39 忙しい日々……大人たちが、だけど
あれから……あっという間に月日は過ぎていきました。
私、マリーアンヌは……って、今のことの前に私の六歳の誕生日の次の日以降の話を、先にしてしまいましょう。
◇◇◇
王家の人たちが帰ったあと、我が家では緊急会議が開かれました。
父は長兄から三番目の兄と、叔父、従兄弟たちに、世界中に散るロアリヴィエール王国の者たちを招集することを命じたのです。
中でも、鍛冶職人になっている者や織物事業に関わっている人を、優先的に帰国させるように密かに連絡を取るそうです。
驚いたことに魔物の素材を加工する職人になっている人もいるそうでした。
父たちも王都に戻ることになったのですが……一番の悩みは私でした。
王都に戻ると忙しくなる父と母。かといって、領地に一人残すのは安全面からも心配だそうです。
例え、魔物たちの守りがあるとしても……いいえ、逆にそのことが他の人に知られてしまう方が問題なのでした。
だから、私も王都に戻ることは決定事項ではあったのです。
私の護衛の件は思わぬところで解決しました。
それは四番目と五番目の兄たちです。
四番目の兄は十五歳になったので、国外に行ける資格が出来ました。
けど、今回のことで事情が変わったので、わざわざ国外に行く必要が無くなりました。
ということで、四番目の兄は家に戻ることになったのです。ついでに五番目の兄も自宅から騎士学校に通うことにしました。
これは……一番目の兄から三番目の兄にうらやましがられたけど、そこは仕方がないですよね。
それに二人の兄は魔物を倒したことはないので、それほど嫌悪感は沸きませんから。
……いえ、嘘です。私の寝顔を見て喜ぶ変態と、始終一緒に居ないといけないのは、苦痛です!
そう言ったら、四番目と五番目の兄たちは落ち込んでいました。
代わりに一番目から三番目の兄が嬉しそうにしたので、冷たい視線を向けたら三人ともおとなしくなったわ。
というわけで王都までは他の兄や叔父たちも護衛の人たちと一緒に戻り、そこから王都に入ることなく旅立って行ったのでした。
おばたちも一緒に行きましたよ。なんでもあちらの家を片づけて、こちらに戻ってくるそうです。
そして……ひと月ほど経った時に、ピーチティアから連絡が来ました。
魔物の第一陣が到着したそうです。それは……鳥の魔物と、インフェリラットでした。
鳥の魔物……鷹に似たモノは“アイルクイラ”といい、燕に似たモノは“ローダクワン”で、雲雀に似たモノは“ラークロウ”という名前でした。
翌日に風のドラゴンが一族を引き連れてきたそうで、そのまた翌日には地のドラゴンと共にアモラがやってきました。
そうして、毎日様々な魔物が荒野にやってきたそうです。
魔物たちにはとりあえず北の山の麓から山間部に滞在してもらうことになりました。
そして……魔物たちの数の少なさに、私は愕然としたのでした。
それから、もちろんクアールとフェンリルもこの地に来ました。
彼らと話して……またも衝撃の事実が。
ブラッキールの家族を傷付けたのは……人でした。母親や兄弟に残された傷跡は、魔物の素材から作られた“爪型の武器”によるものだったそうです。
やはりブラッキールの父親はクアールの頭だったそうで、人がクアールを狩りに来た時に囮となって他のものを逃がしたそうでした。
母親は子供を連れて逃げろと言われたけど、他の家族が狙われたのを庇い、やはり囮となって人を引き付けたそうです。
人がいなくなった後、ブラッキールの家族の死体は残されていなかったので、素材として運ばれたのだと思ったそうでした。
ホワイティアの場合も同じようなものでした。
人に襲われたフェンリルの群れは、雌と子供たちを別方向に逃がしたそうで、その時にホワイティアだけはぐれたといいいます。
勿論人がいなくなってから探したそうだけど、ある場所で忽然と匂いが消えていたそうでした。
二匹ともこの話を聞いたあと、気持ちの持って行きようがないようで、部屋に閉じこもってしまいました。
でも、それからしばらくして、二匹は前以上に私にべったりとなったの。
わざわざ体をもっと小さくして子猫、子犬の姿になってまで、私のそばに居たがったのよ。
私は……抱っこできる大きさの二匹に、癒されたことは内緒ね。
そして、他の大陸からこの地に来るのに、ドラゴンたちとピングドグマたちが大活躍しました。
ドラゴンが魔物を運び、ピングドグマが認識阻害の魔法で完璧に気配を隠したのよ。
魔物同士の連携なども有り全魔物がこの地に来るのに、一年もかからなかったわ。
◇◇◇
それから、魔物の力を借りてこの地の改革が行われたの。
おかげでロアリヴィエール王国の領土は広がる一方よ。
あと、北の地は水のドラゴンが、東の地は火のドラゴンが、南の地を地のドラゴンが、西の地を風のドラゴンが受け持つことを決めたそうで、この国の守りが強化されたの。
えーと、それから……魔物は属性によって、その上位の魔物に従う……掟? だったかな?
そういうものがあるとかで、地属性のアモラは地のドラゴンがいる南の地に住むことになったし、ピングドグマとハニービーグルは風のドラゴンの指示に従うことになったそうよ。
インフェリラットは火属性だけど、東の地に行かずに彼らは王都で仕事をしているの。
ああ、そうそう、外の国で働いていたロアリヴィエール王国民も、続々と帰国をしていったわ。
そうなると住宅などいろいろ足りないものが出てきたけど、そこはやはり魔物たちの協力のもと建設したのよ。
今では北の山脈の中には鍛冶職人の街が出来ているの。
東の地には温泉を目玉とした、憩いの街が作られているし、南の海岸には立派な港が出来て、各国から来る人々を迎えているのよ。
街道も整備されて各街と繋がって、間に宿場町よろしく休憩や宿泊できる街を作ったおかげで、潤ってきているわ。
あー、そうだった。これも言っておかないと。
我が国の国民って、過酷な土地で育ったからか、身体能力の高い人が多いのよ。
つまり……そんじょそこらの人では、わが国民に太刀打ちできないんだわ。
もちろんこれは女性にも言えるのよ。
外で働いていた人は冒険者ギルドに登録した人も多かったけど、請われて護衛として雇われていた人も多くいたのよね。
うん。これはハヴァス帝国は詰んだわね。
こちらに瑕がなければ、ハヴァス帝国ぐらいの軍隊なんか、目じゃないのよ。
ということで、あれから十年。
私、マリーアンヌ・ダルンフォードは十六歳になりました!