一筋の希望
◇
◇
◇
◇
「あれは──?」
王国軍はどうみても劣勢であった。部隊の要である盾部隊は崩壊、そして前線の切っ先で今にも一人の命が消えかかろうとした時。
──眩い閃光と共に"その少年"は間に割り込んだ。
咄嗟に耳を塞ぎたくなるような轟音が巨体なアルガモを弾き飛ばし、一人の命を救う。
精神汚染の治癒終えた者、封印術式を唱える者、未だ恐慌状態の者、前線の盾部隊、ジョイン……戦場に立つ者達がその轟音の出所に釘付けとなる。
稲妻散らす黒髪の少年。
軽々とアルガモを吹き飛ばした少年の手には純白の細槍が握られており、少年の立ち歩く地面には雷のような波紋が水面の陽炎のように波打って見える。
身に纏う魔闘気はチリチリと雷光を光らせ、膨大なマナを溢れさせ自分の色として具現化させている。
「アレほどの魔闘気……本当にあの少年なのか……!?」
唯一、リューズを知るジョインでさえ彼の異様さに唾を飲む。確かに強い少年ではあったが……
────────。
「──疾ッ──」
リューズの魔闘気が純白の槍を伝い紫電を纏う。バチバチと弾け飛ばんような音色が槍全体で鳴り響き、その標的にされたアルガモは防衛本能からか、右眼のモヤを体外へと解放した。
《 迅雷風烈 》
それは反応、動物的反射すら許さぬ槍突きである。手元に持たれた純白の槍は真横に落ちる雷の如く黒蛇諸共喰らう。刺しては焼け、消え、また、刺され、消える。
短い間隔で打ち出された連続の槍突きは、青白く閃光をあげ、空間を白く演出し、裂けるような音を響かせ貫き続ける。
──槍を繰り出す速度は人の域を超えていた。
『アアアァアァァ!!』
その槍の速度に反応出来無いのは人だけではなかった。序列二十四魔でさえもなす術もなく槍の餌食となる。
体外へと解放された黒蛇の守りすら火花と煌めきをあげ、貫き抜いていく。
(クリエイト、残りどれくらいだ?)
槍先がアルガモの胸部を突き抜け、黒い靄が漂う。それすらリューズの纏う紫電によって四散していく。ギリギリ散る閃光の残像だけが人の眼に映る戦場。悪戦苦闘しているのは人ではなくアルガモだった。
【タイマーカウント残──ニ分十七秒です】
クリエイトの声を聞いたリューズはさらにマナを取り込み、加速、爆走した。
◇
◇
◇
◇
俺はアイネと約束を交わしハーバスへ向かっているアルガモを追いかけていた。アルガモが歩いた道は腐ったかのように木々が枯れ果てていて追いかける事はそれほど難しくない。
ただ、不安がある。俺があの怪物に一人で挑み勝てるのか?それだけが脳内を支配する。
「でも、やるしかねぇ。約束したんだ......」
少し震える手、怯えるな。考えろ!なんかいい手を!無い頭を捻り最適解を探そうとする。
そんな時クリエイトの声が頭に響いた。
【マスターの解析を終了しました、魔臓器内にあるコードを解凍し魂を共有適応しますか?】
「ん?なんの話だ」
クリエイトの言葉が焦りから理解できない。
「俺の解析って何? 解凍? なにそれ? それよりもクリエイトもアルガモに勝つ為の戦略を練ってくれよ」
今のままじゃ俺は負ける。
また直ぐに激突する──なにか、何か自分に足りないものを補える何かはないのか。
俺には現状、経験も知識も足りない。
【マスターこれはアルガモに勝つ為の解析結果です。内容を聞き適用しますか?】
棒読みだが人の味がある声が脳に響く。
よくわからないけど、クリエイトが言うなら価値はあるか。
「そこまでクリエイトが言うなら聞くよ。俺の解析結果とやら」
【イエスマイマスター、マスターの魔臓器コード解析結果です。マナ変換効率極、火水土風の中間属性値オール六十、光闇五十七、融合属性雷、これは百%です】
凄く頭が痛くなる数字を並べてくる。
「ばかやろー! 肩の痛みが倍になるわ! 単刀直入に頼む」
【申し訳ありませんマスター。簡潔に……貴方の魔臓器内に眠る雷神の力を解凍適用させる事を望みます】
「雷神の......?」
【マスターは全属性使えますがマナ変換効率が直結する魔闘気、あと魔色相性値では群を抜いて雷です。これはマスターの中に眠る雷神の融合コードが関係しています】
「ジジイから雷魔色なんて聞いたことないぞ」
【この世界ではロストスペルとなってしまっている元素魔色の雷です。魔闘気との接近主軸の戦闘スタイルにはすればアルガモと渡りあえるかと。】
今のマスターならインドラルコードの四割ほどを解凍適応し、三割は出力出来ると思われます、と付け足される。
なるほどわかりやすいけど、けど、インドラルコードやら、雷神やら、話の流れがわからないぞ? それに四割しか解凍出来ないし、三割だけしか使えないもんなのか?
