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国守の愛 第1章      作者: 國生さゆり  
23/92

富士子編  23 チラつく


  

   シーン23 チラつく



 父は水を理由に、私を病室から追い出した。 事故の経緯を知られたくないのだ。


 なぜ?


 理由を考えている富士子の脳裏に、要の破壊的な笑顔がチラつく。ああ、もう、今じゃない・・!立ち止まった富士子は、身体を前屈ぜんくつさせて頭を左右に振る。地面に要の笑顔を振り落としたつもりの富士子だったが、もちろん、そんな事ができるわけもなく、笑顔は居座ったままで、鎮めようと大きく息を吸って吐いた。


 スマホが鳴る。


 あまりのタイミングの良さに富士子は「わぁ!」と声を上げ、誰かに見られてる?と周りを見回したが人影はなく。鳴り続ける右手のスマホ画面を見た。ウィンクした宗弥が満面の笑みで、私の肩に右腕を回して引き寄せている写真が映し出されていた。高校1年の文化祭の時に撮った写真だ。



 宗弥はこの写真を、自分のスマホに保存していた。久しぶりに会った私が、機種変更したのに気づいた宗弥は「ロック解除して、ちょっと貸せ」と言い、「いやよ!」と拒否したが、「お前のことで、俺が知らないことはない。大丈夫だ」妙な自信を持った宗弥はBIGに笑った。もうーーっ、その自信はどこから来るのよと思いながら、言い出したら聞かない宗弥に、ロック解除してスマホを差し出した。



 宗弥は左手に持った私のスマホに、右手にある自分のスマホから、この写真を送信して左手の親指を器用に使って、自分から着信した時に表示されるように設定した。受け取った私に宗弥は「こうしとけば、安心して出れるだろう」と大らかに笑った。着信音がなる度に私が緊張するのを、宗弥は知っていた。



 ON表示をスライドして「どうしたの?」と聞く。「富士子、今どこだ⁈」いきなり聞き返され、「もう病院の前まで来てるよ。あと5分くらいで病室に戻れるわ」と説明する。「水、外に買いに行ったのか?病院の自動販売機に水くらいあるだろうに。危ない事するな」固い声で叱るように言われ、ムッとする。



 「会長の好みの水は、置いていないの」つっけんどんに言い返す。「そうだったか、ごめん。ところでさ、俺たちいま正面玄関前にいるんだ。話がある。来てくれないか?」宗弥のあらたまった声に、事故のことだ!と富士子は思った。



 スマホから雑音が聞こえて「もしもし」と問いかけると、「尾長です。綺麗なお姉さんは今日も美しいハイヒール履いている。転ぶといけません。急がないでください。僕らは暇です」と尾長さんが言った。「あっ、この間はありが」と言ったところで、声は宗弥に変わり「僕らは暇です。じゃあな、富士子。またすぐ後で」と言うや、宗弥は一方的に電話を切った。



 微笑を浮かべた富士子は、歩調をいっそう早める。




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