富士子編 90 手紙
富士子さん、作戦に入る前に僕たちはこのような手紙を書きます。
すまない。こんな手紙を、あなたに残したことを許して欲しい。
この手紙を受け取ったあなたは不思議に思うだろう。
今思えば、あなたの存在を知った時から、
僕はあなたに惹かれていた。
あなたを連れて逃げ出したかった。
しかし、僕には、この国を守るという強い信念があります。
2時間後、作戦行動に入る。
無事でいてくれ。今はそれを願うばかりだ。
勝手だが、あなたを愛した男として言っておきたい。
富士子さんこの先、人生に何が起ころうとも、
あなたは僕が助けた命だ。
身体は魂を入れる器に過ぎないが、大事にしてほしい。
人生を楽しみ、慈しみ、生きるという魂の修行をあなたらしく、探究心を持って生きてほしい。
今という現実を受け入れ、生き永らえてほしい。
過去に囚われてはならない。
絶望を見つけようと思えば、いくらでも見つかるこの世界だが、あなたの聡明さに訴える。
環境の奴隷になるな。
虚無に流されてはいけない。
天命、尽きるまで懸命に生き抜け。
僕は笑って静かに征く。心配するな。
あなたが人生を全うしたその日に、また会おう。
あなたを知って人生は豊穣だと知った。ありがとう。あなたにさよならを言えるのは天の恵だ。
今、あなたに会いたい。話をしたい。顔が見たい。できれば、青い睡蓮を一緒に観たかった。
尾長 要
これも勝手だが、あなたに僕のスマホを託す。解除番号は、あなたが生まれた西暦の下二桁と生まれ月と日にちにしてある。




