命の恩人
「ありがとうごさいますー! ごゆっくりどうぞ!」
ノキノギの灯宿の受付にてチェックインを済まし、部屋を覗く。
二人で過ごす分には広めの部屋に俺は満足した。
個人部屋は二階で一階は食堂兼憩いの場になっており、数々の冒険者が和気藹々とお酒を飲み交わしている。
「賑わってるなー」
「宿の質が高い証拠だねっ」
もうすぐ完全に陽が落ちるという事もあり、夜ご飯と酒盛りの熱気、香りが食堂中に充満し、俺達の胃袋も動き始める。
(あー腹減ったなあ)
そんな胃袋事情にうつつをぬかし空席がないか見渡す。こんな賑わってるなら相席もありだけどなあと考えていると相方を呼ぶ声が聞こえた。
「おい、アイネじゃないか!?」
喧騒の中、その声の発信元を探す。
あ、居たらしい。
アイネが軽く会釈し手を振る。
その者が座る席へと歩み、ようやく会話が成立する空間となった。
「ウェスタさん! 休暇中でしたよね?」
「ああそうだよ、全治半年! やることねぇから休暇を利用して妻と旅行に来てんだ」
とりあえずこっち来て座れよ! とバンバンと机を叩く。
俺はウェスタと呼ばれた男に既視感を感じながら、アイネの隣に腰掛けた。
「アイネ……その隣のはもしかしてこれか?」
ウェスタは薄く笑いながら小指をちょんちょんと立てる。
「もうっ茶化さないで! リューズくん! 貴方の恩人の!」
「──……おえっ!! マジか! その節はマジでマジで助かった。すまんな治療が長すぎて挨拶にいけなかったんだ。行こうとしてもどこにいるかも確認とれなかったし、……改めて、ありがとう、あの時は助かった」
俺は話の流れも、訳も分からず感謝されるのであった。
◇
◇
◇
◇
「あっははは! いいぞー! 好きなもん頼んでくれ!」
「貴方、あまりはしゃぎすぎは良くないのよ?」
結局話を詰めて聞いてみるとアルガモ戦の時に窮地を救ってたらしい。らしいっていうのはちゃんと俺自身が覚えてないから。
とりあえず俺が来なかったら確実に死んでたと大笑い。笑い事じゃないだろ、それ。
そんでもって療養の休暇を利用して奥さんと旅行に来てるんだとか。
話をすればするほどウェスタはありがとうありがとうと背中を叩きにくるし、奥さんもありがとうが止まらないし、アイネは笑ってるし。
「おう、最後に見たのはリューズだったんだなぁ。確かに黒髪だった。それにしてもすげぇ魔闘気だったよなあの時……耳には入ってたんだが、若ぇなー。それにめちゃ強いんだろ? そりゃそうか……単独討伐だもんな?あれアルガモを。ぶっちゃけ人間じゃねぇよ。あははははっ」
「人間ですよ、あははは」
口が早い。完全にお酒の餌食っすよ、先輩。
凄く酒に飲まれてるウェスタを尻目に俺は注文する。俺の楽しみ、串焼き屋のおっちゃんが言っていたアイゼンバードの胸料理だ。
軽く手を挙げると何人かいるホールの女性が駆け寄ってくる。串焼き屋のおっちゃんが言っていた通り話を通す。
「胸料理ですね? でしたら今ならメニューには載せてませんが、アイゼンバードの胸と手羽元を繋ぐ間の筋肉、通称鬼肩をソテーした物を出せますが、良かったらどうですか? オススメですよ! 希少価値の高い部位ですし!」
鬼肩ってなんだよ。オススメされたやつでいくか。
「じゃーそれを二つと、あとは……」
「──ノキノギ麦酒三つだ!!!」
ウェスタが勝手に横槍を入れてくる、結局それにしたが、イケるんだろ? といわんばかりのくいくいっとするジェスチャーがオヤジそのものだぞ。
しかもちゃっかり自分の分まで入ってるし。奥さんちょっと呆れてんぞ。
「ウェスタさんかなりハイテンションですね」
「当たり前だろー? 命の恩人だ! 親父に昔から言われてんだ、自分の運命を左右する出来事にはきっちりと尽くせってな!」
こんなベロベロのウェスタだがハーバス王国内で3番手に力を持つ貴族の長男らしい。
しかも盾の具現化に置いては右に出るものはいないとか。
パッと見、茶髪のガタイの良いお兄さんって感じだけど人は見た目によらないな。
「あの時が俺の運命の分かれ道だった!! しかもよ、雷のオリジナル魔術を使うんだろ?この世界広しといっても雷魔術なんて使う奴、片手程もいないだろ、そもそも属性系統にないしな。珍しい奴は好きなんだ! ああ、希少価値高すぎて王国も手放さないだろなあ」
ウェスタの言う通り、この世界は火水土風光闇の六行元素魔術が一般的でありそれ以外の魔術元素はマナの使用量がとてつもない為に淘汰されていったと王国の本に書いてあった。
現存するかしないかは定かではないが、時空、氷、雷と昔は多種多様な属性があったが、詠唱の効率化や人自体の進化により今の六行元素に辿り着いたとか。
「お待たせしました! アイゼンバード鬼肩のソテーです! あとはノキノギ麦酒を二つどうぞ!」
待ちに待ったご飯が運ばれてくる。
……これは滅茶苦茶美味そうだ。肉自体は一口で食べ易い形をしており、焼き目がしっかりと胃心を突いてくる。
香りは軽く酒をフランベした様な薫りがあり、少しばかり日本でいうところの山椒のようなパンチも湯気として立ち込める。
「うまそうだな」
「食べましょっ!」
一口目の肉を持ち上げると肉汁の無さが目立つ、と思ったが口に放り込んだ瞬間それは否定された。
溜め込んだゆえのパサつきとも言おうか。
完全に内包されきった汁は口の中でじゅわりと溢れ出し、噛むごとに肉自体の旨味を曝け出した。
「うまい……」
純粋に口から溢れでる感嘆はこの喧騒した場所において独立国家を築く。
何も見えない、何も入らない。
この今においては肉のみが自分との対話を許された唯一の存在だと気付かされる。
口内で後を追ってくるのはパンチのある森のような薫り、この肉の食感と肉汁と相まって美味しさが倍々になるような感じ。
隣で食べるアイネももきゅもきゅと美味しそうにしていた。
「どうだ? リューズ、ここの飯は美味いだろう?」
俺たちが一生懸命食べる姿を見てウェスタは自分が作ったかのように喜ぶ。
その気持ちがわかる為、軽く相槌を打ち独立国家へと戻ったのであった。




