ノキノギの日常
ハーバス王国から魔馬車で南下しノキノギを目指す。四日かかる距離との事。
ノキノギに着いてからは軽く休憩を挟んで後日さらに南下する。
その際にはウーマという魔物の乗り物で地底湖ダンジョン付近まで行くそう。
ウーマって絶対に馬だよなと俺は心の中で笑った。
「この馬車乗り心地よすぎて眠い。俺の中の馬車の常識が消し飛んだ」
俺とアイネは今まさに魔馬車に揺られていた。
ただ馬車といっても想像する馬車ではない。
まず車輪がない、さらにこの馬車を引く馬もいない。そして揺れが殆ど存在しない。
「馬引きの馬車もあるけどね。この魔馬車は聖国領にあるガガグという街で作られたの。魔科学発祥の地だよね。魔科学様様よ」
よくよく聞いてみると魔馬車の動力にはアスピタルという鉱石が使われているらしい。周りのマナを自動吸収するびっくり石。
地球でいう石炭みたいなものかと思ったが緑に光る丸い石との事。全然違うじゃないか。
三両、二十八名が乗れる大馬車を地形の波を受けずに動かせる原理は、馬車の下に搭載されているスライムゴムが衝撃を吸収発散させているからと運転手に聞いた。
色んなことを教えてくれた。車輪の代わりを成しているのが風鉱石ウインドリーンというマナ還元率が良い割と何処でも採掘される石だとか。
んーいまいち分かりづらいけど、ホバークラフトのようなもんかと勝手に解釈をつける。
馬車なのに運転手っていうのも可笑しいなと思ったが、この風鉱石に定期的にマナを補給する人という訳だ。
地球のタクシーのようなものと納得する。ペダルを踏まなきゃ進まないしね。
結局目的地まである程度、人の力は必要だという事は魔法が牛耳るこの世界に来ても同じ事なんだなあと。
「それでも魔科学すげぇな、地球も真っ青技術じゃん」
地球と言葉に出したもののツッコム者はいない。アイネは窓から外を見て楽しんでるし、他の乗客も各々に楽しんでいる。
なによりちきゅう? なにそれ? だからね。
この魔科学というのは俺にとって久しぶりに子供心を燻る出来事だった。
「はやいね! この魔馬車! すぐにノキノギに着いちゃいそう」
アイネはふと窓から目を離しこちらに顔を向ける。可愛いんだよなぁ、どこのアニメだよ。
パッチリ二重の大きいお目々なんて反則だろうに。
「ね? リューズ聞いてるー?」
「聞いてる。聞いてる」
変なポーカフェイスの所為で声が上擦る。
可愛い女の子と旅をするのも一興だなぁと俺は鼻を伸ばし、眼を閉じた。
◇
◇
◇
◇
予定通り四日でノキノギの街に到着した。
これといった事なく、ひたすら寝て、ひたすら食べて、ひたすら喋る。
遠足と突っ込みたくなるが平和な方がいいに決まってる。
時速四十キロ前後で走る魔馬車は全体にリーリンスと呼ばれる魔物が嫌う花の香料が塗りつけられており、弱い魔物限定だが近づいてすらこない。
万が一効果無しの敵が現れたらブーストで加速して逃げるそうな。いやいや魔科学有能すぎだろ。
そりゃのほほんと旅ができるわ。
ただ一部地域だけの話だとアイネは言っていた。まだまだ魔馬車は復旧しておらず、元来の馬車が大半だそうだ。
「ふぁああぁあ……やっとついたな」
「初めて来たけど凄く綺麗な場所だね」
魔馬車を降りた二人の行動は久しぶりの地面という事もあり、背すじをぐーっと伸ばす事で始まりを告げる。
ノキノギの街──
ダンジョンの拠点として盛えた街だが治安が良く活気もある。なにより自然に近いままの街造りは景観が美しく空気が良い。
街自体は小さいが中央にある幅十メートル程の湧水は飲み水として特産品にもなっており、なによりもご飯が美味ことで有名だ。
「もうすぐ日も暮れるし、宿を見つけようか、それからご飯食べに行こうぜ」
「そだねっ! 来る前にジョインに聞いたんだけど、ノキノギの灯宿って所がおススメみたいよ? ご飯も食べれて凄く美味しいんだって!」
アイネの目を輝かせるような情報に間もおかずその宿に決定した。
湧水広場の近くらしく、賑わいと活気を進む。
「色んな屋台があるな。ん? 焼鳥の匂い?」
日本にいた頃に良く嗅いだ鳥とタレを焦がした匂い、思い出の欲望とは怖いもので気がつけば屋台の前で注文していた。
なんていうか、本能だよね。
「んー! 凄くいい匂いだね! 食欲そそる〜」
アイネも満更ではないようで一人一本ずつ注文する。焼いてる物体や串に刺さっている事やタレ焼きしていることを含めても正にや・き・と・り・だった。
看板にはアイゼンバードの串焼きと書かれている。この世界でも焼き鳥が食べれるのかと心が躍る。
「へいよっ! アッチぃんで気いつけてくださいやー!」
渡された串をパクリっと頬張る、日本の焼鳥より二倍以上身がデカく食べにくいが正真正銘の焼鳥だった。
なによりタレが香ばしい。
多分タレすらも地球と同じ様な作り方をするのだろう。何故か醤油とかあるしね、この世界。
色々類似してる部分も多く、料理の再現度が高い。むしろ調理法の行き着く先はどの異国でも同じかもしれない。
やっぱり調味料さえ使えれば美味いんだよなあ。
「はじめて食べたけどっおいしっー!!」
アイネも初めて食べたのか、だけどこれは美味いなあ、お酒が欲しくなる。
「あったりぃめーよ! アイゼンバードはこの地域でしか生息しねぇし、肉がくそみてぇにうめぇっ! ここで焼いてるのはモモの肉だが、胸の肉もうめぇぞ! そこのノキノギの灯宿で食えるから食ってみな!」
アタリだ。この鳥の胸肉を食べてみたいと思えた。
地球にいた頃、焼き鳥が好きすぎて毎日の様に食べてたのを思い出す。
挙句の果てに捌きの工場まで足を運び、中抜き処理のされた丸々の鳥を貰ってきて自分で捌いていたものだ。
それほどまでに俺は鳥肉が好きだった。
「ありがとうおっちゃんほんと旨かったよ」
「美味しかったです!」
期待値が膨らみ、ノキノギの灯宿に向かうのであった。




