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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  37 海軍カレー



  シーン37 海軍カレー



 都内までの移動時間を考えた宗弥は富士子に食事をさせておきたく「国防大学に来てこれ食べなきゃ、もぐりでしょう」と出店の看板を指差して提案した。その一言に警護するファイターは素早く反応し[送る。ファイターからフレミング、至急、都内へ移動されたし]と内耳モニターに入れる。



 聞こえていたはずの要も「そうだよな。確かにまだ、昼食べてないもんな」と言った途端に、[お前は治療だ。イエーガー]と怒りのファイターから飛んでくる。



 チラリと要を見た宗弥は海軍カレーの成り立ちを富士子に説明し始め、要は歩調をゆるめて振り返り、行き交う人並みにまぎれたファイターを見つけ[送る。イエーガーからファイター、落ち着け。チャンスと合流したか?]と聞く、ファイターから[ああ]と入ると、前を向いた要は[見事な変装ぶりだったろう]と言った。ファイターは[試行錯誤の甲斐あって別人になってたよ。声をかけられるまで気づかなかった]と感無量の思いで答えた。



 その情感を聞いた要は[だよな、チャンスは成長したよな。ファイター、宗弥とお前、チャンスと僕だ。4人で富士子を警護している、最強だ。富士子は電車移動も覚えたようだし、帰りはチャンスが使ったミニで都内に戻る。心配するな。それに食事をさせないなんて、男のすることじゃないだろう?]と言った。ファイターは[確かに、男のすることじゃないな]と思わず言ってしまい、うまく説得された感にやられたとファイターの口元が笑う。



 海軍カレーを3つ注文したあと、要と宗弥はどっちが支払うかでめ初め、要が「だったら、ジャンケンにしよう!!」と勢い込んで言うや、「おお!」と宗弥が受けて立つ。2人の顔付きは真剣で、見ていた富士子は内心で“小学生なの?“と呟き、宗弥が「ジャ」と言った瞬間に、富士子は二人の間に割り込んで「連れてきて頂いたお礼に、私に払わせて下さい」毅然きぜんと言った。



 そして絶対にゆずらないという表情であごを上げ、細めた目で2人の顔を交互に見る。その顔を見た要と宗弥は聡明そうめいにも「ご馳走になります!!」ピシリとする声をユニゾンさせ、首を頷くように下げて謝辞しゃじを表す。



 カレーが盛られた紙皿を手にした3人は、出店でみせ前にある折り畳み式テーブルに横並びで座った。


 

 具の人参、ジャガイモ、牛肉はゴロリと大きく、富士子は浮子が作るカレーに似ていると思い、浮子に見せようとスマホで写真を撮った。宗弥もスマホを取り出し「富士子さ、手にカレー持ってこっち向け」と言って、3枚撮影して速攻浮子にLINEする。



 大盛りの白米を見た富士子は食べ切れないと思い、宗弥の皿に白米を移していると、要が「水をもらって来ます」と言いながら席を立った。富士子は「あっ、すみません」と頭を下げる。「気にせず、先に食べ始めて下さい」と言った要に、「はい」と返事をした富士子は“尾長さんはいつも水を気にするなあ“と考えながら、立ち去る要を見送っていた。その横顔を見ていた宗弥は「要は訓練中に、脱水で倒れた事があるんだ」と言った。



 「自由に水飲めないの?」と聞いた富士子に、「そういう時もある。体調を気にかけるのも仕事の内ってことさ」と言った宗弥は、スプーンに白米をこんもりとのせ、ルーをすくって口に入れ「いつ食事が出来て、いつ寝れるか、分からない仕事なんだよ。俺たちの部隊は」と陽気な声でそう言い、富士子を見つめ「お前も寝食を忘れて研究するだろう。今は食べる時。ほら、早く食え」曇りなき笑顔で笑う。



 3つの紙コップを両手で挟み持ちした要が、食べている富士子に「味はどうですか?」と聞きながら富士子の右隣に座る。「お先にすみません。お水ありがとうございます。浮子が作るカレーに似ていて美味しいです」富士子の満足げな口調に、要は「よかった」とのびやかに返す。 要も宗弥も一口の量が多く、あっという間に食べ終わり、富士子は当然、そのペースについてゆけるわけもなく。手を合わせ「ご馳走様でした」と言って水を飲み干した要はチラリと富士子を見て、食べるペースがトントンと上がったのに気づき、食べている富士子に満足しながら「慌てないで、ゆっくりでいいですから」と声をかけた。



 ほっぺたを膨らまし「はい」と返事した富士子に、要が「観戦は楽しめましたか?」と聞く。うなずいた富士子は「はい。私、棒倒しって、あんなに荒々しい競技だとは思っていませんでした。どこを、どう見ていいのかわからなくて、目が付いていけなかったです。それに音に驚きました。格闘技の音、走る音、息づかい、何もかもがじかに聞くと生々しくて。ですが、高揚感を感じました」と弾む口調で話し、要は「肉弾戦にくだんせんは原始の戦いに近いですから、気性がき出しになるんです。富士子さんは戦いの本分を見たんですよ」と言い、富士子は「そうですね。感情的なのに、理性も共存していました。献身と仲間意識、自己犠牲、懸命、努力、観ていて感動しました」と感想をかさねる。



