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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  36 棒倒し  決勝戦

 


  シーン36 棒倒し 決勝戦



 第一大隊✖︎第二大隊の決勝戦が始まるまでの間、富士子は宗弥から棒倒しの色々をレクチャーされた。一戦ごとに緻密な作戦があること。作戦によって、個々の特性に合わせた役割分担があること。教官から爪を切るよう指導があること。ラグビー用のヘッドギアを着用していること。終了の号令がかかったらどんな状況でも動かず、その場で手を上げること。



 そして、キラキラした目で「これからが1番大切な事だ、いいか、富士子。勝利を勝ち取るために真摯しんしかつ、心を熱くして戦うこと。大隊の名誉にかけてだ」宗弥は最後の一章をより熱く語った。『名誉』『男臭い』『勝利』『 Victory of manly honor(男らしい名誉な勝利)』は、ハリケーン宗弥のもっとも好む分野だ。



 初戦を何も知らずに観戦した富士子は、決勝戦が待ち遠しかった。



 ・第一大隊 ✖ 第二大隊 決勝戦



 決勝戦の開会を告げるアナウンスが入ると「よっしゃ」、「よっしゃ」と声を掛け合いながら第一大隊の赤Tシャツと、ホワイトTシャツの精鋭150人、第二大隊の青Tシャツと白Tシャツの精鋭150人がけ足で、2万人強の観客が見守るグラウンドに入場して来た。各大隊の最後尾には太鼓、ドラム、シンバルを手にした音楽隊や、選手の補佐係、応援学生が付いている。



 大隊ごとに左右に分かれグランドを半周すると、互いに整列して向き合った。前に出た総長同士が握手を交わし、相手大隊への挑発をふくむエール交換が始まった。闘争のエールに、開場のボルテージが一気に上がる。



「決勝戦を開始する。位置つけ」淡々とした教官の号令に、逆に闘志を高められた各隊は色Tシャツと白Tシャツに分かれ、黙々とそれぞれの準備に入った。開場の熱気も徐々に緊張へと変わり、固唾かたずを飲むものに変化してゆく。


    

 位置についた各大隊の総員は口を真一文字に結び、気持ちを集中に変え、高め、保ち、号令の時を待つ。粛然とピストルの音が鳴る。決勝戦の火蓋ひぶたが切られ、怒涛どとういくさが始まった。



 第一大隊の応援団の太鼓、ドラムロール、シンバルが一斉に鳴り響く、初戦よりも高らかに。三拍子のテンポを奏ではじめ、第一大隊攻撃部隊はその音に合わせて、4列縦隊のままサークルに突入する。サークルの手前で2列ずつ分かれたかと思うと、途端とたんに「お!、お!、お!、お!」と原始的な声を発し、サークルの周りをグルグル走る、走り続ける。



 音がピタリと止まった。2拍置いてそれぞれの楽器が同時に、1度、鳴り響く。それを合図に取り囲んでいた内側の1列がサークルへと凸して円をしぼり、棒を守る敵防御を捨て身で押さえ込み、スクラムを組んだ。

 


 残った1列が2歩遅れて突入し、同じようにスクラムを組む。2重のスクラムを第二大隊の殲滅せんめつキラー5人が、死に物狂いで引きがしに掛かった。



 2人が次々とスクラムの内に埋もれ、残る3人はスクラムから出てきた第一大隊の遊撃人と、1対1の格闘戦で足止めされ、キックボクシングなのか、柔道なのか、相撲なのか、メチャクチャに取っ組み合っている。



 スクラムに参加していない攻撃4人が四方で構えていた。音楽隊のシンバル担当者の隣で見ていた偵察班班長がスクラムが敵の防御陣を固め切ったと見るや、頷き、シンバルが一打大きく打たれ、4人がサークルへと走り出す。4人は味方スクラムを足がかりにして縦に飛ぶ。4方向から攻める敵に、猿は必死で対応するが手数が足りない。



 宗弥が「決まりだ」とつぶやいた瞬間、棒の角度がかたむき始め、かたむいた方向のスクラムがれ、神速で棒に取り付いている仲間の足腰にぶら下がり、棒への負荷を強固にする。


 

 棒につかまる3人のうちの1人は敵の防御人に掴み掛られながらも、宙に浮く腹筋と背筋の力で両足を前後に振り始め、1人は棒に抱きついて圧をかけ、少しでも傾きを助けようとし、一人は猿の攻撃を一手に引き受けていた。

   


 棒のかたむきがツッと一瞬静止して、一気に陥落かんらくする。



 富士子は攻撃部隊の一糸乱れぬ、団体殲滅だんたいせんめつ戦に息を呑む。






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