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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
31/92

富士子編  31 男たちの・・・。



  シーン31 男達の‥・・。



  横須賀中央駅のホームに電車が停車する。宗弥は眠る要の左肩をやんわりと右手でつかみ「要、次の堀ノ内で降りるぞ」と言いながら、ゆっくりと揺り動かした。要はスッーと目を開け、ぼんやりとした表情で宗弥を見た。おい!要?と思いつつ宗弥は「どうだ?」と短く聞く。



 「大丈夫だ」と答えて要は富士子の肩に頭が乗っていたと気づいて、心がクッキリと動きだす。どおりで画像がたてなのか…。ゆっくりと頭を戻す。俊敏しゅんびんに動いて富士子を動揺どうようさせたくはなかったし、余計な事を考えさせたくもなかった。



 富士子から力が抜けた。それに気づいた要はすいませんと思いながら、両肩にかかっていた宗弥の上着にそでを通す。その様子を見ていた宗弥はスタミナ充電完了と受け止め、4つ折りにして持っていた要の上着を手渡した。



 「ありがとう」受け取った要は視線のはしで、富士子が見ていないのを確認しつつ、着ている上着の内側に受け取った自分の上着を入れ、着ている上着の上から右肘みぎひじで右脇を圧迫する。大丈夫だという視線を宗弥に送り、宗弥は頷いた。



 富士子の横顔を見た要は「肩をお借りしてすみません。熟睡できました」とすずやかに言った。”天気がいいですね” とでも言うかのような要の口調につられた富士子は「よく眠れて良かったです」と屈託なくそう言って、あっ…、と気づく、もっと言いようがあったと。



 天然なのかと思いながら「はい、とても。ありがとうございました」全てを溶かし、破壊するような笑顔を返した要は、ストレッチパンツの後ろポケットからスマホを取り出して確認する。いつの間にかに眠っていた。穏やかな死とはこんな感じなのだろうか。いつの日か迎えるであろうその日もこうありたいと願いつつ。



 総員にてた宗弥のメッセージを読んで、笑いそうになった。宗弥の必死さが見えた気がしたからだ。チャンスからは医療道具の準備完了と、ファイターはこちらに向かうと、トーキーとターキーからは駅構内と、その近隣道路の監視カメラ映像をハッキングして奪取し、分析に入ったと来ていた。



 要は強襲された時を思い出しなから“敵の特徴を取り急ぎ送る。ナイフの軌道から身長170㎝前後だと思う。中肉の男の手だったが、白く手入れが行き届いていた。白ワイシャツの袖口を確認。アイロン無しの洗いざらしだった。凶器の形状は弾道ナイフに似ていたが刃渡りが足りない。手製なのかもしれない“ と打って送信する。



 メッセージを読んだ宗弥は、要からの情報を悔いる気持ちで頭に刻んだ。



 堀ノ内駅に到着して3人は電車を降りる。要の足取りはいつもと変わらなく富士子は安堵あんどした。要は前をゆく宗弥に「ここからタクシーだろ? 」少し声を張って聞き、振り返った宗弥は「だな。俺もさ、久しぶりの電車で疲れたよ」と言って足を早めた。



 改札口へと続く階段にたどり着く頃には、宗弥は駆け足になっていて、あっという間に姿が見えなくなった。



 富士子は宗弥が要のために走ったとわかった。宗弥は尾長さんを気遣きづかっているのだ。宗弥のそういう気遣いの仕方は、昔から変わらない。一見、豪快ごうかいでガサツに見える宗弥は実は恥ずかしがり屋で、優し過ぎて、誤解をまねいてしまう。気づく人にしかわからない宗弥の献身は、樽太郎さんに似ている。



 隣を歩いている尾長さんが「宗弥の馬鹿野郎」とつぶやいた。私はハタと尾長さんの顔を見る。尾長さんはまばたきもせず、私の顔を見て「宗弥は僕の男気を傷つけました」と、さも心外という気持ちを隠さない喋り方をして、「男気って ?」と聞くと、「確かに僕は貧血を起こしました、ですが男は誰の前でも、いや、男の前では特に、かっこよくありたいものです。男に気を使われるなんて最悪です」と言った尾長さんは思春期男子のようで、私は思わず笑いそうになったが、耐えた。



 「今、僕を子供っぽいと思いましたよね。どうぞ綺麗なお姉さん、我慢せずに、存分に僕を笑ってやってください」と言って笑わせようとしたが、気配を感じて僕は振り返った。



 富士子の前に立ち直した要は「頼む、じっとしててくれ」と富士子に命じるように言い、要の緊張が富士子にも伝わって富士子は要の視線をたどる。



 視線の先には黒のキャップ帽をかぶり、白ワイシャツに、薄緑色のジャンバーを羽織はおった50代半ばの男性がこちらに向かって走って来ていた。要の精神は加速度的に研ぎまされ、逆に身体は弛緩しかんし始める。右脇腹を押さえていた上着に要は左手を伸ばす。防具に使うつもりだ。



 男は富士子たちの前を足早に通り過ぎ、ホームを掃除している駅員を見つけて走り寄ると「今出た電車の網棚に忘れ物をしたんですけど、どうしたらいいですか⁈」と慌てた様子で聞いた。



 尾長さんの横顔を私が見ると、尾長さんは「そうです。僕は今ビビったんです。後ろから追いかけられるのが苦手なんです。また、綺麗なお姉さんに笑いのネタを提供した」と自笑気味に言った。私の口角が震え出す。私の顔を見た尾長さんは「どうぞ綺麗なお姉さん。その綺麗な口を開けて、おおいに笑ってやってください」とねたように言い、その様子は可愛らしく、無邪気で、私はこらえ切れずに笑い出してしまった。



 笑う富士子は自分の周りにいる男性は仕事としての顔しか見せない人ばかりで、無機質むきしつで、植物的で、個性に欠け、自分の立場や利益だけには敏感で冷たく、鼓動を感じないと思っていた。感情豊かに言動する男性といえば宗弥だけでと考えて、自分は宗弥を男性として見ていないと改めて気づく。家族に近い感覚しか持っていないと。


 逆に隣を歩く尾長要という男性の言動は面白く感じ、複雑な男性心理は推測不能で興味をかきき立てられてしまう。宗弥と尾長さんの雰囲気は似ているのに。富士子は要の横顔を見た。



 改札を抜けようと尾長さんにプレゼントされたカードを、パネルにタッチする。電子音がピッと鳴り、ストッパーが開いた。液晶画面にご利用料金730円、残金2270円と表示された。3000円。お返しに無関心になろうと思えば、良心を無視できる額だ。富士子は要をもっと知りたいと思う。



 駅前に出ると、宗弥がタクシーを停めて待っていた。宗弥は「先に乗ってろ、富士子」と言い、富士子は2人を見ながらタクシーに乗る。宗弥とボソボソと話し始め要は富士子の視線を感じ、振り返って「お待たせしてます」と言った。


 その2分後、宗弥は富士子の隣に要は助手席に乗車した。「国防大学までお願いします」と言った要の声を聞いて、富士子は2人の母校が最終目的地だったと知る。





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