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8 荒野を……一人で?

 

 人間ではないけど私の秘密を二匹に話すことが出来て、私の心は少し軽くなった。


 ブラッキールとホワイティアは本当に頭がいいの。

 お茶会でみんなの話から私に知らされていないことがあると気がついた私の愚痴から、解決策を一緒に考えてくれたのよ。

 それが領地に行くことだったの。


 今まで幼なすぎて本当に周りが見えていなかった、私。

 それにどうやら私に現状を気づかれたくないお父様たちの、策略に嵌っていたようなのよね。


 策略と言うと大げさだけど、私は今回領地の邸を出るまで周りが荒野だなんて知らなかったの。

 両親は巧みに私が馬車の外を見ることから意識を逸らし続けていたのよ。

 半分は私が悪かったのもあるけどね。


 でも両親は本当にずるかったのよ。

 それは……ブラッキールとホワイティアへと、私の意識が向くように誘導していたことなの。

 それに乗せられた私も私だったけど……。

 うん。

 今回だって、わざわざ体が大きくなった二匹も一緒に乗れる大きな馬車を用意してくれたのが、私の意識を二匹に向けて国の現状を見せないためだなんて思わないじゃない。


 確かに二匹は他の犬猫に比べて大きいけど、馬車と並走させたって構わなかったはずなのよ。

 二匹もそう言ってくれたの。


 それを止めたのがお母様だったわね。

 理由は……二匹を(さら)おうとする不埒者が出るかもしれないと言ったのだったわ。


 ……それは嫌だ―! 

 と、私は一緒の馬車で移動することを承知したのよ。


 ◇◇◇


『ところでさ、マリーは明日、ピンクドグマに会いにいくの?』

「う~ん、出来れば行きたいけど……お父様たちが許してくれないよね」


 私が顔を顰めながらそう言うと、二匹は口の端を持ち上げるようにした。

 二匹にとっては笑っているつもりなんだろうけど、鋭い犬歯が見えてちょっと怖い……じゃなくて獰猛に見えるわね。


『マリー、我らに任せておけ』

『そうそう。おれっちっちに敵う人間はいないからねー』

「えーと、ふたりとも協力してくれるの?」

『もちろんだとも』

「気持ちはうれしいけど……でも、危ない目に遭わせたくないよ」

『大丈夫だよ~』

『そうだ。我らに任せるのである』

「人間に怪我をさせないでくれる?」

『おれっちっちを何だと思ってるんすか。今までにそんなことしたことないっすよ』

「うん、ごめん。ふたりはそんなことはしないってわかっているわ。でも、私を追いかけてこようとして、二人に向かっていこうとするかもしれないから……」


 二匹は目だけ動かしてお互いを見た。


『大丈夫だ。我に傷をつけようとしても無駄だと判らせるまでのこと』

『そうだよー。というか馬を脅して追えないようにして、おれっちっちがマリーを乗せて走れば、誰も追いつけないからー』

「わかったわ。二人に任せるね」


 私の言葉に二匹は満足そうに頷いたのだった。


 ◇◇◇


「お嬢様―! お待ちくださいー!」


 後ろでわあわあと騒ぐ声がするけど、私はブラッキールの背中にギュッと抱きついて、聞こえないふりをした。


 さて、翌日の今日もいい天気だった。

 だから昨夜ブラッキールとホワイティアと打ち合わせたように行動している。


『ここらでいいっすかねー』


 そう言って止まったブラッキールの背中から、私は降りた。


『昨日マリーが居たのは、もう少し歩いたところだよー』

「うん、ありがとう。それじゃあ、行ってくるね」

『おれっちは戻るねー。兄貴分としてはホワイティアに任せたままなのはー、気分がよくないからねー。でもマリー、危なそうだと思ったら、すぐに駆け付けるから、安心するようにー』

「頼りにしているわ、ブラッキール」


 軽くブラッキールの前足に触れてから私は背を向けて歩き出した。背後の気配がすぐに離れたから、ブラッキールも邸の門のところへと戻ったのだろう。


 そう、昨日二匹と話し合った結果、邸の門のところで邸の人間を足止めすることにしたの。

 ブラッキールが私を送ってくれて、ホワイティアは門のところで足止めよ。


 あとでお礼をしないとね。


 ◇◇◇


 私は昨日モモンスラーと会ったあたりに着いて立ち止まった。

 ……多分だけど、あの岩の形に見覚えがある気がするもの。

 周りを見回した私はそばに誰も居ないことを確認してから、またゆっくりと歩き出した。

 目は野ばらの間をじっと見つめながら。


 本当は私もわかっている。だけど、それでも微かな望みを捨てきれずに花を探した。

 そう、今の季節は野ばらの花が咲く時期からかなりずれているみたいだもの。

 見つけることが出来なくても仕方がないと思う。


 それでも野ばらの花が咲いていないかと、目を凝らした。

 もちろん他の花が咲いていないかと、探すことも忘れない。

 赤でも白でも青でもいい、黄色の花もいいよね。


 そう思う私を裏切るかのように、見渡す限り棘の生えた緑に埋め尽くされていた。

 ……ああ、違ったわね。黒い岩がところどころにょっきり生えているのだから。


 ……これも違うか。

 岩は生えるものではないんだから、ね。


 そんな益体(やくたい)もないことを考えながら歩いていると、不意に声が聞こえてきた。


『本当に来たのかい』

「あっ、居た」


 気がつけば、三メートルくらい先に昨日会った大きな蛾の姿があった。

 私が呟くように言えば、蛾は憤慨したようだ。


『居たってのはなんだい。あんたはあたしに会いに来たんだろう』

「いやだって、昨日別れる時に会ってくれないようなことを言ったじゃない」


 そういうと蛾からバツが悪そうな雰囲気が漂ってきた。


『まあ、そ、それは……ゴホン。というか、なんだいあんたは。またも一人でこんなところまで来たりしてさ。危ないと言っただろう』

「そう言われても、私にも目的というものがあるんだもん」


 私がそう言うと、蛾はヤレヤレというように触角を動かした。


『それならさっきここまで一緒に来たヤツといればよかったじゃないか』

「……見ていたの?」


 蛾は私から視線を逸らした気がする。

 複眼だからわかりにくいけど。


『見えたのさ。あれは強い獣だからね』

「あっ、やっぱり。それだから、ブラッキールには離れてもらったんだ~」


 私が満面の笑みを浮かべてそう答えたら、蛾から訝しそうな気配が伝わってきた。


『本当におかしな子だね。守護獣をそばから離すなんて。……というかヤツもヤツさ。なんで庇護した者を危険なところに置き去りにするのさ!』


 何やら言っているうちに憤慨しだした蛾に、私は「違う違う」と言った。


「あのね、あの子たちは私が助けたのよ。だからね、私のほうが庇護したことになるのね」


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