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9 お話をしよう~!

 

 呆気に取られたような雰囲気が蛾から伝わってきた。

 多分人……いや、大きく開けることが出来る口を持っていたら、顎を外しそうなくらい大きく口を開けているんだろうな。


『ちょいとお待ち! 何かい? あんたは何も聞いていないのかい』

「聞くって……なんのこと?」


 私の問いかけに蛾は言葉を失ったようだった。

 器用に前足を額……でいいのかな?

 う~ん、と、悩んでいますのポーズに近いものをしている蛾は、しばらくその状態で止まっていた。

 私が何と声を掛けようかと悩んでいる間に、蛾はポーズを解いて動き出した。


『ヤツをお呼び!』

「はい?」

『だからさっきここに来たヤツだよ。あいつをお呼び!』


 私は困ってしまった。ここからブラッキールとホワイティアに呼び掛けたとしても、声が届くのだろうか?

 風は……邸のある方へでなく、逆のこちらへと吹いているのだもの。


「あの、ここで大声をだしても、風に邪魔されて向こうまで聞こえないと思うの」

『……ああ、そうだった。なんにも聞いていないあんたじゃ、()届けられない(・・・・・・)ね。……そうさね、それならあたしが(・・・・)あんたの声を届けてやるよ。だからヤツをお呼びな』


 よく分からないけど、私が声を出せばどうにかしてくれるということだろう。


「わかったわ。声を出せばいいんだね」

『ああ。ヤツの名前を呼べばいいよ』


 私は頷くと息を大きく吸い込んだ。


「ブラッキール~! ホワイティア~!」


 私の声は風にさらわれるように余韻も残さずにすぐに聞こえなくなった。


『ははっ! あの勢いならすぐに来るだろうさ』

「本当だね」


 邸のほうを見ていた蛾は笑い声をあげた。

 私も同感だと頷いた。

 土煙を上げて爆走してくる二匹の姿が見えたからね。


『というか、二匹来るように見えるんだけど?』

「うん。ふたり(・・・)を呼んだからね」


 蛾の表情はわからないけど、引きつったものに変わったように思う。

 どうしたんだろう?


『マリーどうしたのだ』

『呼ぶなんて何があったのさー』


 駆けつけた二匹は私のそばへと来ると、ぴたりと止まりお座りをした。私に一瞬目を向けた後、蛾へと鋭い視線を向けた。


『あんたたちを呼ぶように言ったのはあたしさ』

『ヌッ』

『ヘッ?』


 蛾の言葉にホワイティアは睨みつけるように目を細め、ブラッキールは目を丸くして蛾のことを見つめた。


『あんたらは何をしてんだい! 守護契約をしておきながら、庇護者から離れるような真似をするなんて。魔物の風上にも置けないじゃないかい!』

『守護契約?』

『庇護者?』

「魔物? えっ? 違うよー。ブラッキールは猫で、ホワイティアは犬だよ」


 蛾の言葉に、それぞれ疑問符を浮かべた私たち。

 ブラッキールとホワイティアを魔物と言われてしまったので、私は抗議の意味を込めてしっかりと否定をした。


『バカをおいいでないよ! コヤツらのどこが猫で犬だい! 普通猫も犬もこんなに大きくなるかい! それに猫や犬に魔法が使えるわけがないだろう!』

「えっ? 魔法? ブラッキールとホワイティアが? そんなことあるわけないよ」


 魔法を使うところを見たことがないので、私は笑った。

 二匹へと目を向けると、なぜか目を合わせてくれず、逸らされた。


「ブラッキール? ホワイティア?」

『ほら、ごらん! 猫と言っているヤツは“クアール”で犬と言っているヤツは“フェンリル”だよ!』


 フンスと鼻息荒く……って、蛾には鼻なんてなかったね。

 語気を強める蛾の言葉にもう一度二匹のことをジッと見つめた。

 必死に目を逸らす二匹に、私は目を半眼にするとジトーとねめつけた。


「ブラッーキィールゥー? ホワイーティーアァー?」

『すまないのだ、マリー。我らはわざと黙っていたのではないのだ』

『そうなんだよー、マリー。おれっちもよくわかってなかったんだよー』


 低い声で問いかければ、ビシッと背筋を伸ばした二匹は口々に言った。

 沸騰しかけた頭は冷水をかけられたように冷めて、すぐに落ち着きを取り戻した。


「そうだったね。二人とも小さかったもの。自分の種族なんてわかるわけはなかったよね」

『ウム。そうである』

『そうだよ、そうだよ!』


 二匹はコクコクと頷いた。


『ほお~、どういうことなんだい? 自分の種族も知らない理由があるんなら、聞かせてもらおうかい』


 私たちの言葉に納得できない蛾からの圧に、二匹と私は顔を引きつらせた。

 コクコクと頷いてから出会った時のことを話したのだった。


 私たちの(つたな)い説明を聞いた蛾は納得したのか、一つ頷いた。そして不思議そうに呟いた。


『それは大変な目にあったんだねえ。でも、おかしいねえ。なんであんたたちがこんなところに居るんだろうさ』

「それは……ブラッキールは獣に襲われたからで」

『それさ。あたしはこの地に五年ほどいるけど、クァールを襲うような大型の獣を見たことがないんだよ』


 蛾の言葉に顔を見合わせる、私とブラッキール。


『大体クァールが居るのは、ここよりかなり南のほうさね。この大陸にクァールが居るなんてのは、あんたが初めてさ』

「えっと?」


 困惑する私たちからホワイティアへと目を向ける蛾。


『そっちのフェンリルもね、ここいらには居ないはずなのに、ここに居るよね』

「えーと、フェンリルの生息地って?」

『毛の色で察すると思うけど、北のほうに居る種族だよ』


 ですよねー。

 なんとなくそう思ってました。


『まあ、それでもあんたらがこの地に来たのは、なんとなくわかるけどさ』

「理由がわかるんですか」

『ああ。もともとこの地は魔物にとって“最後の棲み処”と言われていたのさ。そうでなきゃ、あたしらもこんなところに来なかったしね』


「やっぱりモモンスラーさんも、何かあったんですね!」


 私が勢い込んでそう言うと、蛾は体を少し後退させた。


『前々から思っていたんだけど、そのモモンスラーってのは、なんだい?』

「えっ? あなたの種族はモモンスラーじゃないんですか?」

『それは人間が勝手に読んでいる呼び名さ。本当の名前は違うとも』


 不機嫌そうに答える蛾。

 そうかー。

 違っていたんだ。


 そうだよね。

 名前を間違えられたら不機嫌になるよね。


「それじゃあ、あなたの種族名は……」

『ピンクドグマ! そうだよねー!』


 私が種族名まで言う前にブラッキールが割り込んできた。

 自信満々に言って胸を張っている。


『……その名前はどこから聞いたんだい?』

『う~ん、と、昨日マリーから匂いを嗅いで、浮かんできた名前なんだ~』


 覚えててえらいでしょと、副音声が聞こえてきそうな自慢げな顔で答えるブラッキールだった。


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