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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
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富士子編  25 慌ただしくも


 


  シーン25 慌ただしくも



 富士子は全速力で走っていた。死に物狂いで。スポーツは得意じゃない。っていうかMAXの運動音痴だ。球技をすれば突き指するし、縄跳びに入るタイミングがわからない。完全なるノーコンで、テニスは空振りばかりして、ドッチボールは真っ先に狙われ、宗弥が喧嘩する原因を作った。



 それなのに!息を切らせて走る羽目になってる!!サヤが言ってた。「富士子って、なんだかんだと災難を呼び込むよねーー、そういう運命なのかも、まずはさ、生活にこだわろうよ」と、その通りだわ、サヤ。そう思いながら富士子は最速で走っている。



 もうーー!、髪、邪魔!!!



 走りながら肩までの長さの髪を、ポニーテールにまとめようと両手でかきあげた。左手首の黒ゴムに右手の人差し指をかけようとした瞬間、身体のバランスが崩れて前のめりになった。あ!ぶない!!と心が叫ぶ。つんのめりながら!足が勝手にダッダアンとタタラを踏む!!!



 危なかった!!!アスファイルトに顔からダイブするところだった!ヒヤリとした心持ちが富士子の迂闊うかつさをなじり出す。荒い呼吸を整えながら富士子は “落ちついて“と心に念じた。



 今朝は時間通りに起きた。支度もとどこおりなく済んだ。前夜に服を選んでおいたから。でも、財布が見当たらず、えーっ!!と探しまわって、前々日のトートバックの中にあるのを見つけ、そこで時間をロスした。今日から帰宅したらただちに、財布をベットの左側にあるサイドボードの上に置くと固く誓った。それでも富士子は、まだ巻き返せると思っていた。浮子に駅までの道順を尋ねるまでは。



 「駅の出入り口は3つございます。A1、A2、A3のどちらでございましょうか?」と浮子に聞き返され、“えっ!“となった。どういうこと⁈ 駅への出入口が3つもあるの!!



 「えっーと、A2!」勢い込んで答えた。浮子は「宅から一番遠い地下鉄の出入り口でございますね」と言って、すまし顔をニヤッとさせ「ようございますか、お嬢様!」と挑むような口調で言い、浮子にのせられた私は「はい!」パリッと答えた。



 そんな富士子の素直さが浮子は好きだ。



 聞いた浮子は左眉を上げ「門を背にお立ちになって右に行くと、2つ目の角を、あっ、山田様の家の塀が途切れた所の角でございますよ。その角を右に曲がって真っ直ぐ行きますと、商店街に出ます。商店街に出ましたら左に曲がって、右にじゃございませんよ、左です。左に折れると坂になっています。その坂には名前がございまして、“なげき坂“と申します。その嘆き坂を下った先に、地下鉄大江戸線、牛込駅A2出入り口がございます」と一気に説明した。



 「門を出て右折、山田さんちが途切れたら右折、商店街を左折、嘆き坂を下る」シンプルにして復唱すると、つまらなそうな表情になった浮子は「左様さようでございます」とつれなかった。


 富士子は思う。浮子はたまに、こういう悪戯心を出してくると。それも急いでる時に限ってと。


 いじわるだと思いながら「行ってきます。帰りは多分夕方過ぎになります」と早口で言い、中途半端に頭を下げて玄関へと急いだ。今日の為にAmazonのお急ぎ便で注文したNIKEの黒ベースに、ピンクのスウッシュが入ったヴェローナを、せわしくいて玄関から飛び出した。


 盾石富士子さん、あなたはOUTです。もうすでに今、待ち合わせの時間となりました。完全に、絶望的に、完璧にあなたは遅刻です。



 富士子が家を出てから、心の友ブルーが『みぎ、チコク、ひだり。ひだり、遅刻。みぎ。フジちゃんちこく』と大きな声ではやし立てながら、パタパタと左右へ走り回っている。



 呼吸を整えながら富士子は両手でザクザクと髪をまとめ、ポニーテールにするや「落ち着いて」と今度は声にする。



 大きく息を吸った富士子はめげる事なく、スタートした。

 


 ランナーのごとく。




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