 要が洞察の鋭い人だと思いながら富士子を見ていると、宗弥が「掴み合って引きずり下ろして、飛んで、蹴って、叩き落とす。力半端ちからはんぱないから、たまにズボン脱げたりもする」、「えっ!そうなの。そうなったらどうするの⁈」富士子は口に運ぼうとしていたスプーンを止めていた。宗弥は「スプーンを止めるな。また、食が細くなってるぞ。食べながら聞け。そうなったらなったで、気にせず続行するんだ。まっ、競技中はそっち方面には、全く気がいかないんだよな、要」と言って、ニンマリ顔を要に向ける。



 「やめろ」と言った要を無視して、宗弥は「赤パン丸出しで、棒を倒した奴がここに居る」と言い、ため息をついた要は「縁起を担いでの赤パンだ。お前だって穿いてたろう」、「俺はズボンいでない」、「けたんだ」と要が返したのを聞いて、富士子は頬を染めて黙々と食事に戻る。2人の会話はいつも思わぬ方向に進んでいく。赤パン、って・・下着よね・・。



 海軍カレーを食べ終わった富士子が「浮子にお土産を買ってもいいですか?」と聞き、要は「もちろんです」と答えて、3人はグッズ売り場に移動した。富士子が土産を選んでいると戸口近くに立った宗弥が、ズボンの後ろポケットからスマホを取り出して会話しながら店の外に出て行った。



 校章入りのチョコレートクッキーを購入した富士子が外に出ると、要は紙袋を富士子に差し出し「カレーのお礼です。勉強になりました」と真顔で言った。「えっ、勉強って?」と戸惑う富士子に、要は「いえ、冗談です。たいした物ではありませんが、受け取ってください」と紙袋を手渡した。「ありがとうございます。 拝見してもいいですか?」、「どうぞ」と応えた要は宗弥に「どこで待ち合わせだ?」と聞き、宗弥は「駐車場」と短く返す。



 遠慮がちに紙袋の中をのぞく、戦車のスマホストラップと黒Tシャツが入っていた。Tシャツの背中一面には白字の楷書かいしよ体で「男は黙って痩せ我慢」と印刷してあった。尾長さんの不自然な真顔、カレー、勉強と思い返した富士子は、代金を支払った時の自分の態度を思い出す。しまった(・_・;



 その顔を見た要は少年のように快活な声を響かせて笑う。我慢できなくなった富士子も太陽のように笑う。その二人を見た宗弥が「なんだ。どうした?」と紙袋の中をのぞき込んで、Tシャツを手に取って広げ「俺の座右ざゆうめい。俺、このTシャツ宝物にしてる。まだ売ってたんだ」夢見る声で感激して富士子を見た。



 正門に向かって歩く富士子に「帰りは車で帰るぞ、こっちだ」と宗弥が背中を丸めて言い、「車⁈誰の?」と富士子が聞くと、宗弥は「そんな細かい事、気にするな」と言ってそそくさと歩き、駐車場に着くと正門に迎えに来ていた青年が、ミニクーパーの前で待っていた。


 要は青年から車のキーを受け取り「ありがとう。優勝おめでとう 」と祝福の言葉をかけ、顔に感無量をほとばしらせた青年は鉄背を作り「ありがとうございます」張りのある大きな声で頭を下げた。顔を上げると清々しい笑顔で「ご声援、ありがとうございました」と伸びやかに言い、微笑ましくその姿を見ていた宗弥は「これからり歩きだろう。ありがとな、もういいよ」と声をかける。「はい」と答えた青年は身体を反転させ、駆け足で去って行った。



 青年を一心に見送った要は宗弥に向き直るや「どっちが運転するか、ジャンケンで決めよう!」と言い、「運転と言ったら俺だけど。よし、わかった。真剣勝負だ!」と宗弥は叩きつけるように言い返し、軽く開いていた左右の足をそのまま前後に踏み直して「いいか!」と声を張る。要は「 ああ!!」とおうじて、宗弥の「最初は、グ、ジャンケンポン!」のかけ声がトルコ石のような空に響く。



 「俺が勝った!!」宗弥がガッツポーズで天をあおぐ。すぐさま要は「いくらだ?」と涼しく返して、車の後部ドアを開け「乗れ、宗弥」 とうながした。



 宗弥が「勝った方が、運転するんじゃあなかったのか?俺が勝ったんだぞ!」と抗議するが、要は「ケツ持ちはするが、男の後ろに乗るのは僕の流儀に反する」有無うむも言わせぬ態度だ。



 宗弥は「本当、頑固が服着てるような奴だ。言い出したら聞かない。お前がジャンケンで決めようと言ったくせに」ブツブツと言いながら後部座席に乗り、すぐに「富士子、乗れ」と言い、隣の座席を左手でバンバンと叩く。富士子は“聞かないのは宗弥も一緒でしょう“と思いながら隣に乗り、要は富士子のシートベルト装着を待って、音もなくドアを閉めた。「あっ、ありがとうございます」と言った富士子を要は見ていた。窓越しのその目はどこか他人行儀で、富士子はまた要から予測不能をもらう。



 運転席に乗り込んだ要は道順を記憶していたが、何かあった時のために、例えば3人が3人とも消息不明になった時、ファイター達が消息を追えるように、チーム全員が姿を消した時、本陣の手掛かりになるように、自分たちの最後の痕跡がナビに残るよう富士子の自宅住所を入力して、ルートを辿たどれるようにした。mapでターキーが見ているであろう、車内カメラもONにする。



 終えた要は、ゆっくりと車をスタートさせた。




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