富士子編 91 オリジン1
シーン91 オリジン1
墨色の紙袋の横に置いたスマホを手に取り、電源を入れるが、当然のことながらバッテリー は飛んでいた。充電しながら電源をONにする。
現れたトップ画面は、透けるような青空に飛行機雲がくっきりと一筋のった写真だった。初めて会ったあの日の空だとわかる。また一つ心を打たれて、痛んだ。
スマホに生まれた西暦の下2桁と誕生日を打ち入れる。セキュリティーは解除され、1枚目には2つのアプリしか無く、既存のアプリは2枚目にまとめてあった。
1枚目に戻して、2つの内の一つをクリックする。
2枚の写真が映し出され、1枚は水色のノースリーブワンピース を着て、口元を右手の指先で軽く覆い、屈託なく、おおらかに笑っている私の写真だった。このワンピースは確か・・・5月の子供の日、商店街で行われたイベントに浮子と行った日に着ていた。
もう1枚は棒倒しの日に宗弥が撮った写真だった。彼はわたしの横顔を見ている。あの時、わたしはあなたの笑顔が眩しくて、宗弥が構えるスマホに視線を移して、あなたの笑顔から逃れた。
もう一つのアプリをクリックする。ヘンリー・ウェステンラが歌う“アメイジング・グレイス“だった。 彼女は荘厳と歌う。
そうだ この心と体が朽ち果て
そして限りある命が止まる時
私はベールに包まれ
喜びと安らぎの時を手に入れる。
やがて大地は雪のように解け
太陽が輝くのをやめても
私を召された主は
永遠にわたしのものだ。
何万年経とうとも
太陽のように光り輝き
最初に歌い始めた時以上に
神の恵みを歌い讃え続けることだろう。
彼を、要さんは無神論者だと思っていた。
今日という日を泣き尽くし、胸を張って会えるように、
明日から、生き初めよう。
愛をありがとう。




