富士子編 4 母の墓
シーン4 母の墓
母の墓前に、私は立っている。
12歳になった朝、約束通り浮子は話してくれた。母は私を出産した直後に大量出血を起こし、そのまま還らぬ人になったと。
父は母の死を悲憤し、失意のあまり3ヶ月間、自室に籠り切りになったという。面差しが変わるほどに体重を落として、仕事に完全復帰までに時間を要したと。
そこまで聞いて、私は怖気ついた。
それほど父が大切に想っていた母を、私が奪ったと考えれば身震いが出た。だから・・父は・・私を愛してはくれないのだ。いつも氷のような目で私を見る。笑いかけられた事もなければ、2人で出かけた事もない。父は私を恨んでる・・わたしは浮子の話に身を凍らせた。
怯え、言葉を失った私の様子に浮子はそれ以上は語らず、今も口を閉ざしたままだ。
国男と富士子と浮子の間では、母、久美子の死は勿論、生前の有り様などを語らないのが家族のルール、暗黙の了解のようになっていた。
触れてはならない。母の死は、今も富士子をカオスに落とす。
母のお墓は法事の後ということもあって、掃き清められていた。墓前とは思えない豪華な花が供えてある。毎年こうだ。富士子はその花々を見て父は例年通り、自ら選んだのだろうと推察する。
色とりどりの花の色合いがその色の数だけ、父の気持ちを代弁しているかのようで、見ていて心が痛む。
線香を供え、墓の前に座って両手を合わせる。乳香が香る中、富士子は「ありがとうございます」と呟いた。