表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
42/92

富士子編  42 浮子の来訪


  

   シーン42 浮子の来訪



 黒のロング丈ワンピースにジャージ素材のCHANEL風・ホワイトカーディガンを羽織はおった浮子は、つま先立ちになりながら右手に持った白チョークを使って、拭き清められた黒板の左サイドに自宅の軒先を真似まねて大きく描く。



 その軒先に大小のテルテル坊主が手をつないでいる絵を描き、ニコちゃんマークの表情を描き入れる。テルテル坊主を白チョークで丁寧に塗りつぶしてゆき、完成させた浮子はチョークを持ったまま、三歩下がって出来栄できばえをチェックする。浮子の表情に晴れやかな笑みが浮かぶ。



 オフィスに駆け込んで来た富士子は浮子の姿を見て「なに描いてるの?」と時が止まったままの姿で聞いた。



 黒板を見たままの浮子は「お嬢様と私です 」と答え、振り返って「お約束の時間は、とうに過ぎております」教師が不出来な生徒に言うような口調で言い、手に持ったチョークを振り下ろして勢いよく 跳ね上げた。


 その仕草を見た富士子は✔ だと思い、「待たせてごめんなさい」言い訳せずに頭を下げる。



 浮子は黒板に向き直って赤色チョークに持ち替え、富士子であろう小さなテルテル坊主の頭に、蝶結びのリボンを描き加えた。

 


 Bが発見した突然変異体は異物が混入した粘菌が、毒素を産生したものだった。



 人体に機能障害を起こし兼ねないと判断した富士子は、迅速に行動を起こして加熱処理した。サンプルとして保存を主張したBに、富士子は「害をなすとわかっているものは、いりません」と即答した。防護服を着て作業に入った富士子を、機密室のガラス窓越しにBは憮然ぶぜんと眺めていた。



 赤色に染まってゆくてるてる坊主のリボンを見て、富士子の緊張が溶けてゆく。Bがこうを急ぎ、自慢してくれて良かったと思う。もし、黙って増殖させていたら・・・職員の死亡事故が起きていたかもしれない。外部流失などあったら・・・・考えたくもないが、盾石科学の信用は失墜しっついしただろう。



 デスクで帰り支度を始めた富士子が「今日のお重は何にしたの?」と聞く。



 黒板の右上に太陽を描きながら「今日は少し両の親指が痛みまして、肉じゃが、だし巻き、ほうれん草のお浸し、鶏肉の豆板醤炒め、酢飯に椎茸、人参、 筍、干し大根を混ぜまして、錦糸卵と桜でんぷ、千切りしたスナップえんどうを散らしたちらし寿司に致しました」と浮子が答えると、富士子はごくリと喉が鳴りそうになった。



 浮子が作るちらし寿司は絶品で、富士子の100点満点の好物中の好物だ。


 

 デスクの上に置いたままになっていた私物を手早くバックに入れ、チェアに座って急いでフラットシューズから、ハイヒールに履き替える。浮子の視線を感じた富士子が顔を上げると、浮子と目が合い、浮子は口元に笑みを浮かべて左眉を上げた。



 その表情を見て、富士子の眉間にVの字のシワが入る。浮子といい、Bといい、研究所の職員といい、ただのフラットシューズになぜ、こうも反応すると思うが、理由は富士子が1番よく分かっていた。



 要との思い出と富士子は共にありたいのだ。わかりやすい女だと人は笑うだろう。だか、それでもいいと富士子は思う。まぎれもなく、私は今、恋している。カルミナ・プラーナの“ おお.運命の女神よ“ のごとく。恋をしている。



 その恋路が過酷かこく辿たどると、富士子はまだ知らない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