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20 絶滅危惧種は保護したい……

 

 私たちは言葉もなく立ちつくし……ではなくて、しゃがみこんでいた。


『おや、そろそろ籠がいっぱいになったのか、こっちに戻って来ようとしているみたいだね』


 私はハッと顔をあげると、両親が仲良く道まで戻ってきたのを見た。

 他の使用人も荷馬車のそばに何人かいた。


「ピングドグマ、少し離れるね」


 私はそういうと両親の元へと駆け寄った。


「お父様、見て見て。これだけ採れたの」

「おおー、すごいな。というか、マリーアンヌは刃物を持っていないだろう」

「そこはブラッキールとホワイティアが器用に爪でひっかいて、取ってくれたのよ」

「ほお~、それはすごいな」


 お父様は私の隣でお利口にお座りをしている二匹へと目を向けた。

 ブラッキールはすまして、ホワイティアは尻尾をパタパタとさせながらお父様のことを見つめた。


「二匹とも、この後もマリーアンヌが危ないことをしないように見ていてくれよな」

『ウナ~』

『ワン』


 二匹が一声鳴くと、お父様は目を細めて笑った。


「これでは勘違いをしても仕方がないか。本当にこの子たちは賢いな」

「ええ、そうね。それだから安心して任せられるわ」


 お母様は私の籠を受け取ると、荷車に積んである木箱へと中身を入れた。


「なかなか大変よね。野ばらの実は小さいから」

「ああ、そうだな。でもできればこの木箱たちをいっぱいにしたいものだ」


 そう言うと、お父様とお母様は荒野の中へと戻っていった。

 私も先ほどの位置まで戻った。

 阿吽の呼吸で二匹も先ほどの作業を始める。


『おや、もうしばらくはここに居るのかい』

「うん。必要な分までまだまだだからね」


 私がそう答えると、ピングドグマは労わるように言った。


『さっきは悪かったね。そこまで衝撃を受けるとは思わなかったからさ』

「えーと、大丈夫です。ブラッキール、ホワイティア、ふたりは大丈夫?」

『あー……まあ、なんとか……』

『我も……まだまとまらぬが、腑には落ちたから……もう少し時間が経てば……』


 淡々と野ばらの実を切りとりながら二匹は呟くように言った。

 私も籠へとせっせと入れていく。


『ほんとうに悪かったねえ。あたしらがここに導かれた話だけをするつもりだったんだけどねえ』

「えーと、でもいつかは知る話ですよね」

『そうだろうね。他の魔物と会って、そいつらもこの話を聞けば同じことを思うだろうよ』

「ええ、そうですね。……って、他の魔物?」


 さらりと言われて聞き逃しそうになった私は、他の魔物と言われてぱちくりと瞬きをした。


『ああ、そうさ。というか、この話をしたのは、実はあんたにお願いがあったからなんだよ』

「お願いですか」

『確か、ここいらはあんたの家の土地なんだろ。それならあたしらピングドグマが住むことを許可してくれないかね』

「えーと、許可って、私でいいの?」

『あたしと会話ができるのはあんただろ。それにこの荒野すべてをあたしらの棲み処にしたいわけじゃないさ。あたしらはこの荒野の端、あの雪を頂く山の麓に住まわせて欲しいだけなのさ。許可さえくれれば、あとは見つからないようにするだけだからね』

「そのことは……ええっと、私に話していいの?」

『だから信用しているといっただろう』

「それなら……ピングドグマに我がダルンフォード公爵家の領地に住むことを許可します」

『許可をいただき感謝する』


 私が許可を与えると、ピングドグマが厳かな声で答えた。


『さて、これであたしらは余所ものじゃなくなったね』

「よそもの?」

『ああ。どうやらこの地はそういう意味で厄介なところのようだよ』


 ……意味がわからない。

 私がわからないと感じているのがわかったのか、ピングドグマは『すまないねえ』と言った。


『あたしにもうまく説明できないのさ。それでね、あたしらピングドグマがこの地に来た時には、ここにはあたしら以外の魔物はいなかったんだよねえ』


 続けてまたも衝撃の告白です。


『それでさ、許可をもらったのには理由があってね、他の魔物たちにもこの地に来ることを許しちゃくれないだろうか』

「……はい?」


 えーと、何やら話が飛んでしまっていませんか?


『この地に人の国が出来たことで、魔物にとっての“最後の棲み処”のはずなのに、魔物は辿り着くことが出来ないのさ。でもあんたがそれも認めてくれれば、あたしが他のモノたちを呼ぶことが出来ると思うんだよ。ダメもとで許可をくれないかい』

「えーと……」


 私の許可で魔物がこの地に来る?

 ……えーとでも、さっきいろいろな魔物が個体数を減らしていて、絶滅が心配されているって言ってたよね。

 ……ここって、本来は“魔物の楽園”になるはずだった、って。

 それなら、魔物が居るのが当たり前……なのよね?


 うん。それなら問題ないよね。


「絶滅危惧種は保護すべき……なんだよねえ」


 私はしばらく考えて呟いた。


『絶滅危惧種とはなんだい?』

「ピングドグマみたいに個体数が少なくなりすぎて、種の存続が危ぶまれている種族のことだよ」


 私の言葉を聞いたピングドグマはしばらく無言でいた。


『どうやらあんたにはまだ、大きな秘密があるようだね』

「秘密というほどではないんだけどね。私はマリーアンヌとして生まれる前の、別の世界で暮らしていた時の記憶があるだけなんだ」

『おやそうかい。それなら見た目よりしっかりしているのは納得だね』


 あっさりとそう言われてしまい、私のほうが驚いてしまった。

 今日は驚かされてばかりな気がするのは、気のせいではないよね。

 ……じゃなくて!


「ということは、ピングドグマは私みたいな人がいるということを知っているのね」

『まあそうさね。あたしが直接知っているのではなくて、記憶の伝承で知っているだけなんだけどさ』

「へえ~。記憶の伝承なんてできるんだ」

『ああ。でもこれは同種でしか出来ないことだし、あたしはその役目を受け継いでいるから、仲間より長生きでもあるのさ』

「わあ~、まだまだ知らないことがいっぱいありそう」

『そうだろうさね。おっと。そろそろ人が集まってくるね。続きはまた別の日にしようかね』


 ピングドグマに言われて私は荷馬車のほうを振り返った。使用人たちが戻ってきていた。


「お嬢様、喉が渇きませんか。こちらにいらしてください」


 メルが木のコップを掲げながら声を掛けてきた。


『それじゃあ、またね。小さいお嬢ちゃん』

「あっ!」


 思わず声が出ちゃったけど、他の人に気づかれるわけにはいかないから、私は呼びかけるのをやめて立ち上がった。そしてメルのもとへと歩き出したのだった。


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