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踏み潰されたら異世界でした?雷神の魂と人の英知の伝承噺  作者: 喜雨子
雷と序列魔と女騎士は希望となる
16/50

騎士なる少女と決意


 ────────。



【スタ……マスター……】


 肩に走る激痛で目が醒める。頭の中でうっすらクリエイトの声も聞こえる。覗き込む美人な整った顔。


「リューズくんだいじょうぶ!?」


 失神。

 ぼんやりと思い出す。色々な言葉と感情。

 ほんの少しの間だっただろうけど、何時間も睡眠をしたかの様な浮遊感があった。


「大丈夫......だと思う」


「ああ、良かったよ!死んじゃったかと」


 俺の傍らに座り込み淡い光を手から放つアイネ。涙を浮かべ、良かった良かったと回復魔術を行使する。そのおかげか抉れた肩の血は止まりつつあった。


 そういえば、俺はここで何を……


「っ! そうだ!アルガモは!?」


 回復魔術の安心感からか、自分の置かれている状況を忘れていた。なぜアイネは俺に回復魔術をかけていられる?

 周りを見渡すがアルガモがいない。

 ただひたすら抉れきった地面に、切断された大木の数々。戦場跡だけが俺の目に入る。

 そんな俺の言葉にアイネが答えた。


「……すまない、いやごめんなさい、アルガモはハーバスに向かっていった」


 顔を落としながらアイネは答える。


「リューズくんと戦い、かなり魂を消費したみたい、私たちに目もくれずに街へと向かっていった」


 アイネは唇を噛みしめる。

 勿論時間を稼ぐ目的は大方達せられている。

 だが、歯痒さそうに呟く。


「……あとは仲間に任せるしかない」


 それはアルガモの強さを感じたアイネの言葉。

 アルガモは強すぎる。死者を大量に生産した上でしか討伐出来ない化け物。


「わたしじゃ、もうむりだよ、まかせるしかないよ」


 そんな他人任せな言葉がこの仲間想いの少女から出てくるなんて。


「うん、任せるしかない。王国軍との戦いになるだろうし、もうそろそろハーバスを発った軍が此方に出向いているはず、鉢合わせに......大丈夫だいじょうぶ、後は、任せるしか……ない──」


 その戦いでは間違いなく死人が出るはず、それも大量の……そこで討伐または封印できれば御の字。それが叶わなければ、ハーバス王国に未来はないだろう。

 俺の頭でもそれくらいの事は考えれる。

 だがアイネはまるで抜け殻のように話を続けた。


「そうだね、リューズの怪我もハーバス王国腕利きの医療師に見てもらおう! ああ、この戦いの褒美も、奮発してくれるはず」


 そんな話をしている場合ではないはず。

 仲間が死ぬぞ? 必ず。


 アイネの何かを忘れよう、忘れようとする顔。微かな震え。唇、綺麗な赤色の毛先にまでその震えは伝わっている。


(怯えてる?)


 ──今の俺になにができる? なんて声をかければいい?


「それでいいのか? このままだと大量の死人が出る、そもそも王国軍が勝てるかもわからない、そうなったらアイツが満たされるまで魂が喰い散らかされるぞ!」


 それは問い。俺の正論。今のアイネにはキツすぎる言葉だと思う、それでもアイネの本心を知りたい。どうしたいのか。


「──っ! そうなったら仕方ないっ! あれは正真正銘の化け物だっ! 私でさえ手も足も出ないっ! リューズに頼り、軍としての力もっ! 吟示も何もっ! 何も意味を成さないっ! アレには……」


 赤髪が風になびく。アイネの傷だらけの拳は地面を叩いた。元々血色の良い頬は更に赤く染まる。でもアイネの吐く言葉は止まらない。


「絶対! 私の同胞も死ぬっ! たくさん死ぬ! それほどの厄災を相手にしている! もちろん覚悟もある! 軍に務め、国に仕え、人を守る......そんな大義っ! ただ力の無い子鹿の声はただ飲まれて消えるだけ! できない! できない! 私には!」


 紅いプレートメイルに刻まれたヒビがカタリと音を立てる。滲む涙は一筋の粒になり地面へと消えていく。次々、次々出てくる粒はもう止められない。


「わたしっ! わたしにはもうムリなんだよっ! こわい、あれが! アルガモが怖いっ!もう一度戦えなんてっ!」


「アイネ」


「……リューズが倒れた後アルガモに私が思った事を言おうか!? こっちに来るな、だ! リューズでも王国でもいいっ! 私に近寄るなだっ! 愚かで、自分の事しか見えない私はアルガモがハーバスに向いて歩いて行った時、心の底から安堵したよっ! でも!でも……自分の畜生さと情け無さで頭がおかしくなりそうだった! 仲間が死んでほしくないっ! アルガモの恐怖に当てられてほしくないと全く逆の事を考えた自分も恥ずかしいっ! 恥ずかしいっ! 助かってお願いなんて思ってた自分が恥ずかしい!全てを諦めて擦りつけたのに! 力も無いら勇気も無いのに……誰も死なないでなんて……自分を、自分の弱さをあの瞬間ほど憎んだ事はない!!」


 ヒクヒクと泣き叫び、震えるアイネを俺は抱き締める。アルガモは生きる命に最大の恐怖を植え付けるバケモノ。


 それを知って感じたアイネの仲間想いの一面と裏切りの一面。それは人としての感性では普通で当たり前だけど、騎士の誇りからは大きくかけ離れていたのだろう。


「大丈夫。大丈夫だよアイネ」


 まだ痛む左肩の激痛を惜しみなく優しくアイネの頭を撫でる。


「辛く、挫けそうになった時は逃げてもいい」


「────っ! わたしはわたしはっ!」


 アイネの年齢は外見で二十代、そんな女の子が泣いてるんだ。

 前世で考えてみろ、ここまでちゃんとしてる子はいない。ある意味、信念の塊のような女性だ。

 "そうあるべき"それだけで強きを演じてきた、か弱き女の子なんだ。


「ボロボロな俺に立ち上がる勇気をくれ」


 涙は地面に落ちてすぐに消える。

 その儚さは心そのものだ。

 ホントは強くて、弱い、女の子。


「──……おねがいリューズくんみんなを、みんなを助けて」


 乗りかかった船だが、歯を食いしばるだけの価値はある。守ろう、この震える少女が大事にするものを。



 "まかせろ"



「行くぞクリエイト」

【イエスマイマスター】


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