【──戦闘経験。全力で出力できるだけの体にまだ成長していませんという事です。それを差し置いても雷魔術は強力。接近戦においては無類の強さです。マスターの魔臓器コードの中には元素の神、雷神インドラルが遺した記憶遺伝子があります。それを使わない手はないかと。】
「俺の中になんでそんなもんがあるんだよ……」
【それは魂の融合で理解できるかと。記憶遺伝子を解凍し適用させる事でマスターにより馴染ませる事が可能です】
「うーん......話はまあファンタジーとして受け止めよう、だけど今から解凍? して今日のモノになるか?」
【イエスマスター。その解凍作業は一瞬で終了します。ワタシが鍵の役割を果たします。解凍後、知識、技能、能力など記憶が引き継がれます。しかし"オーダーインドラル"の全解凍は危険かつ今のマスターのキャパシティを超えてしまいます、ですので先程の話通り四割の解凍を実行します。半分以下の力ですが──それでも使用可能時間が五分。使用後は魔力官のオーバーヒートを起こします。ただ、五分間は最強でしょう】
なるほどな、どんだけインドラルさんは強いんだ。割と今でもチート気味だと思うんだけど、さらに人外っぽく、でも望みは出来た。
「OKだ!今日のモノになるなら直ぐに始めてくれ!時間が惜しい!!」
【かしこまりました。マイマスター。それでは解凍展開します】
◇
◇
◇
◇
《 疾風雷光インドラ 》
オーダーインドラルによって魔闘気に雷が宿り、それにより爆発的な反射速度を得る事が可能になる。さらに秘術により精製された純白の細槍は雷そのものを手に持つという荒業だった。
面白い事にこの槍に実体はないが、実態があるというパラドックスが起こっている。
そう落ちる雷は、また登るのだ。
その状態を連続したものを手の中で再現すれば出来上がる純白の細槍。
魔闘気を雷に変え、雷を握り、高速で相手を殲滅するこの型を、かのインドラルは《 疾風雷光インドラ 》と命名した。
もはやアルガモに為すすべはない。
何度も体に穴を開けられ、自慢の黒蛇はこの人の子の前では意味を成さない。
アルガモ少しながら残る記憶のなか、このクソ餓鬼の魂だけでも喰らうべきだったと後悔した。
「迅雷風烈ッ!!」
高速で移動し槍を突き刺す。火花よりも煌めく雷の残像を残しアルガモを肉薄へ。
何度も雷の往復した身体に最後の一突きを刺した。
アルガモの身体は焼けた匂いと無数の穴。
『ウァワァ……ァァ……ァア』
ついに大男アルガモは絶命し倒れた。
黒いモヤになり縮小し、地面へと溶け込む。最後にカランっと音を落とし、黒く禍々しい魔石だけを残した。
「やったか?」
一筋の閃光になったリューズは、口の中が渇ききり、胸の奥が痛む。ぎりぎり発した言葉にクリエイトは優しい声音で応答する。
【イエスマイマスター。──残八秒です、お疲れ様でした】
アルガモが消滅した瞬間、王国軍の陣地より歓声があがる。
一筋の閃光は一筋の希望となった。
また家に帰れる、ありがとう、お前は勇者だ。様々な賛美をリューズは耳に入れ、
「──お前が守もりたかったもの……まもった……ぞ……」
その場に倒れたのであった。




