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17 荒野に行く理由が出来ました!

 

「えーと、それで……なのだが、四日前にマリーアンヌは私たちが話を聞かない……というようなことを言っていただろう。そんなことはないと思うのだが」


 お父様は言いにくそうに聞いてきた。

 私はそれに答えずにお父様のことをジッと見つめた。


「マリーアンヌがポプリに使う花を探したかったのは分かるが、今の時期荒野に花は咲いていないだろう」

「ええ。そうですね」


 私はそうだったと思いだして頷いた。


「それなら、荒野に行く理由はなかったのではないのかい」

「いいえ、お父様。私は別の物を探しに行ったのです」

「別の物?」


 私は後ろに控えるメルを見た。

 メルは心得たように脇に置いていた本を、私の前のテーブルへと置いてくれた。


「この本はここより東のほうの国のことが書かれたものです。そしてこの中に、すごく興味深いものがあったのです」


 私は本を捲って目的のものが書かれたページを開いた。

 そしてお父様たちへと本の向きを変えた。


「ここにお茶のことが書かれています。あちらではお茶の葉にいろいろなものを足して楽しんでいるようですね。そしてこの中に、バラの実を加えたお茶があったのです」


 お父様は本を持ち上げて私が言うところを探し出そうとした。

 横からお母様も覗き込んでいる。


「だから、この野ばらの実でも、同じように作れないかと思ったのですわ」


 私はピングドグマが持たせてくれて、メルがコップに入れて萎れないようにしてくれていた野ばらの実も、テーブルの上に乗せた。

 お母様が手を伸ばして、その実を手に取った。


 ◇◇◇


 私はピングドグマからローズヒップティーの話を聞いた時に、どこかで見た気がしたのよ。

 邸に戻り熱を出して動けなくなった私は、どこで見たのか思い出そうとしたわ。


 というより、他にやることがなかったからね。

 ヒントはピングドグマが言った“東の国”

 だからメルに図書室から東の国のことが書かれたものを持ってきてもらったの。

 でも私が探すまでもなく、メルが見つけてくれたのだけど……。


 ◇◇◇


「これは……もし、この実が使えるのであれば……うまくすれば高額取引ができるのか?」


 お父様がそう呟きました。

 お父様はお母様へと本を渡し、件の部分を指さします。


「まあ。お肌にいいと書かれていますわね。もしこれが本当のことでしたら、欲しい女性の方はたくさんいらっしゃいますわ」


 お母様の目がキラリと光った気がします。

 本は執事長、侍女長、騎士長からいつの間にか部屋の隅に居た、侍女、侍従たちへと渡っていきました。


 本を読んだ人から順番に、みんなの目がキラキラと輝いていきます。


「でもお父様、私は困ってしまったのです」

「困ったって、どうしてだい。マリーアンヌ」

「この本ではお茶にバラの実が入っていると書かれていますけど、そのバラの実はどういう状態で入っているのかわからないのです。お茶の葉は乾燥しているので、バラの実も乾燥させるのだと思うのですけど……。それに果物などの実は色づくと食べごろになると教えてもらいました。このバラの実はまだ青々としています。ということは熟していないということで、食べごろではない……つまり使えないのではないでしょうか」


 私の言葉に大人たちは困った顔をして、見合わせました。


「あの、お屋形様、発言してもよろしいでしょうか」


 侍女の一人が恐る恐る声をあげました。

 お父様は侍女に頷いて許可を与えました。


「私の伯母はロンタール国の商家で働いております。それで、時々いろいろなものを送ってくれるのですが、数年前にこのようなバラの実が入ったお茶を送ってくれたのです。とても珍しかったので覚えていたのですが、お嬢様がおっしゃる通り実は乾燥しておりました。そして色はオレンジがかった赤い色をしていたと記憶しております」

「ということは実は熟してから収穫するのが正解ということか」


 お父様は一つ頷くと執事長へと目を向けました。


「誰か、植物に詳しいものはいるか」

「それなら庭師を呼びましょう」


 呼ばれて応接室に入ってきた庭師はお父様たちを前にオドオドとしています。


「そなたに聞きたいのだが、バラの実はいつ頃色づくのだろうか」

「バラの実ですか。えー、とー、確かそろそろ色づいてくるころだったと、思います、です」

「そろそろとは?」

「は、はい。正確にはわかりかねますが、もう十日もかからずに色づいてくるのではないかと。なにせ、お天道さま次第ですからなー。ここんとこ、夜はよく冷えるようになってまいりましたんで、十日と言いましたがそれより早いかもしれん……ないです。はい」


 庭師の言葉にお父様は「そうか」と言いました。

 庭師を下がらせると騎士長に言いました。


「領地の見回りに行く時に、野ばらの様子も見るようにしてもらえるか」

「はい。それぐらいでしたら、駆けながらでも大丈夫でしょう」


 どうやら騎士の方は毎日領地の見回りをしていたようですね。そのついでに確認することが決まりました。


 ◇◇◇


 その日からの二日間はそわそわと過ごしたわ。

 もちろん厳重に見張られたために邸から一歩も外に出してもらえなかったけど。


 ……というか、ただでさえ令嬢というのは動かないのに、このままじゃ運動不足になってしまいそう。


 さすがにブラッキールとホワイティアまで閉じ込めるわけにはいかないから、二匹には交互に邸の外に出て貰ったの。

 ついでにピングドグマと会えないかと思ったんだけど、ピングドグマは姿を現さなかったそうよ。

 それどころか匂いもしなかったというわ。


 たかが二日。

 されど二日。

 二日目の午後の見回りで少し色づいた実を見つけたと報告があった。

 なので、翌日に邸の人総出で荒野に行くことになったの。


 私?

 置いていかれそうになったけど、ブラッキールとホワイティアから離れないことを条件に、荒野に行く許可がでたの。


 ◇◇◇


 というわけでピングドグマと約束した七日後です。


「うわ~」


 馬車から下りた私は緑の間に見える朱色に見入った。

 あっちにもこっちにも、あそこにもここにも、数限りなく赤くなった実が見える。


「まあ、すごいわ」

「本当だな」


 お母様とお父様も馬車から降りて感嘆の声をあげた。

 今日のみんなの服装は……汚れていい服装です。

 いや、汚れというより、野ばらの棘で服が破れても困らないものにした……です。

 みんなは手に手に手提げの籠と小さなハサミを持っているわ。

 ハサミがない人は鎌? かな? そういったものを持っているわね。

 小型のナイフを持っている人もいるの。


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