富士子編 76 それぞれの帰還
シーン76 それぞれの帰還
富士子の治療は
心身ともに困難を極めた。
どこかのある場所に、富士子は極秘入院している。
初段階の診察後、医師は国男と浮子に監禁時、思考を奪うために投与されていた薬品が馬の鎮静に使用される劇薬だった為、今後、脳へのダメージが予想されると、使用者の悪意を感じる投与のあり方だと語った。
右頬の打撲痕は赤黒腫れ上がり、グラついていた右奥歯は診察中に抜け落ち、右の肋骨は下から3本にヒビが入っていた。医師は完全に折れていたら内臓が損傷していたとも言い、左手首の裂傷は完治後も傷跡を残すだろうと国男と浮子に告げる。
その診断を聞いた国男は激高し、卒倒しかけて医師を慌てさせた。浮子は気丈にも「わたくしに出来る事は、なんでしょうか?」と医師に聞き、「まずは、恐怖心を払拭する事です」と教えられた浮子は、用意された宿舎を辞退して病室に泊まり込み、24時間、富士子のそばに居ようと決心した。
富士子の救出作戦は闇夜の深い新月を待って発動され、拉致されてから3日後の00:00にアルファーは新潟分屯基地より、作戦行動に入った。
貨物船に潜入してから、わずか24分での任務完遂であった。
なお、本作戦中、アルファーチーム・チーム長・尾長要は所在不明となる。
救出された富士子は貨物船のヘリポートから要の希望通り、高高度対応・特戦群所属ステルスヘリによって、この病院施設に搬送された。広い外洋の何処で敵が探知・傍受しているかわからないと考えた要は、追撃の可能性への備えとしてステルスヘリの運用を願い出た。
富士子は病院に運び込まれてから3日間昏睡し、4日目の朝、薄く目を開け、顔を覗きこんだ浮子の顔を見て微笑み、「ここにいますよ」という浮子の声を聞いて、安心したようにまた眠りに入り、その日の夕方、再び目覚めた。ベットの脇に椅子をおき、富士子の顔を見ていた国男の顔を見て、富士子は大らかに笑いかける。
だが、富士子には国男の右手を吊る補助帯が、なんの為の物かがわからなかった。富士子はベッドから身体を起こそうと国男の手を求め、「わたくしが」と言った浮子に、国男は「いや、いいよ」と返して、痛みを押して富士子をベットから助け起こした。
父の顔を見た富士子は大きく笑い「 パパ、ふじちゃんはいいこにしてるよー。心配しないでください」と言って、国男にしがみつき「パパ、こわかったよ。ふじちゃん、がんばってたの」と泣きだし、目覚めた富士子の言動に国男の顔色はみるみる間に蒼白になり、言葉を忘れ、富士子を抱き止めたまま石像のように固まった。
泣き笑う富士子は「ねぇー浮ちゃん。ふじちゃんは、いつもいいこなんだよね」と浮子に同意を求め、浮子は絶句したものの「そうですとも、穣ちゃま」と言った。
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・医師でもある宗弥は施設内の限られた空間で富士子の看病を続ける国男と浮子を支え、本陣との連絡士官として施設内に留まっていた。だが、宗弥は本陣からの指示で富士子とは面会不可となっている。生還後の富士子の容体を宗弥は認めきれず、要の所在不明にも責任を感じて途方のない自責の念を抱え、屈折する心を持て余しながら、悶々とする日々を送っていた。
・宗弥の父であり、国男の第一秘書の樽太郎は会長不在の会社経営をそれまでの仕事に加えて、一手に引き受け激務の日々を送っている。
・特殊戦群アルファーチーム 所属ファイター、トーキー、チャンスの3人は、それぞれが負った負傷を押して要を捜索するため、現在、香港に潜入している。
・コロンブスの指示の元、ターキーは本陣別室に篭り、今作戦時、使用した軍事衛星をフル活用して香港に潜入した3人の後方支援を続けている。
・富士子を誘拐した組織は瓦解したが、スパルタンとサヤは行方不明だ。Bは海で溺死しているのをマグロ漁船に発見された。
・日本国と拉致を指示し、組織を支援していたユートピア国との間で非公式での会見が持たれ、今回、起きた事件の詳細は両国の間で極秘扱いとなった。言うまでもないが、公式文書での謝罪を求めた日本政府に対して、ユートピア国は遺憾以下の言葉を述べるに留った。
・政界とのパイプを持つ国男の耳にとある議員が支援・援助を受けているユートピア国の意向を聞く為に、秘密裏に渡航したという情報が入る。この議員は海外支援・助力委員会の議長席に収まっていたが、国男は策を練り、その席から引きずり下ろした。
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入院15日目、病室の角に立った富士子は入室して来た国男の顔を見るなり「パパ!ふじちゃんおうちにかえりたいって!、ふじちゃん、ここ、きらいなんだって!!パパ、おうちに帰ろう!!!」と言って、地団駄を踏み、泣き乱れ、国男はその姿を見て帰宅を決心する。
その翌日の13時、退院する富士子の病室を宗弥は本陣の指示に反して尋ねた。
自分と会って富士子がどう反応するか、宗弥は恐れていたが、心が限界だった。宗弥の姿を見た富士子は「そうちゃん、大きくなったねー」と少女のように言い、幼女の足取りで走り寄って、宗弥を童女のように抱きしめた。宗弥はやはり、今の富士子を認められないまま、迎えの車までエスコートした。
車の前に立った中田に富士子は「なかたさん、おむかえありがとうございます」と言うなりペコリと頭を下げ、「お久しぶりでございます、お嬢様。ゆっくり参ります。ですが、ご気分が悪くなられましたら仰って下さい 」と言った中田に、富士子は「ふじちゃんね、お薬飲んだからだいじょうぶなのねー」と言って、いそいそと後部座席に乗り、浮子は富士子に合わせて助手席に乗車した。
富士子は窓を開け「そうちゃん、またねって!!ふじちゃん言ってるよ!!ありがとうって!」と大きな声で言い、その様子を見ていた中田は目頭を押さえ「お聞きしていたのに、申し訳ございません」と右隣に立つ国男に頭を下げて謝罪する。
国男は決意に満ちた目を富士子に向け「頭を下げんでいい、まだ治療の途中だ。必ず、富士子を取り戻して見せる。心配するな 」強い意思が現れた声で毅然と言った。
走り出した車から身を乗り出して「バイバイーー!」と手を振る富士子に、宗弥は涙をこらえ、BIGな笑顔で「富士子ーー!会いに行くからな!!元気でいろよ!!」と言いながら、懸命に手を振って見送った。




