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富士子編 40 花弁の感傷
シーン40 花弁の感傷
手にしていた紙袋を芝の上におき、富士子は薔薇の花びらを指先で撫でる。ベルベットのような感覚が、好きでつい触ってしまう。浮子には「花が痛みます」と嫌がられるが、富士子はこの感触が好きだった。
そうしながら、今日の日を思う。こんなにも感情が動き、思うがままに話して、人目を気にせず行動したのはいつの日以来だったろうと。蒼空から降ってくるような陽射しの中、男性2人に連れられて見知らぬ街に行き、青春を発露する競技を観た。
犬歯を見せて笑う人。
時として区分線ができ、繭のような隔たりを作る人。
心中を読むかのような眼差し。
富士子はあてどなく、要を想う。
あなたに会うまで、私の人生は単純だった。
この気持ちをなんと呼ぶのだろう。私は知らない。
花びらを撫でながら、夜空を見上げる。
新月の夜は暗く、雲もなく、漆黒の闇に星が輝いていた。
富士子は自身に問う。“どうしたらいいの“と。