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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  55 タクシーの車内

  

  

   シーン55 タクシー車内


 

 富士子を先に乗せた要は音もなく、大きな身体を俊敏しゅんびんに富士子の隣に滑り込ませて「けやき坂、ハイアットまでお願いします」 と運転手に伝える。その様子を見ていた富士子は脳からの伝達よりも早く、動作が始まっていると思う。



 尾長さんのシナプス小胞を研究してみたい。遺伝子が欲しい。赤い目で自分を見ている富士子に、「何かありましたか ?」と要が聞く。富士子は「尾長さんは気持ちと身体のどちらが先に、動作を始めるんですか?」と聞いた。苦笑した要は内心で日頃の生活の中でも、液体デイバイス研究に+になる事ばかりを考えているのかと、この女性ひとらしいと思いつつ苦笑を微笑ほほえみに変えて「僕の中に見つけたんですか。綺麗なお姉さんが落ち込んでいるように見えたので、何かありましたかと聞いたんですが」と言った。富士子は右手で口を押さえた。


 「いい事ですよ。あなたが研究に夢中なのは国益につながります。それに今泣いたカラスが笑顔になった。あなたはどんな時も、笑っていてください。落ち込んでいた原因は何ですか?」と要は聞き直す。


 微笑を浮かべた富士子は「はい。笑顔でいます」と答えて俯く。どこから話したらよいかと考えているうちに、右手の親指の付け根を左手の親指の爪先で押し始めていた。要は富士子の両手をやんわりと左手で包み「いけません」と言った。「あっ」と暗がりに溶け入る声で言った富士子が要を見る。視線を合わせた要は「どこからでもかまいません。辻褄つじつまなんてどうでもいい。心を軽くする為だけに話せばいいから」と言うと左手を離した。富士子が「会長が、」とつぶやく。



 「父が突然、明日の朝、軽井沢に転移すると言い出したんです。私にも軽井沢に同行する様にと命令口調で言って。私の仕事はこれからが正念場です。製品化しながら、倫理面も慎重に検討してゆかなければなりません。時間が足りないこんな時期に私の予定も聞かず、何の相談もなく、勝手に、私を1ヶ月も軽井沢に連れて行くと決めたんです。今だに私の意思を尊重しないと腹が立ったんです。私は大人です。それもいい歳の大人です」、「綺麗なお姉さんは自立している綺麗なお姉さんですもんね」と要が軽口を挟むと、富士子は非難がましい目で要を見る。その顔を見た要は吹き出しそうになりながら「怒ったあなたの顔はねた子供のようになるんですね」と言った。


 

 頬を膨らませた富士子が「確かに私はあなたより年上です。素直さも欠けています。研究しか知らない子供大人です」と不服そうに言うと、要は「今度はヘソを曲げたな」と晴れやかな声で言い、富士子は「もう、ちゃんと話を聞くって言いましたよね」とむずかるように言い返し、「それであなたはどうしたんですか?」と精悍せいかんな笑い声で聞かれた富士子は「それで嫌悪を撒き散らして、病室から飛び出して来たんです」と富士子はやや投げやりに言った。「そうでしたか」と言った要は前を向いて腕組みをする。富士子が要の表情をうかがうと、要は「綺麗なお姉さんは今、反抗期なんですね」と普通に言い、富士子は「違います!」と瞬発力を発揮して抗議する。




 私の顔を見た尾長さんがニンマリと笑う。

 



 私はなんだか、父に対して怒っているが馬鹿らしくなってきた。確かにそうだ、反抗期。中2病、父への反抗心、浮子への不満、そんな色々を怒りでしか跳ね返せない私は…。もう少し寛容かんように話せば父の態度も変わったかもしれない……。歩みよる。それが出来ていたら…。泣きそうだ。



 尾長さんが「生きるは修行です。色々あります」と言った。




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