伝説の帰還
時同じくして、ハーハズ王国王城王座謁見の間。
白髪の筋肉隆々な一人の男が王城内を歩き、謁見の間へと足を運ぶ。
齢六十を過ぎてるとは思えない体躯。
小皺が目立ち、何より昔より一段と変化を遂げた白髪が目に入る。
ツイド王を守る兵士達も緊張し背筋の伸びがいつもより良かった。
「これは……これは、久しいのマザーバッグ、体の調子はどうじゃ?」
「久しぶりじゃの。まあまあいい感じじゃわい、それにヤンビスの森は体に効く薬じゃからな。ツイドも変わらないようで何より」
左右に控える兵士達はかつて英雄と呼ばれた伝説の戦士を目の前に騒めき立ち始める。
これは突然の訪問。
ハーバスの地に生まれ育ち生きてきた者なら知らぬ者はいないと呼ばれるアイレッドの名──
「突然の訪問びっくりしておるところもあるが、お主があの地を離れたということは理由があるのではないか?」
白髭を撫でながらツイドは尋ねた。
「理由という程でもないわい、ただ息子がここに来ていたと聞いてな。ロゼッタがワシに手紙を寄越したのじゃよ。あやつも色々巻き込まれたようで」
アイレッド=マザーバッグの息子という表現に誰もがハテナを頭に浮かべる。
隣に立つバルバトスさえも。
「マザーバッグ殿の御子息がこちらに? 来ていた?」
バルバトスが代弁者となり質問を返す。
そんな情報聞いていないぞ、とマザーバッグへと訴えかけた。
「んあ? 来てないんか? 間違いかのー。黒髪のこれくらいの子なんじゃが、……名前はリューズじゃ」
ジェスチャーにより身長を表現する。
そのあと続く名前に兵士、バルバトス、ツイドまでが虚を衝かれたように口をパクパクとさせた。
「……リューズがお主の息子だと?」
「ああ?間違えなくワシの息子じゃが」
白髪の髪を掻きながらマザーバッグは答える。
なんともいえない白髪男の顔にツイドは頭を抱えた、アイレッドには何度も王国は救われているのだ。
それに今回のアルガモ討伐が……リューズが、マザーバッグの息子となれば話は変わってくる。
序列魔の件をわざわざ軍の取柄としなくても、マザーバッグの息子だと話しを打ち立てれば、国民、近隣国にも最高の功績だとパフォーマンス出来たはずだ。
マザーバッグ本人は現在軍を引退しているが、アイレッドという名の絶大さは今も健在、故に道を誤ったとツイドは後悔した。
それもこれも今更遅いが。
「序列二十四魔アルガモを討伐したんじゃろ?……いつの間にかそんな強くなりおって」
「確かに討伐については我が軍の兵士が見届けておるから確実じゃ────そんなことより、誰との間に設けた子供じゃ?」
マザーバッグに女無し。
現役時代の頃から女の影がチラつく事はなかった。むしろ豪傑さと有り余る強さに惹かれた女の数は魔物より多いと言われたマザーバッグだが本人が武において必要無しと否定した伝説も残っている。
「捨て子……ヤンビスの森で拾ったんじゃ」
あまりにあっけらかんと事実を述べる言葉に一同は驚きすら通り越していた。
実子ではないにしても、あの強さ。現役時代鬼のマザーバッグと呼ばれていたこの男……どれほどの修行をあの子に課したのか。兵士達は震え上がる。
「それよりもだ、もうリューズはここにはいないのか? 顔を見たかったが」
「ああ、ノキノギのダンジョンへと行くと言っておった。それにアイネも同行しておる。色々あったみたいでな、リューズを好いておるみたいなんじゃ」
「アイネ……ランザルク家の末娘か。そうかそうか、成長したんじゃな、馬鹿息子もワシと同じでモテておる。うむ、いいことじゃな、しかし──……」
一頻り笑った後、ツイドとバルバトスに目配せする。
「──すまぬ、ランザルク家の者達はまだ」
「帝国側に、何度も交渉は……しかし進展は……」
マザーバッグの目線の意味を悟った二人は、歯切れの悪い口振りで応える。
「なるほどな、帝国の動きも最近活発になってきてるとロゼッタから聞いておる。外交もあまり意味がないようじゃの。挑発的、それに戦の匂い」
うむ。と頭を捻り遠い彼方を見つめたマザーバッグ。言葉が無い時間がしばし続き、そしてツイドを見つめた。
「ツイドよ。老いぼれだが、ワシの力は必要か? リューズとランザルク家の件もある。全盛期の力はもう無い。しても軍に就けば抑制にもなろう。戦は出来るだけしない方が良い。なんといっても相手は帝国じゃ……出来るだけ暴挙を抑制する力はあった方がよかろう」
それは伝説の復帰。
爆弾発言を落とし、謁見の間と翌日の王国内を賑わすのであった。
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