表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/42

2 転生した国はスゲー貧乏でした

 

「クッ!」


 思わず、転生の時のことを思いだした私は、自分の考えのなさに後悔の声をあげた。

 もう少し条件を考えていれば、もっと優雅な暮らしができたかもしれないのに。


 いやいや。

 元庶民の私に、お貴族様のご令嬢なんて荷が重すぎるわよ。

 それなら、この国に転生できたことはよかったのかもしれない。


 ……よかったのよね?


 さて、私が転生した公爵家……ではなくて、この国のことを話そうかな。


 ……いや、待って。

 そこはやはり、順番にいかないとね。


 まずはこの世界に誕生した時のことからよ。

 温かいところから狭いところを抜けて外に出て、本能からか息をしないとと思って……気がついたらほぎゃあほぎゃあと泣いていたわ。

 よく見えない目を開けて見れば、ぼんやりと灯りに照らされた金色のものが見えた。

 それから優しい声。

 誰かに……ううん、お母さんに抱かれて、その心臓の音が聞こえて安心したんだ。

 そこからまどろみの中で、優しくお世話をされる日々だった。


 グッジョブ、私。

 さすがに二十六歳まで生きた私の意識が覚醒した状態でお世話をされていたら……羞恥で死ねたかもしれない。

 三歳までは意識をはっきりさせなくて、本当によかったわ~。


 それで、三歳になって意識もはっきりしたところで、今まで見聞きしたことから、私が生まれた家はダルンフォードといって、ロアリヴィエール王国の公爵家だった、とわかったの。


 うん。これはやったね! って、最初に思っても仕方がないよね。

 だってさ、公爵家といったら王家に次ぐくらいの名家ってわけでしょ。

 準王族といっても過言じゃないじゃない。

 だから私も、神様たちがサービスしてくれたんだろうなと思ったわけよ。


 それなのに、しばらくしたら疑問が湧いてきたの。

 まず、住んでいる邸は立派と言えば立派なんだけど、なんとなく古めかしいのよ。

 いや、築五十年以上は経っているそうだから、古めかしくてもおかしくないんだけど……。

 でも家具どころか絨毯もかなりの年代物なのよね。


 あとね、貴族にありがちのお茶会だとか夜会だのや舞踏会が、あんまりないの。

 いや、ほぼ皆無と言ったほうがいいかな。

 お父様もお母様もお出かけすることがないし、うちで開くという話を聞かないからね。


 あれ~? 

 貴族ってそういう社交をしてなんぼじゃないの?


 それから……お母様がドレスを作られるのを見たことがなかったわね。

 社交が無くても最低一年に一着くらいは作るもんじゃないの?


 私は子供だし成長するからと、何度か採寸をされたけど……どう見ても誰かのお古を手直ししたものを着せられたわ。


 ある日、珍しく「お茶会よ」と、お母様に連れられて行ったのは王宮だったの。

 けど、その王宮もとても古めかしかった……わ。


 お茶会には私と同じ年頃の子供とその母親が集められたようだったの。

 そして王妃様と一緒に現れた第一王子は、私と同い年だったわね。


 これはあれよね。

 未来の王子妃と側近になるものを見据える、お見合いもどきなのよ。

 ということは、私は王子妃の筆頭候補!


 ……なんて思った私が馬鹿でした。

 ただ単に、子供たちの顔合わせと称したご婦人方のグチ満載のお茶会でした。


 出された軽食をつまみながらご令嬢方と話してみれば、趣味はポプリ作りだのハンカチへの刺繍だの。

 それも、いくらで売れるかしらと言っている。

 令息たちの会話に耳をすませば、早く大きくなってダンジョンに潜れるようになりたいと言っていた。


 えっ? 

 待って? 

 私たち五歳よね。


 少し年齢差はあるかもだけど、ここに居るのは大体八歳から四歳のはず。

 それがポプリやハンカチを売り物にするだの、ダンジョンに潜って希少な魔物の素材を手に入れたいだなんておかしくない?


 私はお花摘みと称して、そっと子供テーブルから離れ、大人たちがいるそばへと近づいてゆっくりと通り過ぎた。戻ってきた時にも同じようにゆっくりと通って、断片ながらも大人の会話を拾った。


 それらの話をもとに邸に戻った私は、お母様に聞いてみた。


「お母様、我が家……いえ、我が国は貧乏なのですか」


 直接的な言葉にお母様の頬がひくついた。


「ええ、そうよ。いつかは話さないとならないことだったのだけど。そうね。いい機会だったのよね」


 そうしてお母様が話してくれたのは、四代前に王家がやらかした話だった。

 あっ。これはお母様から見て四代前だから、私からしたら五代前になるわね。


 ◇◇◇


 いまから九十年ほど前のこと。

 やらかしたというのは当時の王太子。

 婚約者がいる身でありながら、男爵家の令嬢と恋仲になり、何を思ったのか学園の卒業式で断罪アンド婚約破棄をかましてくれやがりましたとさ。

 その婚約者がまだ(・・)我が国の貴族令嬢だったらよかったのだけど、よりにもよって我が国から見て西の大国であるハヴァス帝国の王女様だったそうなの。

 ということで、卒業式に来ていた皇帝に喧嘩を売ったことになり、我が国は賠償金やら違約金やらを支払うこととなり、到底お金だけでは足りず我が国唯一の穀倉地帯を手放す羽目になったというわ。

 それでも賠償金を払いきれずに分割で支払うことになり、完遂したのが私の生まれる二年前だったとか。


 ◇◇◇


 そういうわけで、我が国は貧乏なのである。


 ちなみに帝国が我が国を併合しなかったのは、うまみが無いから。


 ……そうなのよね。

 残された土地は作物を作るには不向きな土地ばかり。

 鉱山などもないそうだ。

 穀倉地帯を取られたわが国は、滅亡するしかなかっただろう。


 けどね。

 我が国の国民は王家を見捨てなかったのよ。

 もともとの国の起こりが、他の国から逃げてきた人たちが、開墾して作り上げた国だったそうなのね。

 その努力の結晶である穀倉地帯を取られたのは痛いけど、それでも国は残ったもの。

 流民となるよりはよっぽどいいと、国民たちは出稼ぎに行って外貨を稼いで国に戻ってきてくれたそう。


 いや、これは間違い。今でもそれは続いているそうなの。


 もちろんそれは平民だけじゃないそうよ。

 貴族も同じように出稼ぎに行っているんだって。


 知らなかったのだけど、私にはお兄様が五人いて、一番上から三番目までは国を出て働いているそうなの。


 うん。

 家族なのに何を言っているんだと思うわよね。

 でも仕方がないじゃない。お父様もお母様も隠していたんですもの。

 私は六人兄弟の末っ子で初めての女の子。

 ついでに年もかなり離れているんだとか。

 なので、お兄様たちは私のことをすごく可愛がってくれているんだって。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  あ~、賠償金ばりばり取られた後だと、厳しいですけど…。  国外に出稼ぎって…(^^;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