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19 衝撃の事実……がいっぱい……

 

『大変だったんだね~』

『ウム。そのような事情とも知らず、この前は済まないことをした』


 ブラッキールとホワイティアは軽く頭を下げた。

 ……どうやら私が謝る時に頭を下げるので、二匹も謝罪をする時には頭を下げるものだと思っているもよう。

 人間臭く育ったのは、私のせいかしら?


『クアールとフェンリルとあろうものが頭を下げるんじゃないよ』

『ヌッ、駄目であったか』

『あんたたちは魔物の中でも最強のほうの上位種なんだよ。低級魔物である、あたしなんかにそういう態度をとらなくていいのさ』

『だが、過ちは認めて謝るものだっていうじゃん』

『それは人の世界のことだろう。あたしら魔物は強さが一番だからね』


 ピングドグマは二匹に謝罪されて落ち着かない風に言った。

 う~ん、魔物にも序列があるのかしら?


『ねえねえ、ということはさ、おれっちって、強いんだよね』

『ああ、そうさ。そこいらの魔物が束でかかってきたって、(かな)いやしないさ』


 ブラッキールは嬉しそうに小鼻を膨らませた。

 ホワイティアも尻尾をパタパタと振って、喜んでいる。


「ねえ、ピングドグマさん。この子たちより強い魔物っているの?」

『もちろんいるとも。この世界の最強の最上種はドラゴンだね』

「ドラゴン?!」


 魔物図鑑にドラゴンのことも書かれていたけど、ドラゴンは滅多に現れないらしかった。

 その体は武器防具の素材の最高級品だとも書かれていたっけ。

 ……もしかして、ドラゴンも乱獲されて絶滅危惧種になっている……なんてことはないよね。


『そのドラゴンも今では人が来ない高い山の上とか、人がこれないような不毛の地とか、絶海の孤島みたいなところにしかいないというねえ』


 うそー!

 やっぱり絶滅危惧種なんだー、ドラゴンも!


『そういうクアールやフェンリルも、かなり個体数を減らしているというよ。そういう事情でこの子たちはこの地に辿り着いたのかもしれないねえ』


 ええっ!

 そんなー!!

 ブラッキールもホワイティアも準絶滅危惧種かもしれないなんて……。


 私は知った事実にワナワナと震えてしまった。


『この前言いかけて終わったことだけど、あたしらの種族の伝承……ってやつに“魔物の楽園”というのがあるのさ。“最後の棲み処”とも伝わっていたね』

「言ってましたね。“最後の棲み処”と。それがふたりがここに居る理由(わけ)と関係があるようなことも」


 私は前回に交わした会話を思い出しながらそういった。


『そうさ。詳しく言うとね、この世界のどこかに魔物だけが暮らせる土地があるといわれていたのさ。そこは“導かれたモノ”しか辿り着けない。そこは弱者に優しい土地だ。……だったかね。あたしの先代はその言葉を信じたわけじゃないけど、それでもその言葉を信じて旅立ったというさね。そして導かれるままにこの地に辿り着いたと言っていたのさ。けど、人がいないはずのこの地には人がいるじゃないか。伝承はただの言い伝えでしかなかったと思ったそうだよ。けど、あんたの話ではここに居る人も行き場を失くした者たちだったというじゃないかねえ。それならこの地に辿り着いてもおかしくなかったんだろうさ』

『……ピングドグマが導かれたのというのはわかる。だが、我らも導かれたというのはおかしいのではないか?』


 ピングドグマの言葉にホワイティアは疑問を持ったようで、そう言った。


『そのことだけど、私は逆にあんたたちから聞いた話で、ここに導かれたと確信したのさ』

『どこがなのさ?』


 ブラッキールもわからないのが悔しいのか『ムー』と呻りながら言った。


『まず、クアールだけど、あんたは歩くことは何とかできるくらいに幼かったんだろ。それこそまだ母親から乳をもらっていたはずさ』

『ウー』


 ブラッキールほ低く呻って思い出そうとしているようだ。


『どうなんだい、お嬢ちゃん』

「えっ? 私?」

『ああ、そうだよ。そいつは幼くて覚えていないかもしれないけど、世話をしていたというのなら、あんたは覚えているんだろう』

「あー、そういうことね。うん。ブラッキールを保護してしばらくは牛の乳を与えたわ」

『やはりね。そうなるとやはりおかしいのさ。あたしはその頃にはこの地に居たんだよ。どれだけ離れていたって、この見渡せる範囲なら強い魔物が居ればわかるのさ。だけど……あんたたちで言う……二年前くらいかい? その時に急に強いマナを感じて、だけど、それは徐々に弱くなっていくのがわかったのさ。そのあと、それとは違う弱い力……それでもあたしより強い力を持った魔物が居ることがわかったね』

「えっ、それって……つまり、ブラッキールとお母さんと兄弟たちは急にこの地に現れたというの?」

『たぶんそうだろうね。それにクアールが何に襲われたのかも、なんとなくだけど分かっているさ』


 ピングドグマの言葉にブラッキールはカッと目を大きく開いた。


『だれなんだ! おれっちの母親と兄弟を()ったのは!』

『こらこら。殺気を出すんじゃないよ。いくら認識阻害の魔法を掛けているとはいえ、殺気までは消せないんだからさ』

「認識阻害?」

『それについてはまた説明するよ。いいからクアール、落ち着きな。それに相手がわかっても簡単に相手を倒しに行けないからね』

『そう言うということは、簡単にはいけぬ場所に居るということか』

『ああ、そうさ。クアールがもともと住んでいるのはここより南の密林……だったはずさ。海を越えないといけないところに、翼を持っていないあんたがどうやっていくんだい』


 そう言われたブラッキールは『グッ』と呻いて地面へと目を向けた。


『それにある意味仕方がないことなのさ』

「仕方がないってどういうこと?」

『それはそいつの父親がそのあたりの(かしら)だったから起こったんだろうさ』

『父親?』

『頭の世代交代だって言えばわかるかい? つまりそういうことさ。そいつの父親が倒されて、倒したやつがその血筋が居るのが嫌で母親と子供たちを襲ったんだろうね。けど、何が作用したのかこの地に招かれた。母親と兄弟は残念だったけど、それでもあんたは生き残ったからね』


 私たちは言葉もなく虚空……というか目の前の野ばらを見つめた。

 衝撃が強すぎる……。


『フェンリルも似たような理由だろうね。あんたは群れからはぐれて彷徨っていたというけど、本当はわざと置き去りにされたんだろうさ。あんたは幼かったけど、大きくなれば群れを率いるくらいになれたんだろう。それを疎ましく思ったやつにわざと置き去りにされたんだろうね』


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