上下の下
D君微速で二人に車を近づけて
「どした」と聞くのですが、二人ともドアを開けながら
「やばいやばいやばいやばい」
「出せ出せ出せ出せ」と急かす。
A君も「何があった?」と聞くんですが二人とも声を揃えて
「とにかく車を出せ」と言うだけで、出発してもとの道に戻るまで
「何があったか言ったら、Dは見たがる行きたがるだろ」としか言わない。
元の道に合流してしばらくしてようやくC君が、
「あのトイレ、前に見た心霊DVDに出てたトイレとそっくりなんだよ。あ、一応〝実話〟って書かれてるソフトな、トイレの外側が同じってだけなら似たトイレがあるなってだけだろうし、中に入ってもそっくりなのはそういう設計なのかもしれん。
けどな、その番組は、トイレの中にボストンバッグが置かれていて、ションベンしてる後ろでバッグがもぞもぞ動き出してファスナーが開いて、中から怖いのが出てくる話なんだよ」
「おぅ」
「トイレがそっくりなのはまぁいいよ、でもバッグの色や形、置かれている場所まで同じだったら、やべぇだろ!」
ということでB君の腕を引っ張って車に戻ってきたと言うんですけどね、
B君はまだ余裕があったから用を足さずに戻ってくるのは全然大丈夫なんですけど、C君は次のトイレを見つけるまで、ありとあらゆる努力をしておりました。
……で、ですね、B君とC君には聞こえなかったらしいD君の呟き、
「根性ねぇなぁ」が、A君には聞こえたんですけど、それが
「せっかくの怪異の状況なのに何も起こらないうちに出てきちゃって、もったいないなぁ」なのか、
実はD君、あのトイレのことを知っていて、ちょうどいいとC君を差し向けたのか、どっちなんだろう?と気になってるんだそうです。D君、一人であちこち廃墟探しやってますからね。
まぁ聞けませんし、答えられたとしてもどう思っていいか困ることを言われるかもしれないので、聞けないっていうんですけどね。
トイレには、本当に信用できる人とでなければ行かない方がいいんじゃないか、という話でした。