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13 正しい守護契約

 

 ピングドグマの言葉にブラッキールは目を輝かせた。

 ホワイティアは半眼にして、(すが)めるようにピングドグマのことを見た。


『擬態……そんなことをしなくとも、我はこのままでよいわ!』

『それじゃあ、この子が困るだろうよ』


 吠えるように言ったホワイティアに対し、ピングドグマは冷静に返した。


『マリーが困るなどと……』

『あのねえ、フェンリルであるあんたはまだまだ幼体なのさ。つまりもっと大きくなるんだよ。今はまだ少し大きな犬で通るだろうけど、さすがにいまの二倍や三倍の大きさになっても、犬で通せるなどと思ってやしないよね』

「えっ? フェンリルって、そんなに大きくなるの?」


 私は魔物図鑑に書かれていたフェンリルの項目を思い出そうとした。

 フェンリルは“森の王”と呼ばれるオオカミの上位種だ。

 そして一番大きな個体でも五メートルぐらいの大きさにしかならないはず。


 ……なんだよね?

 もしかしたらこれは誤りということなのかしら?


 ううん。

 先程からピングドグマが話していることは全部本当のことだと思う。

 それならホワイティアがこのまま成長するのならば、十メートルを超える大きさになるのだろう。


 うん。

 それだとホワイティアが犬だと言い張れないよね。


『普通の場所ならそこまでの大きさにはならないだろうさ。だが、ここでは……ねえ』


 ピングドグマはそう言ったあと、視線を邸のほうへと向けた。

 つられて私もそちらへと目を向けて……人の姿……が、辛うじてわかるくらいに近づいてきていることに気がついた。


『思ったより早く来そうだねえ。それだけあんたのことを大事に思っているのかねえ』


 ピングドグマは優しい声で呟いた。

 それから声の調子を戻して言った。


『さて、本当に時間がないようだね。とりあえず、正式な契約の仕方を教えておくよ』

「それって、何かを必要とするんですか」

『別にモノは使わないさ。ただ、さっきも言ったが、契約時にはごっそり人のマナを持っていくからね。やる場合には慎重を期すんだよ。』


 ピングドラムの言葉に二匹は頷いた。


『まあ、そういっても契約自体は簡単さ。守護契約を結ぶ者の正式な名を呼び、その者が名付けた名前を受けいれることを明言するだけさね。例えばだけど、我はマリーなんちゃらの名付けし“ブラッキール”の名を我が名とすることを承認する。……とか、我は“ホワイティア”の名を与えし、マリーなんちゃらと守護契約を結ぶことを認める。……などかね』

『おい。マリーなんちゃらとは失礼だろう』

『そうだよ!』


 ピングドグマがブラッキールとホワイティアの名前を入れて例を挙げてくれたのに、二匹にはそれが気に食わないようで、またも噛みつくように言った。


『はあ~、お前達、ちゃんと説明を聞いていなかったのかい。ここであたしがその子の名前をちゃんと言ってしまったら、間違ってあたしがあんたたちの名前で契約することになってしまうかもしれないじゃないか。そんなこともわからないのなら、この子のためにも正式な契約はするんじゃないね』


 ピングドグマはまたもヤレヤレというように前足を動かした。

 そしてゆっくりと立ち上がると、私へと話してきた。


『あたしはこれで消えさせてもらうよ。これ以上近づかれると、あたしの姿を見られるからね。でも、まだあんたは知りたいことがあるんだろう。だからこの実が色づく七夜後に会おうじゃないか』


 そういうと、ピングドグマは私へと野ばらの枝を差し出してきた。

 私は手を伸ばして受け取った。

 ピングドグマが言うように枝には緑色の丸い実がついていた。


「ありがとう」


 お礼を言いながら実からピングドグマへと視線を戻した私は、目の前に居たはずのピングドグマが消えてしまったことに驚いて目を丸くした。


「消えた?」

『見事なものだな。気配が感じられないとは』

『でも、匂いはするよ』

『それは我らだからわかるのだ。人には解らぬだろう』

『そうかな?』

「えっ? ピングドグマは居なくなったんじゃないの?」


 二匹の言葉に私の口から疑問が滑り出た。


『違うよ~。多分さっきの場所からほとんど動いてないと思うな~』

『そうだな。姿を隠す……いや、相手に認識されにくくする魔法を使ったようだな。匂いから判別すると、先ほどの位置から体一つ分移動をしたくらいか?』


 それだと、三メートル先に居るということなのね。


『やれやれ。無粋なことをお言いでないよ。あたしは人に姿を見られたくないだけなんだからさ』


 私たちの目の前から三メートルくらい先に移動したのかと思ったら、横……それも邸寄りに三メートル移動したとは思わなかった。

 それくらいの位置から声が聞こえてきたのよ。


『頼むから、もうあたしに話しかけるんじゃないよ』

『話しかけても答えなきゃいいじゃん』

『それこそだよ。うっかり返事をしてしまって、気配に敏感な人に見つかってしまったらどうするんだい! あたしにはあんたたちと違って役目があるのに、それを途中で放棄させるようなことをさせるんじゃないよ』


 ピングドグマの言葉に、私は少し考えてしまった。


 ピングドグマの懸念もわかるから。

 魔物図鑑に書かれていた“モモンスラーの繭”

 それはモモンスラーを倒したドロップ品だという。


 で、ここに彼女が居るということは、倒す倒さないにかかわらず、繭があるかもしれないということで。

 ということは、邸の人間にバレたら、この荒野を捜索しかねない……というわけだ。

 “モモンスラーの繭”は高級品だもの。

 それが手に入れば……一気に貧乏を脱却できるかもしれない!


 そんなことを考える人がいないと限らないわ。

 なら、お父様たちに気づかれないようにした方がいいだろう。


『と、ところでさ、マリー。その、おれっちと……契約をしてくれないかな?』

「……えっと?」


 そんなことを考えていたら、ためらいがちにブラッキールが話しかけてきた。


『そのさ、おれっちっちも知らなかったことだけど、守護契約? ってえものを、仮! に、結んでるんだろう。それなら、今後のためにも、本当の契約にしたいんだけど……駄目かな?』


 ブラッキールは体を伏せて私より低くなると、見上げるように見てきた。

 小さい時にされていた懇願の目に、私の理性はグラリと揺れた。


「えーと、ブラッキール? でも、今すぐにしなくても大丈夫みたいよね。それなら、邸に戻ってからにしない?」

『今がいい!』

『我の勘もそう言っている。我とはあとでいいから、ブラッキールと契約を済ませてもらえないだろうか』


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