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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  71 サヤとスパルタンの逃走 2


  シーン71 スパルタンとサヤの逃走 2



 「急げよ!ほら、しっかりかつげ」と言った石橋は、ていの右肩にのる絨毯じゅうたんを左手で支えていた。丁は意外にも大きな身体をふらつかせ、一歩ずつヨタヨタと進む。



 その歩調に「ガタイだけの奴め。開けるから待ってろ!」悪対応の石橋は隣に停まっている白のアルファードのバックドアを開け、丁は絨毯をなかば投げるようにしてトランクにんだ。



 いまだワゴン車の助手席に座るBはため息を吐き、サヤに振り返って「降りて」4度目だった。サヤは「お腹すいたわ。何か買いに行かない?」と不機嫌だけを深めて返す。Bは「女の面倒見るの、もう、うんざり。時間が無いの。言われてたでしょ。ほら、早く降りてよ。隣りの車に乗るのよ、bitch」とサヤを急かす。



 サヤはアルファードに乗りながら「the anus 」と毒ずく。




 石橋の左隣りに座ったサヤが「ボタン押して、ドア閉めなさいよ」と丁に言い、丁は操作を間違え、それを見ていたサヤはさっそく「違う!あかりつけてどうすんのよ。馬鹿なのー。ほんとうんざり。どうして一回で覚えないの。あなた中国人よね。大陸育ちでしょーー、もっと向上心あると思ってた。あなた、バカすぎるーー、大志たいしなさすぎーよー」と丁にあきれ、サヤはドアを閉めた。それを待っていたかのように丁はアクセルを踏む。どっちもどっちだ。



 サヤはトランクスペースを見るや「息してんのかしら?」と石橋に聞くが、警察無線に熱中している石橋の注意は引けず、サヤはしらけた目で車窓を眺める。紺碧の空を見上げて、へーぇ、空って・・こんなに綺麗だったっけ・・・・なんだか、違う世界みたい。そうか・・私は・・私の道を・・・・走り始めたからか、これからは自由!!と史上最高の気分を味わうが、ギラつく太陽が顔にあたって陽光から顔をそむけ、道理どうりはんした私は太陽に叱られたとサヤは感じ、時を無駄にごし・・・人に使われてきた・・・チキショウ・・・・なんなのよと思う。見ていなさいと思い立ったようにサヤは座席から立ち上がる。




 トランクスペースに移動したサヤは絨毯のはしを左手でつまみ上げ、内をのぞき込むと、かろうじて見えた富士子の顔に「痛かったよね。富士子」慈愛じあいに満ちた声で言うが、その口調とは裏腹な表情には反省のカケラもなく。




 ぼんやりとした目で富士子を見つめ「あんたの友達、あっ、あんたの友達って、私だったけか・・。ねえ、同じ講義を取ってたIQ140のあの馬鹿女覚えてる?あたかもまともなこと言ってるようで、実は無責任で、我関われかんせずで、傲慢にも物言ものいだけは上からだったわよね、あの馬鹿女。その馬鹿女がね、私があなたの顔だったら私は世界征服できたのにって、私に言ったでしょう、覚えてる? まぁ、今の私はこんなんだけど、あそこまで自分のことわかってない女では無いのよ。今の私は自覚してるだけ、あのバカ女よりはマシだと思ってるわ。あの女が私にそう言った時、あの女の言葉の意味をよく考えるわけでもなく、サヤは可愛いもんねって富士子いったよね。あの時も、それまでも、そのあとも、それからも・・富士子はいつもそうだった。ただ、私を見てただけ。だから私も今回富士子がこうなるのを見てただけー」サヤは清潔感のある右手で富士子の顔にかかった髪を左耳にかけてやる。



 「ねえ、富士子、あの馬鹿女どうなったか知ってる?起業して、借金3000万円背負って行方不明になったわ。生きてんのかな。人を言葉でまどわす毒蛇にはつかわしい天罰よね。IQがあるからって無意味な言葉で人を傷つけた罰よ。まっ、その起業をそそのかしたのは私だったんだけどね。無意識っていうのが、何事も一番たちが悪いわ・・・。富士子、私、5億もらって人生を生き直すの。今、私はとても自由よ」感傷的にではなく、悲観的にでもなく、されど高揚感は無く、サヤは、ただ、ただ、平凡に話しかけていた。




 「おっ、高速隊に緊急出動が掛かった。これで奴らは足止めだ。丁、パンダが出てくるぞ、法定速度遵守しろ」と石橋が指示すると、丁が「パンダ?」とつぶやき、聞こえた石橋は「パトカーだよ!!」興奮真っ盛りで怒鳴る。助手席のBが「もう、これで大丈夫」小躍こおどりしながら石橋に振り返り、「かな?」と、座席の下から衛星電話を取り出している石橋に聞く。目ざといBは「それ!衛星電話でしょ!そんなもんまで持ってんの⁈」と驚き、石橋はBを見ると山羊の目を細め「まだ、お前の知らないことが沢山ある」おどかすようにそう言って、電話を掛け始めた。



 “衛星電話“と聞きつけたサヤはすっかり富士子に対して興味を無くし、石橋から奪う方法はあるかしらと考えながら座席に戻った。そして素知そしらぬ顔で石橋の会話に聞き耳を立てる。





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