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6 私とブラッキールとホワイティア

 

 自分の部屋へと着くと、私付きの侍女が扉を開けてくれた。

 侍女は心得たもので、私たちが中に入るとすぐに扉を閉めてくれた。彼女は中に入らずに。


 ……で、私は体を振ったホワイティアに絨毯の上へと落とされた。

 落とされた私は抗議の声を上げた。


「ひどいわ。振り落とさなくてもいいでしょ」

『やれやれ、我達を置いていったマリーが何をいうのか』

『そうそう。だいたいさ、おれっちっちを連れて行けば、公爵たちに文句は言われなかっただろ。マリー()悪いじゃんよっ』


 私は体を起こし、行儀悪く足を延ばした状態で座ったまま、二匹を睨んだ。


「言ったでしょう。これはお父様たちに対する報復なんだから。私がどれだけお茶会で恥ずかしい思いをしたと思っているの?」

『それだって、家族みんながマリーのことを愛しているからなんだろう。まだ幼いマリーに知られたくなかったと考えたら、しかたのないことではないのか』

「だーかーらー、あなたたちには説明したでしょ。うちはこの国の公爵家なのよ。それも筆頭公爵家なんだよ。その家の娘である私が、我が国の現状を知らされていないというのは、大問題なの!」

『う~ん。それのどこに問題があるのか、おれっちにはわからないんよ』


 私は再度二匹に説明しようとしたけど、扉を叩く音に気がついて口を閉じた。


「お嬢様、メルでございます。お飲み物と軽食をお持ちいたしました」

「メル? 入っていいわよ」


 入室の許可を与えると、侍女のメルがお盆を持って入ってきた。

 続いてもう一人籠を持って入ってきたけど、サイドテーブルに置くとすぐに退室した。

 メルはお盆に被せてあった覆いをとると、ローテーブルへとセットしてくれた。


「お飲み物はオランジの果実水をご用意しました。飲み過ぎないようにご注意くださいね」


 にこりと笑うメルに私は聞いた。


「お父様たちは?」

「落ち込んでいらっしゃいますよ。もちろん執事長と侍女長も」

「えーと、やりすぎ……たかしら?」

「いいえ。私はマリーアンヌお嬢様がおっしゃる通りだと思っております。お嬢様可愛さに淑女教育に力を入れながらも、知るべきことをお教えしないのはどうかと思っておりましたもの。それにお嬢様が邸から離れている間、ブラッキールとホワイティアは身じろぎもせずにお嬢様が向かわれた方角を見ておりました。何か不測の事態が起こったとしても、この二匹がすぐに救助に向かわれたことでしょうから、心配はしておりませんでしたよ」


 メルの言葉に私は嬉しくなって微笑んだ。


「では、ごゆっくりなさってください。本日はたとえ旦那様でもここをお通しいたしませんから」


 そんな私にメルは微笑み返して部屋から出て行った。


『メルは本当にいい侍女だな』

『おれっちもメルのことは好きだぞ。ちゃんとおれっちの分も用意してくれてんかんな』


 二匹は籠を見つめて目を細めた。

 私は籠の中から、二匹のための食事を取りだした。

 ブラッキールは私へと体を擦り付けて、早くと催促してくる。

 ホワイティアは済ました顔をしながらも、嬉しそうに尻尾をパタンパタンと振っていた。


 ふたりの前に食事を並べると私もソファーへと座った。


「いただきます」

『ウム。いただくとする』

『わ~い、ごっは~ん!』


 ハグハグと美味しそうに食べる二匹を眺めながら、私もコップを手に取って喉を潤してから、自分の食事を食べたのだった。


 ◇◇◇


 食事を終えた私は、日課の毛梳きをするためにブラシを取った。

 心得たようにブラッキールが私の前に寝そべった。

 ブラッキールは黒くて短い毛をしている。毛を梳くとなめらかな手触りになり、いつまでも撫でていたくなるのよ。


 その毛を梳きながら、私は二匹との出会いを思い出していた。


 ◇◇◇


 ブラッキールと出会ったのは、私が三歳の時。

 意識がはっきりした二か月後くらいのことだった。

 王都から領地へと行くために西門(・・)を出てすぐのところだったと思う。

 一度門の外に出てから、護衛が隊列を整えるために停まったの。

 その時にミーミーと鳴く声が聞こえたんだ。

 こんなところに子猫の声? と思った私は耳を澄ましたの。

 そうしたら……。


『おかあさん……おかあさん……おなか、すいたよう……さむいよう』


 聞こえてきた声に「えっ?」と声を出した私。

 両親は怪訝な顔で見てきたわ。

 それに私は「子猫の声が聞こえるの」と言ったのよ。

 お父様は護衛の人に言って、周囲を捜索させたわ。

 すぐに鳴き声のもとを見つけ出してくれたの。

 そばには母猫と少し離れたところに兄弟らしい遺体が三体あったと聞いたわ。

 どうやら他の獣に襲われたようで、それぞれの体には深い爪痕が刻まれていたという。

 ブラッキールは他の子たちより一回り小さくて、多分母猫が咥えて逃げていたのではないかと言っていたわね。

 そして、母猫が襲われて、偶然にも母猫の体の下に隠されるようになったから、助かったのではないかということだった。


 私は両親にお願いしてブラッキールを飼うことを許してもらったの。


 ◇◇◇


 ブラッキールは満足したように体を横に倒した。

 これは終わりの合図だ。

 私はブラッキールの体を軽く撫でてから、横に向きを変えた。

 行儀よくお座りをして待っていたホワイティア。

 寝そべるのを待って、ホワイティア用のブラシに持ち替え毛を梳きはじめた。


 ◇◇◇


 ホワイティアと会ったのは四歳の時。

 ブラッキールの時とは違って、領地から王都へと戻ってきた時だ。

 この国では数少ない林のそばを通った時に、木の間からヨロヨロと出てきたホワイティアを見つけたの。

 直ぐに馬車を止めさせて、お父様たちの制止を振り切ってそばに駆け寄ったわ。

 私の「しっかりして」という声を聞いたホワイティアは、そのまま倒れてしまったの。

 それをブラッキールが咥えて馬車へと連れてきてくれたわ。

 そうそう。

 この時のホワイティアも、まだ子犬だったわ。

 白い毛並みは汚れて灰色になっていたのだったわね。

 どうやら群れからはぐれたようで、しばらく食事もままならなかったみたいで、とても痩せていたの。


 勿論、お父様にお願いしてホワイティアを飼うことも、許してもらったのよ。


 ◇◇◇


 私はホワイティアの長い毛が絡まないように、ゆっくりとブラシを動かした。

 ホワイティアの毛はフワフワしているの。

 抱きつくととても心地良いのよ。

 たまにホワイティアの尻尾を布団代わりにして、お昼寝してしまうの。

 そういう時は、目が覚めればブラッキールも、私に引っ付くようにして寝ていたのは、ご愛嬌かな?


・補足

ブラッキールの口癖は 『おれっち』 です。

なので 『俺たち』 を 『おれっちっち」 と言います。

間違いで 『っち」 を二度書いているわけではないので、誤字報告をしないで下さいね。


よろしくお願いします。



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― 新着の感想 ―
[一言] >間違いで 『っち」 を二度書いているわけではないので、誤字報告をしないで下さいね。  わかってるよ~ん♪
[一言] メルさん、わかってるな。
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