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26 大っ嫌い!

 

「私、昨年の王宮でのお茶会の後に、はじめてお兄様方がいることを聞きました。お兄様方は私が寝入っている間に来て、私の寝顔だけを見て、顔を合わせて会話をすることもなく、邸を出ていかれるのだと聞きましたのよ。そんな状態で、私が顔を覚えるなど不可能ですわよね」


 そういえばと、事態を飲み込んだ者から顔色が悪くなっていきました。


「先ほど、はじめてお会いしましたのに、名乗りもなく、私は恐怖しか感じませんでしたわ。お父様もお母様も見ているだけで、助けてくれませんでしたし」


 私の言葉にお父様とお母様の顔が引きつりました。


「私の大切なブラッキールとホワイティアが害されそうになっても、見ているだけなんて。……お父様もお母様もみんなも! 大っ嫌い!」


 私は言い捨てると、応接室を出て自室へと駆け戻りました。

 部屋の中に入ると、扉の鍵を閉めます。

 もちろんブラッキールとホワイティアも部屋の中に居ますよ。


「うふふ。疲れてない? ブラッキール。ホワイティア」

『おれっちは平気だよ』

『我も大丈夫である』


 魔法を使ってもらったので疲れたのではないかと心配すれば、平気との答えに安心した。

 私は部屋の中に用意してあった水差しを持つと、二匹のための容器に水を入れた。

 自分のためにもコップに水を入れるのを、忘れない。


「とりあえず水分を取ろうね」


 ゴクゴクと勢いよく飲み干して、荒野で水分を取り損ねていたことを思いだした。

 持っていった籠……これは邸に入った時に、メルに預けて部屋に届けてもらったからね。

 その中から軽食を取り出して、二匹の前にも二匹用に用意していたものを置いた。


「お腹が空いちゃったから食べようか」

『ウン。食べる~』

『ウム。いただくのである』


 軽食を食べてお腹がいっぱいになって……思っていたより疲れていた私は、二匹に凭れて眠ってしまったのでした。


 ◇◇◇


 朝、ドンドンとドアを叩く音で目を覚ました私。


「うるさい!」


 扉に向けて声を張り上げれば、扉を叩くことを止めたようだ。


「マリーアンヌ。大丈夫かい。何処か具合が悪いところでも、あるんじゃないかい」

「どこも悪くありませんわ。昨日は存分に体を動かしたので、疲れて眠っただけです!」

「マリーアンヌ、すまなかった。私たちが悪かったと反省している。謝りたいから出てきてもらえないだろうか」

「嫌ですわ。お父様もお母様も嫌いだと申し上げましたわよね。私の大切なモノたちを害そうとした人たちと血が繋がっているなんて、本当に嫌悪しか湧きませんわ」

「マリーアンヌ~」


 お父様の情けない声が聞こえてきました。


「マリーアンヌ、お願いよ。わたし達は部屋に入らないと約束するから、どうかご飯を食べて頂戴。ここに持ってきたのよ」


 お母様の言葉に少し考えます。


「それなら、メルだけなら部屋に入っていいわ。でも顔を洗いたいからその支度も頼んでいいかしら」

「ええ、もちろんよ」


 扉の外ではお母様が指示を出しているようで、バタバタと動き回る気配が伝わってきます。

 しばらくして扉が控えめにノックされました。


「お嬢さま、メルでございます。ご用意出来ましたので、鍵を開けていただいてよろしいですか」

「ええ、少し待ってね」


 私は扉の鍵を開けるとすぐにそこを離れました。


「開けていいわよ」

「それでは失礼いたします」


 メルが扉を開けて中に入ってくる。続けて桶や水差しなどを持って侍女たちが入って来ようとしたので、私は言った。


「あなたたちは入ってこないで」

「ひっ。お嬢様、何を」

「何を騒いで……マリーアンヌ、危ないから窓から離れなさい!」

「入ってこないでください。言ったでしょ。入っていいのはメルだけよ。それらは入口に置いて扉を閉めて」

「だが、マリーアンヌ」

「言う通りにしてくださらないのなら、私はここから飛び降りるだけですわ」


 私は窓枠に腰かけています。これは扉を開けると共に部屋に入って来ようとした人たちへの牽制です。

 案の定侍女たちは当然のように入ってきましたものね。


「マリーアンヌ、あなたは私たちを脅すの」


 お母様が荷物を置いた侍女たちと変わり、一歩部屋の中に入りました。


「お母様、聞いていただけないようですので、私は飛び降りますわ」


 そういうと、私は体を後ろに倒し……かけました。


「マリーアンヌー!」

「こちらに戻るんだ」


 お母様が悲鳴をあげ、お父様が慌てたようにお母様の手を引いて部屋の外に出ました。


「メル、扉に鍵を掛けてくれる」

「はい、お嬢様」


 なにか言いたげな顔のお父様たちの前で、扉は閉じ鍵がかかりました。


「うふふ。ありがとう、メル」

「いいえ、お嬢様。私はマリーアンヌお嬢様付きとして、当然のことをしただけでございます」

「それじゃあ、着替えたいのと体を拭きたいから、手伝ってもらっていいかしら」

「はい。承知いたしました」


 そしてメルに手伝ってもらって着替えを済ますと、私は二匹と共に食事も済ませた。


「ねえ、メルは私が窓から身を乗りだした時に、何もしなかったけど、どうして?」

「お嬢様、私のあの位置ではお嬢様を助けられませんでした。それにお嬢様に何かあれば、ブラッキールとホワイティアが黙っておりませんでしょう。私は二匹を信頼しております」

((さすが、メル~! 好きだ~!))

((ウム、メルはわかっているのである))


 二匹は嬉しそうに言ってきた。


 ◇◇◇


 さて、これからどうしようかな。

 とりあえず、一応顔を合わさないことには話にならないよね。


((そうだね。そして、ぎゃふんと言わせてやんな))

(ピーチティア、おはよう。……って、そうだった、モモマルからこっちの状況がわかるんだったね)

((……モモマル。その子にその名前を付けたのかい))


 だって、この子も丸い桃色の模様があるんだもの。


(駄目だったかな?)

((いや、別にいいさ。それで、どうするのか決めたのかい))

(うん。もうね、昨日で完全にバレたでしょ。開き直ってコテンパンにしようと思うの)

((そうかい。それならあたしは何も言わないよ。マリーアンヌの思う通りにするがいいさ。万が一の守りは任せな))

(うん、ありがとう)


 私はこのあと、ブラッキールとホワイティアも交えて心話で話し、考えをまとめたの。

 そしてメルへと伝言をお願いした。


「お父様たちに伝えてほしいの。お話をしてもいいと」

「大丈夫ですか、お嬢様」

「ええ。だから条件を付けるわ。それを飲んでくれるのなら、あの人たちとも会ってもいいと言ったとも伝えて」


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