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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  39 浮子さんのお弁当

  

 

   シーン39 浮子さんのお弁当



 二つの紙袋を手にした浮子は、要と宗弥を笑顔で出迎えた。



 なごやかな浮子は要に一つ紙袋を差し出しながら「口に合うかどうかわかりませんが、どうぞ」と手渡し、宗弥には「リクエスト頂きました、卵の肉巻きとだし巻き卵の巻き巻き弁当でございます」とたおやかな言って手渡すと、2人を見上げ「ご飯はおにぎりにしてあります。中に昆布と明太子を入れました。表面に白胡麻がまぶしてあるのが昆布で、海苔が巻いてあるのが明太子でございます。本日もお嬢様がお世話になりました」と言った。



 要は「いえ、お弁当ありがとうございます」と言いながら、どう対応すればいいのかがわからず、心苦しさを覚えた。母に、増しては赤の他人の女性に手作り弁当など、作ってもらったことがなかったからだ。



 宗弥は早速、紙袋をき込んで「美味しそうなにおいだ」と言うと、顔を上げ「浮子さん、流石です。ありがとうございます」と言った表情には、今すぐここで食べたいと思う気持ちが現れていた。



 浮子は「ありがとうございます」と宗弥に言って、富士子を見ると「嬢ちゃま、たのしゅうございましたか?」と聞いた。富士子は浮子の呼び名に顔をしかめる。



 すると、浮子が「ああ!そうでした。ご相談したい事があると西浜先生からお電話を頂きました。嬢ちゃまが明日の何時頃に、病院にいらっしゃるかお聞きでしたよ。西浜先生にご連絡してください」と言って浮子はハッとする。小さく恥じらい、要と宗弥に「思いついた時にお伝えしときませんと、最近、うっかり言い忘れてしまいまして、失礼致しました」と恥ずかしそうに言い訳した。



 宗弥はぶっ飛び笑顔を見せ「浮子さんもそうなの!俺なんかしょっちゅうですよ」と言って、要に「なぁ」と同意を求め、要は「そうだな、迷惑してます」と調子を合わせたつもりで言ったが、宗弥の「その答えは浮子さんに、気をつかわせるだろう」と言うのを聞いて、今度は要がハッとする。そして浮子に「すみません」と謝った。天をあおいで目をくるりと回した宗弥は要を見るなり「謝ってどうするよ。認めた事になるだろうが、謝るなよ」と呆れ声でツッコミ、浮子の所在なさげな様子に、2人の間に進み出た富士子は「今日もありがとうございました」と頭を下げる。



 「ああ!そうでございました。楽しゅうこざいましたか?嬢ちゃま」とむし返した浮子に、富士子は「あとで話すわ」と微笑んだ。



 要も宗弥に「車を路駐したままだ。僕達もおいとましよう」と言って富士子と浮子に頭を下げ、宗弥を待たずに門に向かって駆け出し、「おい!置いてくな」と要を見送った宗弥も走り出し、振り返って「浮子さん、お弁当ありがとう。富士子、またな」と言いながら手をブンブンと振って、要のあとを追いかけた。 門前で立ち止まった二人はそろって向き直り、ピシリとした鉄背で45度の挨拶をする。



 二人の姿が見えなくなっても門を見ている富士子に、「お嬢様」と浮子が声をかけ、富士子は「先に入ってて、お茶を飲みながら、話すわ」と言って庭へと歩き出し、薔薇が咲き誇る鉢の前に立った。



 浮子は音を立てないよう玄関ドアを開け、物思いにふける富士子の背を見ながら静かにドアを閉めた。






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