ロゼッタの依頼2
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ハーバス王国領管轄ダンジョン──ノキノギの地底湖。
諸説あるがダンジョンとは魔王全盛時代の産物とされており、魔人や魔王による急激なマナの変動が地を変え住処の役割で出来たものだと言われている。この世のものと思えない産物が発見される場合も多い。それは濃いマナが関係しているのではないかと日夜研究されている。
ダンジョンは基本上下の層により形成されている事が一般的であり、内部は濃い瘴気が立ちこめる魔境である。よって一般人の立ち入りを原則禁止とし、その土地の領によって管理されるように決められていた。
今の所確認されているダンジョンは六つ。
王国領に二箇所、帝国領に一箇所、聖国領に一箇所、ギルド管轄が一箇所、そして無所属ダンジョンが一箇所。
「ノキノギの地底湖、全十六層──その八層にある湖沼の水を汲んできて貰えないかしらっ?」
全十六層という言葉に未踏では無いということが伺われる。冒険者的にわくわくが薄れる。しかも俺に頼むってどういう事だ?
「ギルド依頼すれば楽そうな内容だけど?」
俺の言葉にロゼッタは首を振りながら答えた。
「うんうん。えーとね、まずはAランク冒険者」
ロゼッタはそう言いながら四本の指を立てた。
「四人は必要なの、最低人数でね? それで五日以上かけてセーフティーゾーンである七層まで。実際はここからがノキノギダンジョンの本命……八層からは別次元と言われてるわ。瘴気が強くて生半可な魔闘気では数分で廃人。出現する魔物の質も高くなる」
「でも行けない事はないんだろ? 十六層って分かってるて事は未踏じゃないんだろうし」
「確かに八層の湖沼まで行ける冒険者は結構いるわ。だけどもその水を汲んでこれる人は少ないの」
行けるのに汲んでこれないとは、頓知っぽいな。
「その水を汲んでただ持ち帰るのでは蒸発してしまうの。常に一定以上の魔力を流し続けなければいけない。そこまで出来る人は限られてるわ」
希少価値と難易度はAAランクの依頼よ、とロゼッタは付け足す。
「だけど俺は未だに低ランクだし、この前初依頼すっぽかして、三ヶ月依頼受けれないからなあ」
いやー笑えない。依頼の事なんて頭からすっぽり抜けてたし。そんな所じゃなかったから仕方ないといえば仕方ないんだけどね。
「うんうん、それも確認済みです。だから個人的にリューズ君に頼もうって話なの。序列魔単独討伐した君なら多分余裕で行けるもの、ね?」
それにダンジョンに行くんでしょ?
あくまでついででいいわと付け足す。
「たしかに行く予定ではあるけど、未踏じゃないと聞いた時点で軽く覗いて帰ってくるかもしれないし、七層まででも五日以上かかるんだろ? さらに水を汲んで危ない中、魔力を流し続けて、帰ってきて」
魔力を流し続けることに関してはマジックボックスがあれば何の問題もない。
バッグ内は常に俺のマナが循環してるしね。
ただメリットが少ない。人が漁った場所でオマケに用事まで任されるなんて。
──まあロゼッタさんには借りがあるけど、今回は少し難度が高い。アイネも同行するし。
「……四十年前にAAA冒険者ライザ=ジャックって人がいたの。その人が残した手記に記録されていたのが十六層の地底湖と魔狼よ。未だにその手記が事実かどうかはわかってないの。この意味わかる?」
ロゼッタがソファに深く座り紅茶をすする。
その言葉の意味は考えれば直ぐに理解できた。
「ジャックさん以外、十六層まで辿り着いた人がいないって事か?」
「うんうん。アタリ。公式記録ではその人以外はいない。だから未踏と言っても過言はないわ。その地底沼湖の最深部にある沼湖は、八層、十四層にある湖沼と比べ物にならないマナを含んでるらしいの。さらにそれを守る魔狼も物凄く凶悪らしいわ。ライザ=ジャック手記ではその魔狼にライザは腕を噛みちぎられたみたいなの、でもね、地底湖に触れた瞬間に全ての傷が癒えたと綴っているわ」
(凄いな、ファンタジー色強い)
眉唾もの、だけどノキノギの涙を考えればあり得る話らしい。八層の水をベースに作る薬ですら手足の軽い欠損なら治してしまうという。
「水の代価も勿論払います。君が今一番欲しいものなんとなくわかるの」
なにそのテレパシー怖いんだけど。
ロゼッタさん人外説ある。
「その代価次第で水の持ち帰りは決めたい所だけど恩を貰ってるからこれで借りを返すよ。行けるかはわからないけど、ね。とりあえず行ける層までは行ってみたいし」
「ほんとっ! ありがと〜! でも代価はちゃんと払うわ! リューズ君とはこれからも良い関係でいたいからね! うんうん」
そう言いながらロゼッタは立ち上がり部屋の隅にある机へと向かう。
「私が出す報酬一つめはっ! じゃじゃーんっ!」
依頼の受諾が嬉しかったのか、ロゼッタは満面の笑みで手に持っている紙を広げた。
そんな大きくない広げられた一枚の紙。彩良いその絵は誰かが書き込んだような痕が沢山ある。
それは前世で見た世界地図のよう。大陸の形こそ違うが、それは紛れも無い。
「地図?」
「そだよ〜! リューズ君は冒険したいんだよねぇ? それにはこの地図があれば色々と捗るんじゃない?」
何処から聞き出した情報なんだ。
たしかに王城でもその手の話をしたけれど──ベーリズ商会の情報網侮れない。
「しかもこの地図が現存するモノでもっとも書き込まれてるものですっ。この世に二枚しかない、とある冒険家が書いたこの一枚をあげましょう!」
「そんな希少な物いいの?」
有り難いけどこの世に2枚とか高そうだし、希少価値も高いだろうし。汲んでくる水とはまた違うベクトルで凄いもんだろ、これ。
「うんうん。とある冒険家って私のおじいちゃんの事なんだけどね!だから自作なの。普通の地図には描かれてない瘴気が濃すぎて踏む事のできなかった土地、場所も書き込まれてるから、リューズ君には丁度いいんじゃないかなー?」
よくわかってらっしゃる、さすが巨大な商会を纏める人だ。人心掌握術が半端ない! ビバ浪漫! ビバッ! 未踏! ビバッ! 冒険!
「あと一つはね────」
その内容を聞き、俺は水を確実に汲んでこようと決意した。




