽く挟みながらもペースを落とす事なく俺達は進む。
「全然大したことないないねー? あの大きいコウモリがほんとうに気持ち悪いけど」
ダンジョン内は凄く大きい洞窟のような感じで天井が高い。
一層は主にコウモリの魔物が多く、体長二メートルを超すコウモリが襲いかかってくる。
初見、俺達の目の前に現れた時、アイネは女の子全開で叫び腰を抜かした。
俺自身もアイネの手前があったため悲鳴こそあげなかったが内心気持ち悪さでドン引きしていた。
「キモすぎる」
「やだやだ! 斬る!」
だが慣れとは怖いもので、奥に進む内にただの一魔物として片付けられる事に。
「もうそろそろ二層の階段があってもいいと思うけど」
洞窟内は何故か明るく、基本一本道な為迷う事がない。歩き続けて何時間か経つ時、目の前に下へと降りる階段が現れた。
「ニ層に辿り着いたらまずは周りの敵を一掃して、テントを張ろう。そろそろ休まないとな」
俺の提案にアイネは喜び返事をあげる。
二層は一層より少し瘴気が濃い。
周りのモンスターを一掃した際に枝分かれした行き止まりの空間へと辿り着く。
前回の冒険者の物だろう、火を起こした跡があり寝所にするには良さそうだった。
「オーダーマジックバッグ」
異次元な鞄に手を突っ込み、必要な物を取り出す。テントにファイアストーブにテーブルイス、調理器具に細々とした物。
「ちょっと出しすぎというか……快適すぎない?」
俺だからこそ持ち運べる量と質の高さにアイネは驚く。これじゃ家と変わらないと笑う。
「まー外だからって適当は嫌だし。やっぱり快適な方が明日の疲れにも響かないかなと思って」
そんな事を俺は言いながらファイアストーブにオイルを敷き点火した。
テントはワンタッチ式で四人までなら余裕で雑魚寝できる大きさ。
高いだけあって魔力を流すと自動で洗浄してくれるし、虫なども近づいてこない。
「冒険業の野宿がこんなにも快適なら引く手数多ね」
手際の良さと事前準備の完璧さはパーティの要であり、戦闘の次に必要と求められる技能だと俺は知っていた。それは王城にいた時に嫌と言うほど聞いたからな、遠征って辛いらしい。
「褒めてくれてありがと。軽くご飯にして、寝よう、今日は俺が作るよ」
「ほんと!? 楽しみにしてますっ」
この世界に来て初の調理だが器具などは地球産とほとんど変わらず、便利な物が多いくらいだった。
「今日はこれを使うか」
異次元の鞄に手を入れ取り出したのはアイゼンバードのモモ肉と肝と砂ずり。
菌は異次元の鞄に一度しまう事でいなくなってしまう事を利用した刺身料理とモモ肉はアイゼンバードの肉性を利用した茹で料理。
どっちも簡単だが間違えなく美味くなるであろう。
「地球だと生で食べるの怖かったもんな。アタっても食べちゃうくらい美味いんだけど」
日本に住んでた際に何度カンピロバクターにやられた事か。
この世界の鳥の菌がカンピロバクターなのかは知らないけど、この異次元の鞄があれば完全に菌を消滅させる事ができる、クリエイト談だ。
俺にはどういった原理か不明だけど。
(マジックバッグ様様だ)
まな板の上で既に加工済のモモ肉を広げ、一口台に切り分ける。
その横でコンロ代わりのファイアストーブで水を沸騰させ、緑葉と生姜を臭み取りとして放り込み切ったもも肉も鍋に落とす。
砂ずりは銀皮を剥がし薄くスライスし盛り付ける。軽く生姜をすりおろし横に添え、ベーリズ商会で買ってあった甘めの醤油を用意した。
肝はオーダーウォーターで軽く洗い血の気を出来るだけ取り除く。オーダーの使い方が間違ってる気がしてならないが気にしてはダメだ。
これも斜めに包丁を入れ薄くスライスした。
その際に出てくる血の気はキッチリ取り除く事を忘れてはならない。
お皿の上に長く盛り付けされた肝に少々の塩とごま油をドバッとかける。
刻んでおいたネギを軽くまぶし、胡麻をすり潰しかける。
その間に茹であがったもも肉にノキノギの街で購入した柑橘系のソースを惜しみになくかける。
余ったネギを軽くまぶす。後は簡単なサラダを作る。
「アイネできたぞっー」
呼ばれたアイネは机を見てびっくりする。
どれも食べた事がないような調理がされているから。
「生肉?」
「心配ないぞ、完全に菌はいない。火を通した状態だと思ってくれればいい」
そうこうして、席に着く。
恐る恐るアイネが鳥の刺身を口に運んだ。
俺はドキドキして返事を待つ。
噛む事にアイネの目が肥大し、そして、
「おいしい!!!!!」
と漏らしたのであった。
内心安心する。それに間違えなく美味いだろ──……
アイネが食べていた肝の刺身へと手を伸ばす。
口に入れた瞬間に一瞬だけ広がる動物の臭み、それをかき消すごま油の香りと塩の強み。
柔らかく美味しい。見た目少し赤みが強かったから臭みを心配したが関係なしの美味さだ。
「これはいるな」
異次元の鞄に手を突っ込みグラスを二つ出す。
その後に取り出したのはベーリズにて購入していた蒸留酒──リリンゴッド二十一年
氷袋を取り出しコロンとグラスに落とす。
購入時に聞いたのだがリリンゴッドとは酒造者の名前らしい。
作った本人が一番美味しい時期にと厳選し八年と二十一年で出荷されるとの事。
そして八年物は完全廃番になり、残るは二十一年物が少しだけ。酒蔵は既に製造中止している為に大変希少価値の高い物だとか。
値段はそこそこしたが店主の勧めもあり購入していた。
カラン
トクトク
グラスに軽く注いだだけで広がるチョコレートのような甘い匂い。
アイネもお酒好きという事で一緒に飲む事に。一口飲んだアイネの感想は甘く、甘い。でも凄く良い香りで飲みやすいだった。
アイネの感想に喉を鳴らし俺もグラスに唇をつける。
(あああああぁあ)
凄くピーティー。この世界でもピーティはあるのだと笑う。
まるでチョコレートを焦がしたかのような香りに口内に染み込むような味わい。
日本にいた頃に戻ったかのような錯覚すら生む。
「このモモ肉と凄く合うねっ! お互いに香りが強い物同士なのに全然喧嘩しないし!」
と安定のもきゅもきゅゴクゴク。
こっちの世界の住人は酒に強いなあと思いながら砂ずりの刺身へと手を伸ばす。
これがまた甘めの醤油に合う。実際は醤油ではなくチャイロと呼ばれるものだが、完全甘い醤油だった。
コリコリとした食感にお酒もまた一興。
「すごく幸せだよねぇ、今。ダンジョンの中とは思えないよ」
アイネの笑顔を見ながら酒とご飯を噛みしめるのであった。




